県警本部に戻った高野内たちや真由子は、岡山市内のホテルで、一晩過ごすことにした。
 そして、翌日、2月24日土曜日、高野内たちは、岡山県警本部の会議室で、捜査に関する話し合いをすることにした。
 もちろん、真由子や、妹尾警部、難波、近藤警部、真野も来ていた。
 昨夜、西住伸吾から預かった写真は、順番どおりに、ホワイトボードに貼られた。
 1枚目から3枚目は、福岡市内で撮影されたものだが、3枚とも、時計がバックに写っているほか、1枚目と3枚目には、伸吾自身も写っていた。
 4枚目には、電気機関車に牽かれた『はやぶさ』が写っていて、機関車の車番も鮮明である。機関車は、ED76という赤色の電気機関車で、九州内の交流電化区間のみ走行できる車両である。
「その写真、21日から22日にかけて撮影されたんじゃなく、それよりかなり前に撮影されたんじゃないかしら?」
 真由子は、冷静な口調だが自信ありそうに言った。
「佐田警視、確かに、その可能性も視野に入れたほうがいいと、僕も思います。4枚目の『はやぶさ』の機関車については、車番がはっきりと写っていますので、西住伸吾が撮影したといっている日に、その番号の機関車が『はやぶさ』の運用についたかどうかも、調べてみたいと思います」
 と、高野内。
 5枚目と6枚目は、A寝台車の個室内の写真である。
 7枚目は、博多駅の駅名表で、8枚目は、小倉駅の駅名表である。
 9枚目は門司、10枚目は下関、11枚目は広島、12枚目は福山、13枚目は岡山の、各駅の駅名表が写っている。いずれも、夜に写したもののようだ。
 どの写真も、日付が入っている。
「ホームの駅名表なんか写して、何のつもりでしょうか?」
 江波が、写真を見ながら言うと、
「その列車にずっと乗っていたというアリバイを強調するためしか考えられないな」
 と、高野内。
「西住伸吾が乗っていたという『はやぶさ』の時刻を確認しましょう」
 と、窈子が言うと、真由子は、
「そうね」
 と言いながら、時刻表を開いた。
 そして、
『博多 17:37発』
 と、ホワイトボードに書いた。
「『はやぶさ』は、博多を出た後、次の小倉に、18時41分に停車して、42分に発車するわ。そのあと、次の門司には、18時49分から19時15分まで停車よ」
 と、真由子は言いながら、
『小倉 18:41着
    18:42発

 門司 18:49着
    19:15発』
 と書いた。
「門司駅の停車時間が長いですね」
 と、窈子が言うと、
「ええ。門司で、大分方面から来た『富士』号と連結して、『はやぶさ』『富士』の2つの列車が、1つになって、東京に向かうからよ。あと、機関車の付け替えもあるんじゃないかしら」
 と、真由子。
「門司を出たら、関門トンネルくぐって、次の下関ですね」
 と、高野内が言うと、
「ええ。下関には、19時22分の到着で、27分に発車するわ。ここでも、機関車の付け替えがあるはずよ」
 真由子は、そう言いながら、ホワイトボードに、
『下関 19:22着
    19:27発』
 と、書き込んだ。
 下関を出た『はやぶさ』『富士』併結列車は、宇部、新山口、防府、徳山、下松、柳井、岩国、広島、尾道、福山、岡山の順に停車する。
 真由子は、停車駅と、到着、発車時刻を、次々と、書き込んだ。
「『はやぶさ』号が、岡山に到着するのが、0時46分だから、もう鴨井圭は、死亡したあとよ」
 真由子が、時刻表のページに目を向けながら言うと、
「じゃあ、鴨井圭殺害は、伸吾ではなく、父親の晴伸や、秘書の池上の可能性も視野に入れたほうがいいですね」
 と、妹尾は、言った。
「そうね。池上という男にも、鴨井圭の死亡時のアリバイを確認したほうがいいと思うわ」
 と、真由子。
 すると、今度は、高野内が、
「佐田警視、僕は、西住伸吾が、最も怪しいと思います」
「どうして?」
 と、真由子が聞き返すと、高野内は、
「伸吾が撮ったという写真、いかにも、アリバイを強調するための撮影としか思えません。途中の岡山まで、主な停車駅の駅名表を窓越しに撮った写真が、特に引っ掛かるのですが」
 すると、園町が、すっきりしない表情で、
「そういえば、駅名表の写真、博多、小倉、門司、下関と続いた後、宇部とか新山口とかと写さず、次が広島になっていますね。何かわけがありそうですね」
 と言った。
「でも、ネガを見たら、きちんと博多、小倉、門司、下関、広島、福山、岡山の順に並んでいて、停車した順が逆になっている箇所はないわ」
 と、真由子が言うと、
「じゃあ、西住伸吾は、鴨井圭の殺害時刻、『はやぶさ』に乗っていたというアリバイが成立してしまうのですね」
 と、園町は、残念そうに言った。
「アリバイ成立か…」
 高野内は、つぶやくように言った。
 そのときの高野内と園町は、なんだかすっきりとしない表情だった。
 そのあと、急に表情を変え、
「やはり、伸吾のアリバイには、なにかがあると思います。あと、池上という男についても、いろいろ知りたいですね」
「そうね。西住伸吾が撮った写真を焼き増しして、捜査員みんなで調べに出たらどうかしら」
 と、真由子が言うと、妹尾が、
「私も、そうしたいと思います」
 と言ったあと、難波のほうを向き、
「じゃあ、焼き増しさせるように、誰かに頼んでくれ」
「わかりました」
 と、難波は、返事したあと、ネガを持って、いったん、会議室を出た。

 しばらくして、難波が戻ってきて、
「戻りました。あと、2時間したら、写真は焼きあがるそうです」
 と、難波が言うと、
「そうか。じゃあ、みんなで焼き増しした写真を持って、手分けして、アリバイ崩しの手がかりを見つけようではないか」
 と、妹尾は、言った。
 すると、今度は、高野内が、
「じゃあ、僕と園町で、福岡へ行って、西住伸吾が、本当に、鴨井圭が殺された夜、『はやぶさ』に乗っていたかどうか、調べてみたいと思います」
 と、張り切ったような声を出した。
「じゃあ、お願いしようかしら」
 と、真由子。
「それじゃあ、わしは、真野君連れて、津山の戸塚雅明の実家とか、行ってみたいですけん。ひょっとしたら、何か、真相への手がかりが見つかるかもしれませんから」
 と、近藤が言うと、真由子は、
「じゃあ、お願いしますわ」
 と言ったあと、
「それで、残りのみんなで、西住親子や、池上という秘書について、さらに調べてみて」

 そして、高野内と園町は、難波が焼き増しをさせた写真を持って、岡山駅に向かうことにした。
 西住が、寝台特急『はやぶさ』に乗った博多駅のある福岡へ向かうためである。
 何か、事件解決への手がかりは見つけられるのだろうか。