浜崎ヒカルのブログ推理小説

ブログを利用して推理小説を書いています。 鉄道ミステリーが中心になります。

2010年07月

「姫路のネットカフェに5時間半もいたのに、どうやって、『はやぶさ』に戻ることができたのですか?」
と、江波が不思議そうな顔で言った。
「なぜ5時半まで、ネットカフェにいたかを考えてみたらわかるよ」
と、高野内は、真剣そうな表情で言った。
「西住伸吾は、ネットカフェを5時半に出たあと、タクシーで姫路駅へ行ったのですよね」
と、江波が確認するように言うと、
「そうだ」
と、高野内。
すると、江波は、
「ひょっとして、西住伸吾は、姫路から、新幹線で、『はやぶさ』を追いかけたのでしょうか?」
と、やや大きな声で言った。
それに続くように、今度は、窈子が、
「午前0時過ぎると、新幹線はストップしますけど、朝の6時から運転が始まりますね。ですから、西住伸吾は、新幹線が動き出すのを待つために、ネットカフェに入ったんだと、わたしも思いますわ」
と言った。
「そのとおりだよ」
と、高野内は言いながら、時刻表を取り出した。
そして、
「姫路を6時ちょうどに出る『のぞみ80号』に乗れば、8時47分に、新横浜に着きます。『はやぶさ』は、新横浜は通りませんが、横浜駅を9時36分に発車します。その間40分以上ありますので、新横浜で降りたあと、横浜線か地下鉄で横浜駅へ行き、『はやぶさ』に乗り換えるのは十分可能です」
と、説明した。
すると、妹尾は、
「俺も、高野内さんと同じ考えだよ」
と、笑顔を見せながら言った。
「これで、鴨井圭殺害について、西住伸吾のアリバイはなくなりましたね」
と、園町は、うれしそうな顔で言った。
「でも、それだけでは、西住伸吾が鴨井圭を殺害したという決め手にはなりませんわ」
と、窈子が言った。
それに続いて、
「そうだな。それだけでは、まだ奴がクロという証拠が揃ったとはいえないな。ホシは奴しか考えられないんだけどな」
と、高野内は、もどかしい表情で言った。
すると、妹尾が、
「証拠なら、俺たちが見つけてきたよ」
と言った。
「どんな証拠ですか?」
と、高野内が言うと、
「奴も、万が一に備えて、テープに録音していたようだよ」
と、妹尾は言いながら、カセットテープを取り出した。
そして、テープをテープレコーダーに入れて、再生ボタンを押した。
「あなたのいうとおり、5000万円は用意する」
という、西住晴伸の声が流れてきた。
「本当だな」
と、別の男の声。おそらく、鴨井圭の声だろう。
「5000万円は必ず用意するが、一つだけ条件がある」
と、西住晴伸。
「条件って、どんなことだ?」
と、鴨井と思われる男の声。
「21日の夜、児島駅から、東京行きの寝台特急『サンライズ瀬戸』に乗ってほしいんだ」
「どうしてだ?」
「同じ日に、息子の伸吾が、あなたに渡す5000万円を持って、岡山駅から、その列車に乗る。現金は列車内で渡す」
「で、俺は、どの車両に乗ればいいんだ?」
「既に、あなたのキップを用意している。そのキップに書かれた車両の個室寝台にいてほしい。必ず、伸吾が5000万円渡しにいくから」
「本当だな」
「ああ。約束は守る」
そこでテープの声は終わった。
「鴨井圭も、カネ欲しさのあまり、一応、西住の指示に従ったが、万が一に備えて、テープに証拠を残していたのですね」
と、高野内が言うと、
「おそらく、そうだろう」
と、妹尾。
これで、鴨井圭は、西住晴伸の指示で、寝台特急『サンライズ瀬戸』に乗ったことが証明された。
鴨井圭を殺害したのは、息子の伸吾のほうに間違いないだろう。
伸吾は、自分で撮った写真や、寝台特急『はやぶさ』の車掌や、東京駅の駅員の証言を、アリバイ作りに利用していたが、そのアリバイも崩れている。

「これで、証拠が揃いましたね」
と、高野内がうれしそうな顔で言うと、
「ああ。揃ーた揃ーた」
と、近藤は、笑顔で言ったあと、
「高野内さんが持ってきたテープも聞かせてもらえるかのう」
「わかりました」
そして、高野内は、テープを再生させた。
すると、西住晴信が、戸塚雅明に、藤野を事故死に見せかけて殺害するように指示する声が流れた。
その声を聞いた近藤は、真剣そうな表情で、
「やっぱり、藤野さんは事故死じゃなく、殺されたんじゃな」
と、改めて確認するように言った。
「これで、奴らを逮捕できそうですね」
と、園町もうれしそうな顔になった。
「じゃあ、明日、予定通りに、あの人たちを逮捕しに行きましょ」
真由子は、微笑しながら言った。
そして、真由子は、岡田のほうを向いて、
「岡田君、あなたは、明日、裁判所へ逮捕状を請求しにいって」
「わかりました」
と、岡田は答えた。
西住親子や池上が、一連の事件を犯した証拠が揃い、高野内たちは、うれしそうな顔で、県警本部の会議室を出た。
そして、予約していたホテルへ向かった。
「これで、あいつらを逮捕できる」
高野内は、頭の中は、その思いでいっぱいだった。

「西住伸吾は、22日の午前0時から午前5時半まで、姫路市内のRカフェというネットカフェにいたことがわかった。店員のうち何人かが伸吾の顔を憶えていたよ」
妹尾は、メモを見ながら言った。
「姫路市内ですか」
と、高野内が確認するように言うと、
「そうだ。姫路駅から車で10分ほどのところだ」
と、妹尾は答えた。
それに続いて、
「その日、西住伸吾は、伊永竜一郎(コレナガ・リュウイチロウ)という偽名で、そのカフェを利用していたんだよ」
と言い、ホワイトボードに
『伊永竜一郎』
と書いた。
「伊永竜一郎ですか」
と、高野内は、軽く驚いた表情で言った。
「そうだよ」
と、妹尾。
「西住の会社の関係者の名前を借用したのでしょうか?」
と、高野内が言うと、
「そのとおりだよ。よくわかったね」
と、妹尾は言った。
「普通、偽名を使うときは、佐藤とか山本のようにごくありふれた苗字か、身近な人の苗字を使うと思うのですが、奴は、伊永というそれほど多くない苗字を使っています。奴にとって身近な存在の人間に、伊永という苗字の人物がいたから、そういう偽名が出たのだと、私は思うのですが」
「そう。西住建設の常務取締役が伊永竜一郎という名前だよ」
「じゃあ、西住伸吾は、利用者の記録に自分の名前を残したくないから、伊永常務の名前を使ったのですね」
「そうだろう」
妹尾警部と難波警部補の2人が調べた結果、寝台特急『サンライズ瀬戸』の車内で、鴨井圭が殺害されたあと、西住伸吾は、午前0時から5時半まで、姫路市内のインターネット・カフェで過ごしていたことがわかった。
おそらく、西住伸吾は、『サンライズ瀬戸』の車内で、鴨井圭を殺害し、それから、姫路駅で下車して、カフェに行ったのだろう。
問題は、それからどうやって、寝台特急『はやぶさ』に戻ったかである。
「西住伸吾は、5時半に、ネットカフェを出て、どこへ向かったのでしょうか?」
と、突然、園町が言った。
「タクシーで姫路駅へ向かったことがわかったよ。カフェの店員が、西住伸吾に頼まれて、電話で呼んだそうだ。運転手も、伸吾の顔を憶えていたよ」
と、難波が園町のほうを向いて言った。
「姫路駅から、列車に乗ったのでしょうかね」
と、園町が言うと、
「そうか! わかりましたよ」
と、高野内は、はきはきとした口調で言った。
「高野内さん、西住伸吾が、鴨井圭を殺害したあと、『はやぶさ』に戻った方法がわかったのですか?」
と、園町が言うと、
「そうだよ」
と、高野内は、うれしそうな顔で言った。
西住伸吾は、どうやって、『サンライズ瀬戸』の車内で、鴨井圭を殺害後、『はやぶさ』の車内に戻ったのだろうか。

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