「これから、広塚貴明殺害の件と西井紳二殺害の件について、岩崎正信が主張するアリバイを説明します」
 と、真由子は、真剣そうな表情で言った。
 そして、あまり表情を変えずに、
「まず、岩崎の主張によると、彼は、一昨年10月28日の23時20分に、東京駅八重洲口の東京ターミナルホテルにチェックインしているわ」
 と言った。
「それを証明した人はいるのですか?」
 と、高野内が聞くと、
「当時の捜査員がホテルのフロント係に聞いた話によると、フロント係のうち3人が岩崎がチェックインしたこと憶えていたそうよ。チェックインの記録も残っているわ」
 と、真由子は答えた。
「じゃあ、事件があった29日のアリバイはどういう内容でしょうか?」
 と、高野内が言うと、
「説明を続けるわ」
 と、真由子は言ったあと、
「岩崎は、29日朝の7時30分に、羽田空港を出発した新千歳行きのJAL503便に乗って、北海道へ行ったと主張していたのよ」
 と、高野内の顔をじっと見ながら言った。
 そして、
「そのJAL503便は新千歳空港に着くのが9時5分で、そのあとの岩崎の主張は、札幌市内などを観光して、それから、札幌駅を13時ちょうどに発車した特急『スーパーカムイ19号』で旭川へ行き、旭川からは、駅前を14時35分に出発した層雲峡行きのバスに乗って、層雲峡へ行ったというそうよ」
 と、真由子は説明した。
 それから、真由子は、ホワイトボード用のマーカーでホワイトボードに、
『羽田空港・7時30分→JAL503便→新千歳空港・9時05分
(札幌市内などを観光)
 札幌駅・13時00分→特急スーパーカムイ19号→旭川駅・14時20分

 旭川駅前・14時35分→路線バス→層雲峡・16時20分
(層雲峡周辺を観光)
 層雲峡リゾートホテルチェックイン・18時20分』
 という内容を書いた。
 そのあと、真由子は、
「岩崎が、層雲峡のホテルに、午後6時20分にチェックインしたことは、ホテルの従業員が証言していたそうだし、チェックインの記録も残っているわ」
 と言った。
「岩崎は、本当に羽田を7時半に出発したJAL503便に乗っていたのでしょうかね?」
 と、今度は、園町が言った。
「ええ。搭乗者名には岩崎正信の名前はあったし、実際に搭乗手続きもされていたそうよ」
 と、真由子は残念そうな言い方で答えた。
「じゃあ、岡山駅の事件も、新千歳空港の事件も、アリバイが成立しているのですね」
 と、高野内が言うと、
「そうなのよ」
 と、真由子は言った。
 すると、今度は、貴代子が、、
「広塚という人物は、岡山駅のトイレで殺害されたそうですけど、死亡推定時刻は何時頃でしょうか?」
 と聞いた。
「岡山県警の捜査資料によると、午前7時から8時の間よ」
 と、真由子は答えた。
「じゃあ、確実にアリバイ成立ですな」
 と、桑田警部が残念そうに言った。
「羽田を朝の7時30分に出発する飛行機に乗っていたのなら、7時から8時の間に、岡山駅で殺人を犯すのは、どう考えても不可能ですね」
 と、高野内は、苦悩したような顔で言った。
 すると、今度は、鶴尾が、
「犯人は、岩崎とは関係のない別の人物で、岩崎はシロじゃないでしょうかね」
 と言った。
 それを聞いた高野内は、
「いや。俺は、岩崎が関わっている気がするんだ。そして、新千歳空港の件も、岡山駅の件も、早崎裕允が『のぞみ218号』の車内で殺害された件も、何らかのつながりがあると思うんだ!」
 と、強い口調で言った。
「確証はあるのかね?」
 と、桑田警部が聞くと、
「いえ。まだ今ははっきりとしたことはいえませんが、早崎が『のぞみ218号』で殺害された件も、新千歳空港で西井が殺害された件も、岡山駅で広塚が殺害された件も、すべて何らかのつながりがあると思えてならないのです」
 と、高野内は答えた。
「そうか。高野内君は、そのように思っているのだな」
 と、桑田が言うと、高野内は、
「はい」
 と返事をしたあと、
「いずれの事件にも岩崎正信が関わっているとすれば、すべて岩崎が作った偽りのアリバイということになります。そして、作られた偽りのアリバイなら、必ず崩せると確信しています」
 と、自信ありそうに言った。
 すると、今度は、真由子が、
「高野内さん、岩崎正信のアリバイについて、再度検証してみる必要がありそうね」
 と言った。
「そうですね」
 と、高野内は言った。
 そして、岩崎が主張したアリバイについて、検証する作業にかかることにした。