浜崎ヒカルのブログ推理小説

ブログを利用して推理小説を書いています。 鉄道ミステリーが中心になります。

 9時10分、東海道本線普通電車が東京駅に着くと、私服で警乗していた、鉄道警察隊の高野内豊(タカノウチ ユタカ)と、園町隆史(ソノマチ タカシ)は、降りていく乗客たちに対して目を光らせながら、電車を降りた。
 近年、電車内では、スリや痴漢などの被害が増加している。高野内と園町は、スリや痴漢などの犯罪摘発のための警乗を終えて、東京駅構内にある分駐所へ戻ろうとしていた。
 高野内は、警視庁鉄道警察隊東京駅分駐所に勤務する35歳の巡査部長である。園町も、同じ分駐所の隊員で、高野内よりは若く32歳。2人とも、アウトドアとドライブが趣味である。
 電車から降りてまもなく、高野内と園町の携帯無線から呼び出しがかかった。
「東京駅に到着した中央線快速電車の女性専用車で、女が死亡している模様。鉄警隊員は、すぐに急行せよ…」
 高野内は、
「こちら、鉄警の高野内です。すぐに中央線ホームへ向かいます」
 と、返事をして、園町に、
「園町、中央線ホームへ急ごう!」

 高野内と園町の2人は、東京駅3階に位置する中央線ホームへ到着した。ホームには、オレンジ色の電車が停車している。高野内たちとほぼ同時に、同じ鉄道警察隊の他の刑事や制服警官も走ってきた。
 現場は、東京駅に到着した中央線快速電車の1号車である。平日の朝ラッシュ時は、女性専用車になる車両で、それを示すステッカーが窓に貼られている。
 車内には、大柄で肥えた女が倒れていた。もう既に息はなかった。
 20代前半くらいのOL風の女性客は、
「突然、この女の人の身体が私に寄りかかってきたので、注意したんです。そうしたら、今度は、床に倒れて、こういうことになったのです」
 と、顔を蒼くしながら言った。
 運転士の男性は、
「駅に到着したら、いきなりお客様が騒がれる声が聞こえたので、話を聞いてみたら、お客様が倒れていたのです」
 そうしているうちに所轄から鑑識員などが来て、現場撮影や証拠収集も行なわれた。
 鉄道警察隊員も、被害者の身元を調べることにした。
 鉄道警察隊員の一時窈子(ヒトトキ ヨウコ)は、被害者のバッグの中を調べていた。窈子も、鉄道警察隊東京駅分駐所の隊員で、30歳の小柄な女刑事である。
 窈子は、驚いたような声で、
「あっ、被害者のバッグの中から、こんなものが出てきました」
 と言いながら、コルク玉に針を多数刺してイガグリ状にしたものを取り出した。
 窈子自身も、自分の指などを刺さないようにしながら、袋に入れて、鑑識員に渡した。
 そして、被害者の身元も判明した。
 バッグに社員証があったのだ。
 氏名は、住川光恵(スミカワ ミツエ)。29歳。東京都青梅市在住で、N生命丸の内支店に勤務している、セールスレディらしい。
 被害者の住川光恵の遺体は、担架に載せられ、所轄へ警察署へ運ばれることとなった。
 高野内や園町、一時窈子などの鉄道警察隊員も、発見者や目撃者などの住所と氏名などを聞いてから、分駐所に戻ることにした。
 発見したのは、国分寺市在住の平田真由という23歳の女性で、通勤途中だったという。被害者の光恵とは、何の面識もないらしい。
「害者の周りの人間を調べよう」
 と言いながら、高野内たちは、分駐所へ戻った。

2006年12月1日の午前9時5分頃、青梅発東京行きが通勤特別快速電車は、中央線の御茶ノ水駅を発車した。
それは、10両編成の通勤電車で先頭の1号車が、女性専用車になっている。
OLの平田真由(ヒラタ マユ)は、1号車の車内に座っていた。
2号車以後の一般車両は、かなり混雑しているが、女性専用車は、立ち客がいるものの、一般車両ほども混雑していない。
真由は、丸の内の会社に勤務する23歳のOLで、国分寺から東京まで中央線の快速を利用している。
女性専用車が導入されてから、比較的空いている車両で通勤できるようになったが、公共の場のマナーの悪い同性を毎日、目の当たりにしながらの通勤となった。
電車は、ガタガタとゆれながら走っていく。
真由の隣に座っている女が突然、真由に寄りかかってきた。大柄で肥えた30近い女だった。
真由は、
「ちょっと、何しているんですか?」
と、注意した。
電車は、いつのまにか、神田駅を発車した。
肥えた女の身体は、真由に寄りかかったあと、床に崩れていった。
女の顔の色が変わっている。
真由は、
「キャー!」
と、悲鳴をあげた。
他の女性客たちも注目した。
そして、さらに車内では悲鳴が響いた。
9時9分、電車は、終点の東京駅に到着した。
真由をはじめとする、女性客たちは、すぐに駅員や運転席にいた運転士に知らせた。

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