10月21日の午後3時頃、鉄道警察隊の東京駅分駐所では、高野内、園町、鶴尾、奈々美、桑田警部、それに、警視庁捜査一課の佐田真由子警視と岡田俊一警部の7人で、捜査に関する話し合いが行われていた。
高野内は、2011年10月29日の黒坂由利のアリバイを崩すために、時刻表に眼を向けていた。
「高野内君、その日の黒坂由利は、どのように移動しながら、19時までに南宮崎のホテルにチェックインしたと、考えているのかね？」
と、桑田が聞くと、
「今、調べている最中ですが、羽田空港を7時30分に出た新千歳行きの便に、男装をしたうえ、岩崎の名前を使って搭乗したのは間違いないと思います。そのあと、どのような行動をした可能性があるかについて、調べてみます」
と、高野内は、はっきりとした口調で答えた。
「羽田空港を7時30分に出た飛行機が、新千歳に着いたのは、9時5分だったな」
と、桑田が確認するように言うと、
「そうです」
と、高野内は答えたあと、
「黒坂由利がそのようなことをしたのは、岩崎正信が、岡山駅で広塚貴明を殺害し得ないというアリバイを作るためでしょう」
と言った。
「黒坂由利は、新千歳空港に着いたあと、どのような行動をしたのでしょうか？」
と、今度は、園町が言った。
「いったん、羽田へ引き返したのではないかな」
と、高野内は言った。
「えっ、何のためですか？」
と、今度は、鶴尾が少し驚いた顔で言った。
「12時ちょうど発のＡＮＡ63便に、偽名で乗るためだと、俺は思うんだ」
と、高野内は、はっきりとした口調で言った。
「それって、羽田発の新千歳着13時35分の便ですね」
と、鶴尾が確認するような言い方をすると、
「そのとおりだよ」
と、高野内は言った。
「9時5分に、新千歳空港に着いたあと、また羽田へ引き返して、12時ちょうど発の飛行機に乗れるのかね？」
と、桑田が怪訝そうな顔で言うと、
「調べてみます」
と、高野内は言いながら、時刻表に眼を向けた。
そして、少し経ってから、
「なんとか乗れそうですよ！」
と、やや大きな声で言った。
「本当か？」
と、桑田が聞き返すと、
「はい。新千歳空港を9時30分に出たＡＮＡ54便に乗れば、11時10分に、羽田に着きます」
と、高野内は、嬉しそうな顔で言った。
桑田は、
「そうか。新千歳空港ではぎりぎりの折り返しになるが、不可能ではないな」
と頷きながら言った。
それを聞いた真由子は、
「なるほどね」
と言ったあと、
「高野内さん、黒坂由利は、12時ちょうど発の新千歳行きに乗って着いたあと、空港で、西井紳二が死亡したのを確認したと、推測するのよね？」
と、確認するように言った。
「そうです」
と、高野内が答えると、
「そのあと、黒坂由利は、どのような方法で、宮崎へ行って、南宮崎駅近くのホテルにチェックインしたのかしら？」
と、真由子は言った。
「調べてみます」
と、高野内は言った。
そして、高野内は、時刻表をページをめくりながら、
「14時35分に新千歳空港を出たＳＫＹ716便に乗ったのだと思います」
と言った。
「その飛行機の便はどこ行きかね？」
と、桑田が聞くと、
「羽田行きです」
と、高野内は答えた。
すると、桑田は、不思議そうな顔で、
「黒坂由利は、その日、宮崎に行ったのだろう。また羽田へ戻ってどうするんだ？」
と言った。
「ＳＫＹ716便は、羽田空港には16時15分に着きましたから、ぎりぎりになりますが、羽田を16時45分に出たＪＡＬ1891便に乗ることができたはずです」
と、高野内は、説明するように言った。
「その便はどこ行きかね？」
と、桑田がまた聞くと、
「宮崎行きです」
と、高野内は言った。
すると、今度は、真由子が、
「なるほどね。そのＪＡＬ1891便で宮崎空港へ行ったあとは、どうやって、南宮崎駅の近くのホテルに、19時までに行ったのかしら？」
と言った。
「その飛行機が宮崎空港に着くのが18時30分です。宮崎空港に着いたあとは、宮崎空港駅から18時39分発の普通列車に乗ったのだと思います。そうすると、18時47分に、南宮崎駅に着きましたから、19時に、南宮崎駅の近くのホテルにチェックインすることはできたはずです」
と、高野内は、自信ありそうな顔で言った。
「これで、黒坂由利のアリバイも崩れたな！」
と、桑田は嬉しそうな顔になった。
「岩崎正信と黒坂由利は、ともに、アリバイがなくなったわね」
と、真由子は言った。
「私と園町と鶴尾と桜田の4人で、明日、また松本に行きたいのですが」
と、高野内が言うと、
「岩崎に、また話を聞きに行くのか？」
と、桑田は、確認するように聞き返した。
「はい。岩崎正信に会って、再度、話をして、容疑が固まり次第、逮捕したいと思います」
と、高野内は言った。
「わかった。じゃあ、長野県警に、その旨を伝えるよ」
と、桑田は言ったあと、
「佐田警視、明日、高野内君たちを松本に行かせたいのですが」
と、真由子のほうを向いて言うと、真由子は、
「わかったわ。私たち本庁のほうから、長野県警に連絡するわ」
と答えた。
「ありがとうございます」
と、桑田は、頭を下げた。
「じゃあ、高野内さん、明日、松本中央署へお願いね」
と、真由子が言うと、
「わかりました」
と、高野内は、はっきりとした口調で返事した。
そして、夕方に、高野内たちは、退勤した。
22日は、再度、長野県の松本へ向かう予定である。
