10月23日の夕方近くになった頃、東京駅分駐所に戻った高野内と園町は、覆面車に乗って、東京駅分駐所を出発した。
 高野内は、黒坂由利の逮捕令状を持っている。
 午後5時過ぎに、由利が勤務するI病院に到着した。
 病院の駐車場に覆面車を止めると、高野内と園町は、スタッフステーションへ向かった。
 スタッフステーションに着くと、看護師長の女性に警察手帳を見せながら、
「黒坂由利さんはいますか?」
 と、高野内は言った。
 看護師長は、
「お待ちください」
 と言ったあと、いったん、高野内たちの前を離れ、しばらくして、戻ってきた。
 由利も出てきた。
「刑事さん、また何の用でしょうか?」
 と、由利は少し小さめの声で言った。
「昨夜、岩崎真実さんの父親、岩崎正信を逮捕しました」
 と、高野内は、由利の顔をじっと見ながら言った。
 続いて、園町が、
「どうして、我々がここに来たか、わかりますね」
 と言った。
 すると、由利は、
「わかりました」
 と答えた。
 その時の由利の声はかなり弱弱しくなっていた。
 高野内は、持っていた逮捕令状を、由利に見せて、
「黒坂由利さん、あなたを、西井紳二と広塚貴明殺人の共犯容疑と、早崎裕允殺人の実行をした容疑、室野祐治殺人を依頼した容疑で逮捕します」
 と言いながら、由利に手錠をかけた。
 そして、スタッフステーションをあとにすると、覆面車の後部座席に乗せて、東京駅分駐所へ連行した。

 由利を連れて東京駅分駐所に戻った高野内と園町は、桑田警部に、
「ホシを連行しました」
 と、会釈しながら言った。
「ご苦労さん」
 と、桑田警部は言った。
 それから少し経って、由利への取り調べが始まった。
 取り調べを担当したのは、高野内と園町である。
 取調室に入った由利は、2年前に、自らのアリバイを作りながら、岩崎が岡山駅と新千歳空港で実行した2つの殺人事件のアリバイ作りなどをしたこと、岩崎に依頼されて、新幹線『のぞみ218号』の車内で早崎を殺害する代わりに、自らに執拗にストーカー行為をしていた室野を岩崎に殺害してもらうという交換殺人を行ったことなどを自供した。
 その供述内容は、高野内たちの推理どおりだった。
「いろいろな不安の多い上京生活で、わたしにとって、真実は心の支えになる大切な親友でした。その真実の何もかもを、西井紳二という男は根こそぎ奪ったのです。それも私利私欲のために」
 と、由利は、やや大きな声で、高野内に向かって言った。
「それで、岩崎正信に協力したのですね」
 と、今度は、園町が言うと、由利は、
「西井紳二という男は、広塚貴明とともに、真実の気持ちを弄んで、真実のすべてを奪ったのですよ。そんな男は許せませんわ!」
 と、強い口調で言った。
 そのとき、由利の眼からは涙があふれた。
「西井紳二に広塚貴明は、どちらも、許せない男です。しかし、この世の中に、殺されてよい人間はいません。あなたには、そのことをよく考えて理解し、自分の犯した罪と向き合ってもらいたい」
 高野内は、やや落ち着いた声で言いながら、由利の眼をじっと見ていた。
 それを聞いた由利は、涙を流しながら俯いた。



 THE END