平山のことを知っていると思われる女が、下車していった。その女は、島田から、大阪までの車内補充券を買った。
しかし、深夜の富山駅で、途中下車していった。
(何か都合が悪くなって、下車したのだろうか?)
島田は、その女のことが気にかかった。
そして、それを佐々木たちや水野たちに知らせた。
すると、佐々木警部は、
「そういうことは、もっと早く知らせて欲しかったですね」
と、不快そうに言った。
「すいませんでした」
「で、その女の人は、どの車両のどの席にいたか、わかりますかね」
「自由席の1号車です」
と、島田が答えると、佐々木は、
「1号車の乗客の身元は、俺が確認した。どの席かわかれば、誰かわかる。案内してくれ」
島田は、佐々木警部と一緒に、先頭の1号車へ行った。
1号車は、普通車自由席で、真ん中にある通路の両側に、4人掛けのボックスシートが並んでいる。
ほとんどのボックスでは、乗客たちが腰を降ろして眠っていた。1区画だけ、乗客のいないボックスがあった。
島田は、それを指差しながら、
「刑事さん、あのボックスシートにおった女性です」
すると、佐々木は、メモ書きした手帳を出して、
「えーっと、その座席の女性客は、安倉美紀(アクラ・ミキ)という、岡山県岡山市在住の38歳の店員ですね」
「岡山県在住ですか。じゃあ、平山君の出身地ですね」
島田は、軽く驚いたような声を出した。
「平山さんは、岡山県出身ですか?」
「そうです」
「なら、岡山つながりで、平山車掌が殺された件に、何か関係している可能性も否定できないな。だが、財布がなくなっていることから、列車強盗の可能性が高いと、我々は、見ているのですよ」
と、佐々木警部。
安倉美紀という女は、平山が乗務しているかどうかを聞いてきた。そして、平山が、殺されてしまった。その女は、平山が殺された件に何か関わっているのだろうか?
今の島田には、何もわからない。
そのままでは、平山は、浮かばれないだろう。
島田は、だんだんと腹が立ってきた。
勤務態度も良く、人当たりも良く、みんなから好かれていた平山が、トイレで首を絞められて殺されてしまったのだ。
そのような島田が乗務中の『きたぐに』は、富山の次の停車駅である高岡に近づいてきた。
島田は、乗務員室に駆け込むと、ドアの開閉を行なった。
高岡を出た上り『きたぐに』は、金沢に停車する。
列車が発車すると、すぐに車内巡回をした。
列車は、だんだんと山の中に入り、倶利伽羅越えともいう、富山県と石川県の県境を越えていった。そこは、蒸気機関車の時代には、難所といわれていたが、現在の電車は、難なく通過する。
列車は、遅れを取り戻し、金沢には、定刻の3時7分に到着した。そして、11分に発車した。
深夜にも関わらず、自由席には、20人近い乗車があった。
金沢を出た列車は、次は、小松に停車する。
小松には、3時30分に到着した。そして、30秒後に発車した。
小松駅を出て間もない頃、佐々木警部が、島田に近づいてきた。
そして、
「島田さん、唐突だが、あなたの血液型を教えて欲しいのですが」
すると、島田は、少し驚いた表情を見せながら、
「O型ですが、どうして、そんなことを聞くんですか?」
「O型に間違いないのですね」
佐々木は、入念に聞いた。
「ええ。まちがいあらへんです」
と、島田が答えると、佐々木は、急に笑顔を見せながら、
「あなたを疑ったりしてすいませんでした」
「えっ、どうゆうことですか?」
「実は、平山さんの爪の中から、平山さんと異なる皮膚が出てきたのです。そして、調べたら、血液型がAB型ということが判明しました。ちなみに、平山さんは、あなたと同じO型です」
「それで、私にそうゆう質問されたんですね」
「そうです。それで、あなたは、容疑者ではないということと、犯人は、AB型の人物ということがわかりました。AB型の人物は、少ないですから、犯人を突き止めるのは、時間の問題と思われます」
それを聞いた島田は、
「ほんまですか? 早く犯人捕まって欲しいですわ」
4時1分、福井駅に到着した。朝早くから大阪周辺に出かける人たちの乗車が目立った。6分に発車した。
上り『きたぐに』は、武生、敦賀、長浜の順に停車し、5時20分に、米原に停車した。自由席の乗客は、徐々に増えていった。米原からは、東海道本線に入る。車内放送を再開し、次の京都停車を告げた。
6時16分、京都に停車した。京都では、自由席だけではなく、寝台車からも多数の下車客がいた。
京都を出ると、新大阪に停車した。その駅も下車客が多い。新幹線に乗り換えて、さらに西へ行く客も少なくない。次は終点なので、新たな乗客はいない。
新大阪を出た『きたぐに』は、淀川の鉄橋を渡り、ビル街の中を走り、終点の大阪駅には、6時49分に到着した。これから駅は、通勤客でごった返してくるだろう。
島田は、8時間近い乗務を終えて、ホームに下車した。
いつもなら、ほっとした表情になるのだが、今はそうはいかなかった。
同乗していた平山が殺されてしまったからである。佐々木警部は、犯人を突き止めるのは時間の問題と言っているが、まだ、完全に安心はできなかった。なにか、頭に重たいものが圧し掛かったような感じだった。
(一刻も早く、平山君を殺した犯人が捕まってほしい)
島田は、そのことで頭がいっぱいだった。
しかし、深夜の富山駅で、途中下車していった。
(何か都合が悪くなって、下車したのだろうか?)
島田は、その女のことが気にかかった。
そして、それを佐々木たちや水野たちに知らせた。
すると、佐々木警部は、
「そういうことは、もっと早く知らせて欲しかったですね」
と、不快そうに言った。
「すいませんでした」
「で、その女の人は、どの車両のどの席にいたか、わかりますかね」
「自由席の1号車です」
と、島田が答えると、佐々木は、
「1号車の乗客の身元は、俺が確認した。どの席かわかれば、誰かわかる。案内してくれ」
島田は、佐々木警部と一緒に、先頭の1号車へ行った。
1号車は、普通車自由席で、真ん中にある通路の両側に、4人掛けのボックスシートが並んでいる。
ほとんどのボックスでは、乗客たちが腰を降ろして眠っていた。1区画だけ、乗客のいないボックスがあった。
島田は、それを指差しながら、
「刑事さん、あのボックスシートにおった女性です」
すると、佐々木は、メモ書きした手帳を出して、
「えーっと、その座席の女性客は、安倉美紀(アクラ・ミキ)という、岡山県岡山市在住の38歳の店員ですね」
「岡山県在住ですか。じゃあ、平山君の出身地ですね」
島田は、軽く驚いたような声を出した。
「平山さんは、岡山県出身ですか?」
「そうです」
「なら、岡山つながりで、平山車掌が殺された件に、何か関係している可能性も否定できないな。だが、財布がなくなっていることから、列車強盗の可能性が高いと、我々は、見ているのですよ」
と、佐々木警部。
安倉美紀という女は、平山が乗務しているかどうかを聞いてきた。そして、平山が、殺されてしまった。その女は、平山が殺された件に何か関わっているのだろうか?
今の島田には、何もわからない。
そのままでは、平山は、浮かばれないだろう。
島田は、だんだんと腹が立ってきた。
勤務態度も良く、人当たりも良く、みんなから好かれていた平山が、トイレで首を絞められて殺されてしまったのだ。
そのような島田が乗務中の『きたぐに』は、富山の次の停車駅である高岡に近づいてきた。
島田は、乗務員室に駆け込むと、ドアの開閉を行なった。
高岡を出た上り『きたぐに』は、金沢に停車する。
列車が発車すると、すぐに車内巡回をした。
列車は、だんだんと山の中に入り、倶利伽羅越えともいう、富山県と石川県の県境を越えていった。そこは、蒸気機関車の時代には、難所といわれていたが、現在の電車は、難なく通過する。
列車は、遅れを取り戻し、金沢には、定刻の3時7分に到着した。そして、11分に発車した。
深夜にも関わらず、自由席には、20人近い乗車があった。
金沢を出た列車は、次は、小松に停車する。
小松には、3時30分に到着した。そして、30秒後に発車した。
小松駅を出て間もない頃、佐々木警部が、島田に近づいてきた。
そして、
「島田さん、唐突だが、あなたの血液型を教えて欲しいのですが」
すると、島田は、少し驚いた表情を見せながら、
「O型ですが、どうして、そんなことを聞くんですか?」
「O型に間違いないのですね」
佐々木は、入念に聞いた。
「ええ。まちがいあらへんです」
と、島田が答えると、佐々木は、急に笑顔を見せながら、
「あなたを疑ったりしてすいませんでした」
「えっ、どうゆうことですか?」
「実は、平山さんの爪の中から、平山さんと異なる皮膚が出てきたのです。そして、調べたら、血液型がAB型ということが判明しました。ちなみに、平山さんは、あなたと同じO型です」
「それで、私にそうゆう質問されたんですね」
「そうです。それで、あなたは、容疑者ではないということと、犯人は、AB型の人物ということがわかりました。AB型の人物は、少ないですから、犯人を突き止めるのは、時間の問題と思われます」
それを聞いた島田は、
「ほんまですか? 早く犯人捕まって欲しいですわ」
4時1分、福井駅に到着した。朝早くから大阪周辺に出かける人たちの乗車が目立った。6分に発車した。
上り『きたぐに』は、武生、敦賀、長浜の順に停車し、5時20分に、米原に停車した。自由席の乗客は、徐々に増えていった。米原からは、東海道本線に入る。車内放送を再開し、次の京都停車を告げた。
6時16分、京都に停車した。京都では、自由席だけではなく、寝台車からも多数の下車客がいた。
京都を出ると、新大阪に停車した。その駅も下車客が多い。新幹線に乗り換えて、さらに西へ行く客も少なくない。次は終点なので、新たな乗客はいない。
新大阪を出た『きたぐに』は、淀川の鉄橋を渡り、ビル街の中を走り、終点の大阪駅には、6時49分に到着した。これから駅は、通勤客でごった返してくるだろう。
島田は、8時間近い乗務を終えて、ホームに下車した。
いつもなら、ほっとした表情になるのだが、今はそうはいかなかった。
同乗していた平山が殺されてしまったからである。佐々木警部は、犯人を突き止めるのは時間の問題と言っているが、まだ、完全に安心はできなかった。なにか、頭に重たいものが圧し掛かったような感じだった。
(一刻も早く、平山君を殺した犯人が捕まってほしい)
島田は、そのことで頭がいっぱいだった。