事件のあった個室に、若い男女が入ろうとしていた。
高野内は、
「君たち、ここは殺人事件の現場だぞ! 出て行きなさい!」
と言いながら、2人を制止しようとした。
園町は、
「この被害者の知り合いか、身内ですか?」
と、2人に尋ねた。
すると、女は、落ち着いた表情で、
「ここからは、わたしたちの番ね」
高野内は、
「君、何言っているんだ? 関係ないのなら、すぐに出て行きなさい!」
すると、女は、
「あなたたちに君呼ばわりはされたくないわ」
と言いながら、バッグから、何かを出そうとした。
黒いものだった。
「あっ、ひょっとして!」
高野内は、驚いたような大声を出した。
「そう。わたしは、警視庁捜査一課の佐田真由子(サダ・マユコ)といいます。それで、こちらは、一課の後輩の岡田(オカダ)君」
その女が出したものは、警察手帳だった。中身を見せてもらうと、階級は、警視のようだ。この歳で警視になっていることから、キャリア組に間違いないだろう。
岡田という男のほうは、岡田俊一(シュンイチ)という名前で、年齢は26歳だという。階級は警部。岡田のほうも、キャリア組のようだ。
「大変失礼しました」
高野内と園町は、慌てて頭を下げた。
真由子は、
「いいのよ。警察手帳見せなかったら、誰にも警察官なんて思われないから」
と言ったあと、
「害者については、わたしたちが調べるから、もうあなたたちは、分駐所に戻っていいわよ。痴漢やスリの仕事があるでしょ」
「そうですけど、その事件も、列車内で起きた以上、我々の仕事の一つですよ」
「殺人事件は、わたしたち捜査一課の仕事でもあるわ。ここからは、わたしたちが引き継ぐから、あなたたちは、分駐所に戻りなさい。また、何かあったら、協力を求めるかもしれないから、そのときは、宜しくね」
「わかりました」
と、高野内が言った後、鉄道警察隊員6人は、分駐所に戻ることにした。
「いくら本庁のエリートだからって、あの態度はないよね」
と、分駐所に戻ると、貴代子は、愚痴るように言った。
「でも、殺人捜査の一番のプロは、捜査一課ですし」
と、窈子が言うと、貴代子は、
「このままだと、大きな事件の手柄を本庁の刑事たちに取られちゃうわよ。私たちも、なんとか捜査を続けましょう」
今度は、田村警部が、
「向こうの方が立場は上だし、下手に文句を言って、逆撫でしたら、我々の立場がもっと悪くなる」
すると、今度は、高野内が、
「手がかりとして、被害者が所持していた名刺入れから名刺を1枚取ってきました。被害者は、鴨井圭という大阪の私立探偵です。鉄道警察隊から、直接大阪府警にお願いして、鴨井圭という男について、調べてもらいましょうか?」
「高野内君、それは、原則として本庁経由になるよ。でも、本庁に手柄を取られたくないし、俺が大阪府警にお願いしてみるよ」
そして、田村は、大阪府警の番号を調べて、電話をした。
相手に、東京に着いた『サンライズ瀬戸』の車内で、鴨井圭という私立探偵と思われる男が死亡していたことなどを告げ、鴨井圭について調べて欲しいことを言った。
「では、お願いします」
と言って、電話を切ると、
「大阪府警が調べてくれるそうだ」
「よしっ、とにかく、本庁よりも、早く犯人を突き止めましょう」
貴代子は、はきはきとした声を出した。
「しかし、なにか引っかかりますね」
と、今度は、高野内が言った。
「どうしてかね?」
と、田村が聞くと、高野内は、
「車掌の話だと、害者は、岡山県の児島から『サンライズ瀬戸』に乗車したそうです。切符は、児島から東京まででした。どうして、大阪の人間が岡山県から東京まで乗ることにしたのでしょうか?」
「そうだな」
と言ったあと、田村は、
「大阪府警が、害者について調べてくれるそうだし、それまで待つしかないな」
今の鉄道警察隊員にとっては、まだこれ以上被害者については、何もわからなかった。
高野内たちは、分駐所内でじっとしているわけにはいかないので、駅構内をパトロールしたりもした。
その間も、被害者のことが引っかかって離れなかった。
高野内は、
「君たち、ここは殺人事件の現場だぞ! 出て行きなさい!」
と言いながら、2人を制止しようとした。
園町は、
「この被害者の知り合いか、身内ですか?」
と、2人に尋ねた。
すると、女は、落ち着いた表情で、
「ここからは、わたしたちの番ね」
高野内は、
「君、何言っているんだ? 関係ないのなら、すぐに出て行きなさい!」
すると、女は、
「あなたたちに君呼ばわりはされたくないわ」
と言いながら、バッグから、何かを出そうとした。
黒いものだった。
「あっ、ひょっとして!」
高野内は、驚いたような大声を出した。
「そう。わたしは、警視庁捜査一課の佐田真由子(サダ・マユコ)といいます。それで、こちらは、一課の後輩の岡田(オカダ)君」
その女が出したものは、警察手帳だった。中身を見せてもらうと、階級は、警視のようだ。この歳で警視になっていることから、キャリア組に間違いないだろう。
岡田という男のほうは、岡田俊一(シュンイチ)という名前で、年齢は26歳だという。階級は警部。岡田のほうも、キャリア組のようだ。
「大変失礼しました」
高野内と園町は、慌てて頭を下げた。
真由子は、
「いいのよ。警察手帳見せなかったら、誰にも警察官なんて思われないから」
と言ったあと、
「害者については、わたしたちが調べるから、もうあなたたちは、分駐所に戻っていいわよ。痴漢やスリの仕事があるでしょ」
「そうですけど、その事件も、列車内で起きた以上、我々の仕事の一つですよ」
「殺人事件は、わたしたち捜査一課の仕事でもあるわ。ここからは、わたしたちが引き継ぐから、あなたたちは、分駐所に戻りなさい。また、何かあったら、協力を求めるかもしれないから、そのときは、宜しくね」
「わかりました」
と、高野内が言った後、鉄道警察隊員6人は、分駐所に戻ることにした。
「いくら本庁のエリートだからって、あの態度はないよね」
と、分駐所に戻ると、貴代子は、愚痴るように言った。
「でも、殺人捜査の一番のプロは、捜査一課ですし」
と、窈子が言うと、貴代子は、
「このままだと、大きな事件の手柄を本庁の刑事たちに取られちゃうわよ。私たちも、なんとか捜査を続けましょう」
今度は、田村警部が、
「向こうの方が立場は上だし、下手に文句を言って、逆撫でしたら、我々の立場がもっと悪くなる」
すると、今度は、高野内が、
「手がかりとして、被害者が所持していた名刺入れから名刺を1枚取ってきました。被害者は、鴨井圭という大阪の私立探偵です。鉄道警察隊から、直接大阪府警にお願いして、鴨井圭という男について、調べてもらいましょうか?」
「高野内君、それは、原則として本庁経由になるよ。でも、本庁に手柄を取られたくないし、俺が大阪府警にお願いしてみるよ」
そして、田村は、大阪府警の番号を調べて、電話をした。
相手に、東京に着いた『サンライズ瀬戸』の車内で、鴨井圭という私立探偵と思われる男が死亡していたことなどを告げ、鴨井圭について調べて欲しいことを言った。
「では、お願いします」
と言って、電話を切ると、
「大阪府警が調べてくれるそうだ」
「よしっ、とにかく、本庁よりも、早く犯人を突き止めましょう」
貴代子は、はきはきとした声を出した。
「しかし、なにか引っかかりますね」
と、今度は、高野内が言った。
「どうしてかね?」
と、田村が聞くと、高野内は、
「車掌の話だと、害者は、岡山県の児島から『サンライズ瀬戸』に乗車したそうです。切符は、児島から東京まででした。どうして、大阪の人間が岡山県から東京まで乗ることにしたのでしょうか?」
「そうだな」
と言ったあと、田村は、
「大阪府警が、害者について調べてくれるそうだし、それまで待つしかないな」
今の鉄道警察隊員にとっては、まだこれ以上被害者については、何もわからなかった。
高野内たちは、分駐所内でじっとしているわけにはいかないので、駅構内をパトロールしたりもした。
その間も、被害者のことが引っかかって離れなかった。