「寺山のアリバイトリックは、どんなものかね?」
近藤警部は、高野内のほうを向いて言った。
高野内は、時刻表を見ながら、
「寺山は、ルームサービスを頼んだ、午後6時半以降、こっそりホテルを抜け出して、京都駅から、列車に乗ったんですよ」
すると、近藤は、怪訝そうに、
「でも、北陸、新潟方面の列車じゃ、犯行時に、『きたぐに』に乗れんのじゃろ?」
「寺山は、新幹線に乗ったんですよ」
「新幹線? じゃあ、寺山は、東京廻りで新潟へ向かったのか?」
「多分、そうでしょう。駅前のホテルをルームサービスを利用した直後、6時半過ぎに抜け出せば、京都を18時55分に発車する、『のぞみ150号』に乗れます」
「それで、『きたぐに』に間に合うのかね?」
「ちょっと待ってください」
と、言いながら、高野内は、時刻表のページをさらにめくった。
「『のぞみ150号』が、終点の東京に着くのが、21時16分です。東京からは、21時40分発の上越新幹線『とき353号』に乗れます。その列車は、途中の長岡駅に、23時28分に到着ですから、長岡を23時49分に発車する『きたぐに』には、十分間に合います」
と、高野内は、説明した。
「なるほど、平山泰彦車掌が殺されたのは、『きたぐに』が、柿崎と直江津の間を走っているときだから、長岡から、乗ることができれば、犯行は可能じゃな。それにしても、新幹線の速さを、改めて感じるのう」
と、近藤。
すると、今度は、妹尾が、
「確かに、そうすれば、寺山は、『きたぐに』で犯行が可能なのはわかるが、あと、どうやって、京都のホテルに戻ったのかね? 寺山は、7時に、ホテルの朝食バイキングを利用しているんだよ」
と言い、近藤は、
「事件の後、新潟県と富山県の警察官が、乗客一人ずつ調べたんだが、寺山がいたという情報はない。おそらく、寺山は、犯行後、すぐに下車したと思うのじゃが」
それを聞いた高野内は、時刻表を見ながら、
「寺山は、犯行後、直江津で下車したと思います。『きたぐに』が、直江津に着くのが、0時53分です。直江津からは、1時20分発の寝台特急『日本海2号』に乗れます。『日本海2号』が京都に着くのが、6時34分ですから、7時に朝食バイキングを利用することが可能です」
それを聞いた近藤は、
「そうか。それで、寺山のアリバイは、完全に崩れたな。寺山を逮捕して、吐かせれば、他の事件の解決につながる!」
と言い、
「わしの部下と一緒に、寺山をひっぱってくるよ」
そして、近藤は、高野内たちの前から、去った。
時計を見ると、11時を過ぎていた。
近藤は、30代前半くらいに見える男性刑事と一緒に、高野内たちの前に出てきた。さっき、近藤に、JRに問い合わせた返事を伝えていた刑事である。長身の人である。
「紹介するよ。わしと同じ刑事課の真野(マノ)君です」
と、近藤が言うと、真野刑事は、
「真野といいます」
と言い、高野内たちも、自己紹介をした。
そのあと、近藤は、
「これから、真野君と一緒に、寺山の自宅へ行ってくる」
すると、妹尾が、
「近藤さん、この時間、家にいますかね?」
「そうか。じゃあ、わしらは、自宅へ行ってみるから、妹尾さんたちは、西住建設の本社のほうへ行ってもらえませんか」
「わかりました」
そして、近藤と真野は、寺山の自宅へ、妹尾と難波、それに、高野内たちは、西住建設本社のほうへ向かうことにした」
妹尾運転の覆面車と、難波運転の覆面車の2台は、赤磐南署をあとにした。
妹尾運転の覆面車に、高野内と園町が、難波運転の覆面車に、江波と窈子が乗っている。
2台の覆面車は、岡山市街地を走ると、市役所の前を通り、少し走ると、『西住建設』の看板のあるビルが、高野内たちの目に入った。10階建ての立派なビルだった。2台の覆面車は、ビル隣の駐車場に停止した。
そのときの時刻は、12時40分。多くの社員が休憩中だろう。
妹尾は、受付の女性社員に警察手帳を見せて、用件を言うと、女性社員は、
「今日は、寺山は、出勤していないのです」
と言った。
妹尾、難波と、高野内たちは、覆面車に戻った。
そして、妹尾は、
「おかしいな。自宅にいるのかな?」
と、言いながら、携帯電話を出した。
「近藤警部に、電話してみるよ」
妹尾は、携帯電話のボタンを押し、
「もしもし、県警の妹尾ですが…」
妹尾は、相手と何かを話した後、電話を切り、
「寺山は、京都と東京へ出張した後、自宅へ戻っていないそうだ」
それを聞いた高野内は、
「逮捕を恐れて逃亡しているのでしょうか?」
「そうかもしれん。とにかく、至急、寺山正伸を指名手配するように、本部へ伝えるよ」
妹尾は、慌てたような感じで、警察無線に手をやり、寺山を手配するように言った。
そして、西住建設本社をあとにして、赤磐南署へ戻ることにした。
午後1時ごろ、2台の覆面車は、岡山市内を走っていた。
突然、警察無線から呼び出しの声がかかった。
助手席にいた高野内が、無線機に手を伸ばして、マイクに向かって、
「こちら、県警捜査一課、妹尾警部の覆面車両ですが、現在、赤磐南署へ向かって移動中です。どうぞ」
「こちら、県警本部ですが、先ほど、玉野市の瀬戸内海で、寺山正伸と思われる男の遺体が発見されました。至急、現場へ向かってください。場所は…」
高野内は、運転中の妹尾に、
「寺山と思われる遺体がみつかったそうです!」
「現場へ急行するぞ! 赤灯を出してくれ!」
高野内は、助手席の赤色灯を屋根につけ、サイレンのスイッチを入れた。
無線の内容によると、玉野市の漁港、山田港付近に、男の死体が浮かんでいるのを、漁船の乗員が発見して、通報したらしい。
その死体の特徴が、寺山と一致する点が多いという。
本当に、寺山だとしたら、一体、何があったのだろうか。
近藤警部は、高野内のほうを向いて言った。
高野内は、時刻表を見ながら、
「寺山は、ルームサービスを頼んだ、午後6時半以降、こっそりホテルを抜け出して、京都駅から、列車に乗ったんですよ」
すると、近藤は、怪訝そうに、
「でも、北陸、新潟方面の列車じゃ、犯行時に、『きたぐに』に乗れんのじゃろ?」
「寺山は、新幹線に乗ったんですよ」
「新幹線? じゃあ、寺山は、東京廻りで新潟へ向かったのか?」
「多分、そうでしょう。駅前のホテルをルームサービスを利用した直後、6時半過ぎに抜け出せば、京都を18時55分に発車する、『のぞみ150号』に乗れます」
「それで、『きたぐに』に間に合うのかね?」
「ちょっと待ってください」
と、言いながら、高野内は、時刻表のページをさらにめくった。
「『のぞみ150号』が、終点の東京に着くのが、21時16分です。東京からは、21時40分発の上越新幹線『とき353号』に乗れます。その列車は、途中の長岡駅に、23時28分に到着ですから、長岡を23時49分に発車する『きたぐに』には、十分間に合います」
と、高野内は、説明した。
「なるほど、平山泰彦車掌が殺されたのは、『きたぐに』が、柿崎と直江津の間を走っているときだから、長岡から、乗ることができれば、犯行は可能じゃな。それにしても、新幹線の速さを、改めて感じるのう」
と、近藤。
すると、今度は、妹尾が、
「確かに、そうすれば、寺山は、『きたぐに』で犯行が可能なのはわかるが、あと、どうやって、京都のホテルに戻ったのかね? 寺山は、7時に、ホテルの朝食バイキングを利用しているんだよ」
と言い、近藤は、
「事件の後、新潟県と富山県の警察官が、乗客一人ずつ調べたんだが、寺山がいたという情報はない。おそらく、寺山は、犯行後、すぐに下車したと思うのじゃが」
それを聞いた高野内は、時刻表を見ながら、
「寺山は、犯行後、直江津で下車したと思います。『きたぐに』が、直江津に着くのが、0時53分です。直江津からは、1時20分発の寝台特急『日本海2号』に乗れます。『日本海2号』が京都に着くのが、6時34分ですから、7時に朝食バイキングを利用することが可能です」
それを聞いた近藤は、
「そうか。それで、寺山のアリバイは、完全に崩れたな。寺山を逮捕して、吐かせれば、他の事件の解決につながる!」
と言い、
「わしの部下と一緒に、寺山をひっぱってくるよ」
そして、近藤は、高野内たちの前から、去った。
時計を見ると、11時を過ぎていた。
近藤は、30代前半くらいに見える男性刑事と一緒に、高野内たちの前に出てきた。さっき、近藤に、JRに問い合わせた返事を伝えていた刑事である。長身の人である。
「紹介するよ。わしと同じ刑事課の真野(マノ)君です」
と、近藤が言うと、真野刑事は、
「真野といいます」
と言い、高野内たちも、自己紹介をした。
そのあと、近藤は、
「これから、真野君と一緒に、寺山の自宅へ行ってくる」
すると、妹尾が、
「近藤さん、この時間、家にいますかね?」
「そうか。じゃあ、わしらは、自宅へ行ってみるから、妹尾さんたちは、西住建設の本社のほうへ行ってもらえませんか」
「わかりました」
そして、近藤と真野は、寺山の自宅へ、妹尾と難波、それに、高野内たちは、西住建設本社のほうへ向かうことにした」
妹尾運転の覆面車と、難波運転の覆面車の2台は、赤磐南署をあとにした。
妹尾運転の覆面車に、高野内と園町が、難波運転の覆面車に、江波と窈子が乗っている。
2台の覆面車は、岡山市街地を走ると、市役所の前を通り、少し走ると、『西住建設』の看板のあるビルが、高野内たちの目に入った。10階建ての立派なビルだった。2台の覆面車は、ビル隣の駐車場に停止した。
そのときの時刻は、12時40分。多くの社員が休憩中だろう。
妹尾は、受付の女性社員に警察手帳を見せて、用件を言うと、女性社員は、
「今日は、寺山は、出勤していないのです」
と言った。
妹尾、難波と、高野内たちは、覆面車に戻った。
そして、妹尾は、
「おかしいな。自宅にいるのかな?」
と、言いながら、携帯電話を出した。
「近藤警部に、電話してみるよ」
妹尾は、携帯電話のボタンを押し、
「もしもし、県警の妹尾ですが…」
妹尾は、相手と何かを話した後、電話を切り、
「寺山は、京都と東京へ出張した後、自宅へ戻っていないそうだ」
それを聞いた高野内は、
「逮捕を恐れて逃亡しているのでしょうか?」
「そうかもしれん。とにかく、至急、寺山正伸を指名手配するように、本部へ伝えるよ」
妹尾は、慌てたような感じで、警察無線に手をやり、寺山を手配するように言った。
そして、西住建設本社をあとにして、赤磐南署へ戻ることにした。
午後1時ごろ、2台の覆面車は、岡山市内を走っていた。
突然、警察無線から呼び出しの声がかかった。
助手席にいた高野内が、無線機に手を伸ばして、マイクに向かって、
「こちら、県警捜査一課、妹尾警部の覆面車両ですが、現在、赤磐南署へ向かって移動中です。どうぞ」
「こちら、県警本部ですが、先ほど、玉野市の瀬戸内海で、寺山正伸と思われる男の遺体が発見されました。至急、現場へ向かってください。場所は…」
高野内は、運転中の妹尾に、
「寺山と思われる遺体がみつかったそうです!」
「現場へ急行するぞ! 赤灯を出してくれ!」
高野内は、助手席の赤色灯を屋根につけ、サイレンのスイッチを入れた。
無線の内容によると、玉野市の漁港、山田港付近に、男の死体が浮かんでいるのを、漁船の乗員が発見して、通報したらしい。
その死体の特徴が、寺山と一致する点が多いという。
本当に、寺山だとしたら、一体、何があったのだろうか。