浜崎ヒカルのブログ推理小説

ブログを利用して推理小説を書いています。 鉄道ミステリーが中心になります。

2007年07月

 岡山県警本部の会議室では、捜査に関する会議が行なわれていた。
 ホワイトボードには、次の名前が並んでいる。

 宮川達彦
 平山義彦
 宮川英人
 宮川直美
 宮川幸彦
 藤野茂
 福原真紀子
 岩澤正樹
 内村浩一
 戸塚雅明
 平山泰彦
 鴨井圭
 寺山正伸
 荻田勲
 谷合正生
 野崎征太郎

「西住絡みで、16人も亡くなっているのですね」
 窈子が、軽く驚くような表情を見せると、近藤は、
「16人じゃないぞ。もう2人多い18人じゃ」
 と言いながら、ホワイトボードに、
『笠松公彦
 宮本政一』
 と書いた。
「ハムさんと宮本君の命を奪った谷合も許せないが、そういう指示したのは、西住に決まっとるけえのー。奴らのほうこそ、もっと許せん!」
 と、近藤が言うと、
「近藤さん、奴らは、宮川達彦君の死の真相を知っていると思われる人物を次々と殺し、さらに新たにそれについて知りえた人物も殺しているわ。また、宮川君の死亡の件や、平山車掌の殺害の件の真相について、勘付いていそうな人物を、また新たに殺す可能性があるんじゃないかしら」
 と、真由子は言った。
「危ないといえば、浜田部長もかな? 奴は、西住伸吾とは1つ下の後輩で、同じ美術部にいたんじゃ」
「浜田部長もだけど、平山義彦さんの婚約者だった女性もじゃないの」
「確かに、平山義彦には婚約者がいましたのー。名前は、安倉(アクラ)なんとかといったが、年とったせいか、忘れやすいのー」
 近藤は、そう言いながら、手帳を見ようとした。
 すると、真由子は、
「安倉美紀でしょ。平山車掌が殺された日の急行『きたぐに』に乗っていた乗客で、大阪まで乗るつもりだったのに、富山で降りたそうよ」
「佐田警視、どこでそういう情報を得たのですか」
 高野内が聞くと、
「本庁経由で、新潟県警に問い合わせてみたのよ。で、その安倉美紀という女性は、その夜の『きたぐに』に、新潟から岡山までの乗車券で、乗車していて、平山車掌と同乗していた、島田という53歳の車掌から、大阪までの急行券を買っていたわ。それに、平山車掌が乗務しているかどうかを、島田車掌に聞いていたそうよ」
 真由子は、説明した。
「じゃあ、平山車掌殺しに、安倉美紀が関わっていたということはないのですか?」
 若い江波が聞くと、真由子は、
「それはないと思うわ。安倉美紀には、平山車掌を殺す動機はないし、平山車掌の爪から検出された皮膚は、殺された寺山正伸のものと同一だそうよ」
「じゃあ、安倉美紀は、平山車掌が殺されたとき、列車内にいることが犯人に知られると、自分も命を狙われると思って、途中の富山駅で降りたのでしょうか?」
 と、園町が言うと、
「きっと、そうよ」
 と、真由子。

 それから間もなく、野崎の自宅周辺での聞き込みをしてた、妹尾と難波の2人が戻ってきた。
「野崎征太郎の死亡推定時刻がわかりました」
 と、妹尾が言うと、
「いつ頃かな?」
 と、近藤。
「死亡推定時刻は、23日、つまり正確には今日の午前2時から3時の間だそうです。死因は、青酸カリによる毒死で、テーブルの上のブランデーに、青酸カリが混入されていました」
 妹尾は、説明した。
「口封じに殺したのじゃな」
 と、近藤が言うと、今度は、難波が、
「それもあると思いますが、それだけではないようです。近所で聞いた話だと、野崎元捜査一課長は、自家用車にホステスと思われる女性を頻繁に乗せて、いろいろ走っていたそうです。あと、金遣いもすごかったそうです」
 と言った。
「どのような車に乗っていたのですか?」
 と、高野内が聞くと、
「トヨタのアリストで、色は黒色です。ホイールやエアロパーツとかに、かなり金をかけていたそうです」
 と、難波は答えた。
「かなりの奢侈生活ですね。じゃあ、野崎征太郎は、西住から、多額の口止め料を受け取っていたというわけですか」
 と、高野内が言うと、今度は、真由子が、
「そう思うわ」
「じゃあ、野崎征太郎が、口止め料の請求について、だんだん図々しくなってきたのに耐えかねて、殺害した可能性が高そうですね」
「わたしもそう思う」
 今度は、近藤が、
「野崎元刑事課長は、藤野巡査部長と一緒に、宮川君殺害や平山教諭殺害、宮川さん一家殺害について、西住親子のために、真相を隠す工作を図ったが、それと引き換えに、多額の口止め料を要求したんじゃろ。それで、藤野巡査部長や、野崎元刑事課長も、殺さなければならなくなったんじゃな」
 と言った。
 そのときの近藤の表情には、腹立たしい気持ちが出ていた。
 野崎は、近藤の元上司だったし、藤野も、仕事でよく顔を合わせる関係だった。そのような警察官が、犯罪事件の真相の隠蔽と引き換えに、口止め料を要求していたと思われるからである。
「じゃあ、藤野巡査部長が、トラックに追突されて死亡したのも、故意の殺人と見ていいのですね」
 窈子が、そう言うと、近藤は、
「当たり前じゃ。それによく考えてみてくれ。追突したトラックの運転手、戸塚がいた次田運送は、西大寺にある会社じゃー。旧美作町へ行くのに、国道53号線を通る理由なんて、あるもんか!」
 と言った。
 それを聞いた難波は、
「確かに、そうですね。西大寺から、旧美作町なら、旧瀬戸町と、今の赤磐市である、旧山陽町、旧赤坂町、旧吉井町を通るのが、一般的で、わざわざ、53号線へ迂回するのは不自然ですね」
「そうじゃろ。戸塚は、藤野巡査部長を口封じに消すために、利用されたんじゃ」
「そして、出所後、戸塚も、口封じに殺されたのですね」
「おそらく、そうじゃ」
 近藤がそう言うと、高野内は、
「それじゃ、これから、西住親子に、いろいろ聞いてみませんか? この時間なら、自宅にいませんかね」
 すると、近藤は、引き締まった表情で、
「そうじゃな。いろいろ聞き出せば、奴らがボロを出して、それが引き金になれば、次々と真相を知ることができるようになるかもしれんのう」
 それを聞いた妹尾は、
「じゃあ、覆面車2台出すから、赤磐市桜団地の西住の自宅へ向かいましょう」
 そして、高野内たちや真由子、妹尾、難波、近藤、真野の9人は、覆面パトカーで、出発することにした。
 高野内、園町、江波、難波が、妹尾運転の覆面パトカーに乗り、真由子、窈子、近藤は、真野運転の覆面車に乗った。
 2台の覆面車は、県道岡山吉井線を走り、赤磐へ向かっている。
 西住親子に会うことはできるのだろうか。

 高野内、園町、窈子、江波、真由子、近藤、真野の7人は、岡山県警本部の会議室で、捜査に関する手がかりなどをまとめることにした。
「これまで、ようけ殺人事件が起きたが、最初の事件は、15年前の3月12日に、宮川達彦君が、旧山陽町の雑木林で首を吊って死亡した事件じゃのう」
 と、近藤は、手帳で確認しながら言った。
 そして、ホワイトボードに、
『92年3月12日 宮川達彦 桜団地中学校生徒』
 と書き込んだ。
「そして、その4日後に、平山教諭が死亡したのですね」
 と、高野内は、言った。
 すると、近藤は、
「そうじゃ。自殺ということで、片付けられたけーど、わしゃー、殺人じゃと思うけえ」
 と言いながら、
『92年3月16日 平山義彦 桜団地中学校教諭』
 と書いた。
「その次は、宮川さん一家の火災事件ですよね」
 と、園町が言うと、近藤は、
「そうじゃ。それも、自殺ということにされたんじゃが、納得がいかんけえのう。わしが、あとで聞き込みをしたら、不審な車が目撃されたという情報を得たけえ、自殺に見せかけた放火殺人と見ていいと思う。野崎刑事課長や、藤野巡査部長は、そのようなこと、一言も言わなかったが、それは、彼らがグルになって揉み消したに違いないとわしゃ、思うんじゃ」
「じゃあ、それも、自殺に見せかけた殺人に違いないのですね」
「もちろんじゃ」
 近藤は、そう言いながら、ホワイトボードに、
<pre>
『92年4月2日 宮川英人 和気中央高校教諭
       宮川直美 赤磐中央病院勤務
       宮川幸彦 瀬戸北高校生徒』
</pre>
 と書いた。
「じゃあ、この時点で、西住は、5人殺したことになるのですね」
 窈子は、顔を蒼くしながら言った。
「さらに、4月18日には、桜団地駐在所にいた藤野巡査部長が、乗用車に乗車中、トラックに追突されて、死亡したけん」
 と、近藤は、言いながら、
『92年4月18日 藤野茂 桜団地駐在所巡査部長』
 と、ホワイトボードに書き加えた。
 そして、
「さらに、次の4月19日には、福原真紀子(フクハラ・マキコ)という、桜団地中学校の教頭が、自宅で毒入りのワインを飲んで死亡したんじゃ」
 と言った。
 それを聞いた高野内は、
「自殺ですか? それとも、殺人ですか?」
「わしゃ、他殺じゃと思う。ちなみに、ワインの送り主は、高校時代の同級生の名前だったそうじゃが、その名前の同級生は、送った事実はないと言っていたのう」
 と、近藤は言い、ホワイトボードに、
『92年4月19日 福原真紀子 桜団地中学校教頭』
 と書いた。
「92年に起きた事件で、西住が関与していると思われるのは、わしが書いたとおりじゃけん」
 と、近藤。
「それだけでも、7人も殺されたのですね」
 と、高野内は、言った。
 高野内は、だんだんと腹が立ってきた。
 企業の代表取締役と議員としての地位と名誉を守るためとはいえ、共犯者から、何の罪もないと思われる人まで、次々と殺している可能性が高いからである。
 そして、その過去の事実をわからなくするために、最近になっても、また殺人を次々と繰り返していたと思われる。
 そう考えると、ますます腹立たしく感じた。
「そのあとも、次々と殺されて、そして、それに関連して、車掌の平山泰彦さんと、私立探偵の鴨井圭が殺されたのですね」
 と、窈子が言うと、近藤は、
「そうじゃ。一連の事件が始まって翌年の93年には、桜団地中学校の校長だった、岩澤正樹(イワサワ・マサキ)が、帰宅途中、桜団地からの坂道で、事故死しているんじゃ。警察では、運転ミスの事故死ということで片付けられたけど、わしゃ、ただの事故死とは思えんのじゃ」
 それを聞いた高野内は、
「それも、事故死に見せかけた殺人ということですか?」
「じゃと思う」
 と、近藤は答えたあと、ホワイトボードに、
『93年3月5日 岩澤正樹 桜団地中学校校長』
 と書いた。
「これで8人目ですか」
 ホワイトボードを見ながら、江波は言った。
 園町が、ホワイトボードを見ながら、
「近藤警部、亡くなった宮川英人さんは、西住伸吾が通っていた高校の教員だったのですね」
 と言うと、近藤は、
「そうじゃ。西住が入学する1年前にのーなったけーど」
 と言ったあと、手帳に目を向けながら、
「そういやあ、93年の5月10日には、和気中央高校の教諭が1人のーなっとるのー」
 と言った。
「誰ですか?」
 と、高野内が聞くと、近藤は、
「内村浩一(ウチムラ・コウイチ)という、当時53歳だった男性で、宮川さんと同じ桜団地に住んでいたんじゃ」
 と言った。
「どうして亡くなったのですか?」
「通勤途中、桜団地からの坂道で事故を起こしたんじゃ。ブレーキをかけた跡がなかったことや、体内からアルコールが検出されたことから、酒気帯びで暴走運転して死亡したことにされたんじゃけどのー」
 と、近藤は答えたが、納得がいかないような表情だった。
「近藤警部、事故死にされたことに納得がいかないのでしょうか?」
「当たり前じゃ。家族に聞いた話じゃと、内村教諭は、あまりスピードを出さず慎重な運転をする人だったし、それに酒と煙草は嫌っていたそうじゃ。そんな人が、なんで酒気帯びで通勤して事故を起こすんじゃ!」
「なるほど。そうですね」
「おそらく、内村教諭は、宮川さん一家の死に不審を感じて、なにか調べた結果、西住が関係していることに勘付いたんじゃと、わしゃ思う。それで、西住か部下の誰かが、事故死に偽装して、内村教諭を殺害したんだろ」
 と、近藤は、言ったあと、ホワイトボードに、
『93年5月10日 内村浩一 和気中央高校教諭』
 と書いた。
「じゃあ、その時点で、9人も殺されているのですね」
 と、園町が言った。
「そうじゃ。それから、2年後の95年の12月には、藤野巡査部長を死亡させた、戸塚雅明という男が、出所して間もなくのーなったんじゃ」
 と言いながら、近藤は、
『95年12月20日 戸塚雅明 元トラック運転手(鉄工所に再就職決定)』
 と書いた。
「戸塚も殺されたのですね?」
 と、江波が確認するように聞くと、
「その可能性が高いが、まだ証拠が不十分じゃ。だけど、わしゃ、西住に口封じに消されたとしか思えん」
 と、近藤は答えた。
「そのあと、平山泰彦車掌が殺されるまでの間、西住が関係していると思われる殺人事件は起きていないと思われるわ」
 今度は、真由子が言った。
 そして、真由子は、ホワイトボードに、
<pre>
『07年2月21日(午前0時台)  平山泰彦 JR西日本車掌
 07年2月21日(午後11時台)  鴨井圭 私立探偵
 07年2月22日~23日(0時前後)寺山正伸 西住建設課長
 07年2月23日         荻田勲 瀬戸内中央中学校教諭
 07年2月23日         谷合正生 暴力団員
 07年2月23日         野崎征太郎 元岡山県警警視』
</pre>
 と書き込んだ。
「90年代だけでも、10人も殺されているけど、今年になって、また6人も殺されたわよ。これだけ、西住親子にとって、身近な人間が殺されるのは不自然でしょ」
 と、真由子が言うと、
「そうですね。それらが、西住親子の犯行とすれば、他に、宮川さん一家の死や、それに関連する事件の真相を知っていそうな人を、また次々と殺す可能性がありそうですね」
 と、高野内は言った。
「そうよ。それらの凶悪で残忍極まりない犯罪事件を解決するためにも、西住がそれらの事件に関与しているという証拠を捜しましょ」
「でも、15年近く前の事件では、物的証拠は少ないですから、証人を1人でも多く捜しましょうか」
「それも大切だけど、西住親子や身近な人物に、うまく近づいて尋問する機会を見つける方法もあるわ。あれだけ殺したとすれば、今まで、真相を隠してきたとしても、どこかで尻尾を出すと思うわ」
「そうですね。過去の殺人事件を隠すために次々と殺すような、そんな奴らを許せませんよ! なんとしてでも、解決したいですね」
 高野内の発言には、熱がこもっていた。
 そして、事件解決に向けて、さらに会議をすすめることにした。

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