高野内と園町の2人は、岡山駅に着くと、昼食をとり、そのあと、みどりの窓口で、博多までの乗車券と新幹線特急券を買った。
そして、改札を通り、12時51分発の『ひかり461号(レールスター)』に乗車した。
700系電車を使用した列車だが、8両編成と短く、運行されている区間も、JR西日本管内の新大阪・博多間に限定されている。
その列車は、グリーン車がなく、普通車自由席車両3両と指定席車両5両の編成だが、指定席は4列でゆったりとしていて、グリーン車と比べても遜色がない。それを『のぞみ』の指定席よりも安い料金で利用できるため、人気が高く、売れるのが早いという。
高野内たちは、運良く指定席が取れたので、それに乗車したが、それは、放送を一切カットしたサイレンスカーだった。
窓側の座席に腰を下ろした高野内は、西住伸吾が撮ったという写真を見ながら、
「博多に着いたら、JR九州に、その『はやぶさ』が、本当に21日かどうか聞いてみたいな。あと、その日、乗務していた車掌にも、本当に伸吾が乗っていたかどうか聞きたいな」
と、小さな声で言った。
サイレンスカーでは、静かな車内作りに努めるマナーなので、大きな声は好ましくない。
「そうですね。伸吾のそのアリバイ、いかにも作られたという感じが否定できませんよ」
と、園町。
一方、近藤と真野の乗った覆面車は、国道53号線を津山へ向かって北上中だった。運転しているのは真野である。
旧御津郡御津町に入ると、岡山の三大河川の一つ旭川と、JRの津山線と並行するようになる。
しばらく走り、旧御津郡建部町で、旭川と分かれるが、津山線とは、津山市まで並行する。
車は、久米郡久米南町、美咲町を通り、津山市に入った。
そして、市街地で吉井川の橋を渡り、しばらく走って、古い一戸建ての住宅の前に停車した。
そこが、戸塚雅明の実家だという。
生垣や塀に囲まれた庭のある2階建ての木造住宅だった。庭には、芝生が敷き詰めてあり、立派な庭木が何本か植えてあった。
近藤と真野は、車を降りると、玄関へ向かった。
そして、玄関の引き戸を叩きながら、
「ごめんください!」
少し経って、中から、夫婦と思われる70過ぎに見える男女が出てきた。
「何でしょうか?」
と、男が言うと、近藤は、警察手帳を見せながら、
「私は、岡山県警赤磐南署の近藤といいますが、戸塚雅明さんのことで、聞きたいことがあるのですが」
すると、男は、
「わしは、父の戸塚文雄(トツカ・フミオ)といいますが、雅明は自殺したんじゃないんですか?」
と言った。
「後に調べた結果、他殺の可能性も出てきました。それで、雅明さんが、トラックで例の事故を起こす頃、何か変わったこと、なかったですかのー」
「変わったことといいましても…」
文雄が困惑した表情を見せると、妻と思われる女のほうが、
「そういえば、雅明が捕まって、刑務所に入っているとき、雅明の部屋を整理したら、変な暗号みたいな紙が出てきたのです」
「暗号ですか?」
「そうです。念のために保管していましたので、取ってきますわ」
そして、5分ほどして、文雄の妻は戻ってきて、
「刑事さん、これです」
と言いながら、近藤に手渡した。
メモ帳サイズの紙で、樹木の絵と、食べ物のハムの絵と、Sの字が書かれていた。
樹木は、子供が書いた落書きみたいな絵で、何の木かがわからなかった。
「何じゃのう? これは」
近藤は、紙を見ながら、ぶつぶつと言った。
すると、真野は、横から、
「何か重要な手がかりになればいいですね」
「そうじゃのー。じゃが、何を意味しているのか、わからんのー」
と言ったあと、文雄たちのほうを向いて、
「他に、雅明さんに関して、変わったことはありませんでしたか?」
「そうじゃなー。あいつが亡くなって、もうだいぶ経つし、あの事故から、もうすぐ15年でしょう。そんな昔のことなんか、ほとんど、記憶に残ってないですね」
と、文雄は、言った。
「そうですか。わかりました。どうもありがとうございました」
と、近藤は言い、文雄たち夫婦の前から立ち去ろうとすると、夫人は、泣き出しそうな顔で、
「刑事さん、雅明は、本当は自殺じゃないんですよね? 雅明は、そんな簡単に死ぬような人じゃないけん」
と言った。
すると、近藤は、
「そりゃ、これからも調べてみないとはっきりと言えませんが、自殺じゃーない可能性もでてきました。私たちも、雅明さんが浮かばれるよう、精一杯努力します」
そして、近藤と真野は、
「では、失礼します」
と言って、老夫婦の前から去った。
ここで得られたのは、落書きのような絵と文字が書かれた紙だけだったが、何かの暗号のような気がしてならなかった。
そのような近藤と真野が乗った覆面車は、県警本部を目指して、走っていった。
そして、改札を通り、12時51分発の『ひかり461号(レールスター)』に乗車した。
700系電車を使用した列車だが、8両編成と短く、運行されている区間も、JR西日本管内の新大阪・博多間に限定されている。
その列車は、グリーン車がなく、普通車自由席車両3両と指定席車両5両の編成だが、指定席は4列でゆったりとしていて、グリーン車と比べても遜色がない。それを『のぞみ』の指定席よりも安い料金で利用できるため、人気が高く、売れるのが早いという。
高野内たちは、運良く指定席が取れたので、それに乗車したが、それは、放送を一切カットしたサイレンスカーだった。
窓側の座席に腰を下ろした高野内は、西住伸吾が撮ったという写真を見ながら、
「博多に着いたら、JR九州に、その『はやぶさ』が、本当に21日かどうか聞いてみたいな。あと、その日、乗務していた車掌にも、本当に伸吾が乗っていたかどうか聞きたいな」
と、小さな声で言った。
サイレンスカーでは、静かな車内作りに努めるマナーなので、大きな声は好ましくない。
「そうですね。伸吾のそのアリバイ、いかにも作られたという感じが否定できませんよ」
と、園町。
一方、近藤と真野の乗った覆面車は、国道53号線を津山へ向かって北上中だった。運転しているのは真野である。
旧御津郡御津町に入ると、岡山の三大河川の一つ旭川と、JRの津山線と並行するようになる。
しばらく走り、旧御津郡建部町で、旭川と分かれるが、津山線とは、津山市まで並行する。
車は、久米郡久米南町、美咲町を通り、津山市に入った。
そして、市街地で吉井川の橋を渡り、しばらく走って、古い一戸建ての住宅の前に停車した。
そこが、戸塚雅明の実家だという。
生垣や塀に囲まれた庭のある2階建ての木造住宅だった。庭には、芝生が敷き詰めてあり、立派な庭木が何本か植えてあった。
近藤と真野は、車を降りると、玄関へ向かった。
そして、玄関の引き戸を叩きながら、
「ごめんください!」
少し経って、中から、夫婦と思われる70過ぎに見える男女が出てきた。
「何でしょうか?」
と、男が言うと、近藤は、警察手帳を見せながら、
「私は、岡山県警赤磐南署の近藤といいますが、戸塚雅明さんのことで、聞きたいことがあるのですが」
すると、男は、
「わしは、父の戸塚文雄(トツカ・フミオ)といいますが、雅明は自殺したんじゃないんですか?」
と言った。
「後に調べた結果、他殺の可能性も出てきました。それで、雅明さんが、トラックで例の事故を起こす頃、何か変わったこと、なかったですかのー」
「変わったことといいましても…」
文雄が困惑した表情を見せると、妻と思われる女のほうが、
「そういえば、雅明が捕まって、刑務所に入っているとき、雅明の部屋を整理したら、変な暗号みたいな紙が出てきたのです」
「暗号ですか?」
「そうです。念のために保管していましたので、取ってきますわ」
そして、5分ほどして、文雄の妻は戻ってきて、
「刑事さん、これです」
と言いながら、近藤に手渡した。
メモ帳サイズの紙で、樹木の絵と、食べ物のハムの絵と、Sの字が書かれていた。
樹木は、子供が書いた落書きみたいな絵で、何の木かがわからなかった。
「何じゃのう? これは」
近藤は、紙を見ながら、ぶつぶつと言った。
すると、真野は、横から、
「何か重要な手がかりになればいいですね」
「そうじゃのー。じゃが、何を意味しているのか、わからんのー」
と言ったあと、文雄たちのほうを向いて、
「他に、雅明さんに関して、変わったことはありませんでしたか?」
「そうじゃなー。あいつが亡くなって、もうだいぶ経つし、あの事故から、もうすぐ15年でしょう。そんな昔のことなんか、ほとんど、記憶に残ってないですね」
と、文雄は、言った。
「そうですか。わかりました。どうもありがとうございました」
と、近藤は言い、文雄たち夫婦の前から立ち去ろうとすると、夫人は、泣き出しそうな顔で、
「刑事さん、雅明は、本当は自殺じゃないんですよね? 雅明は、そんな簡単に死ぬような人じゃないけん」
と言った。
すると、近藤は、
「そりゃ、これからも調べてみないとはっきりと言えませんが、自殺じゃーない可能性もでてきました。私たちも、雅明さんが浮かばれるよう、精一杯努力します」
そして、近藤と真野は、
「では、失礼します」
と言って、老夫婦の前から去った。
ここで得られたのは、落書きのような絵と文字が書かれた紙だけだったが、何かの暗号のような気がしてならなかった。
そのような近藤と真野が乗った覆面車は、県警本部を目指して、走っていった。