新幹線で岡山に戻った高野内たちは、岡山駅付近のホテルで一泊し、翌日25日に、岡山県警本部に向かった。
本部の会議室には、岡山県警の妹尾警部や難波、それに、近藤警部や真野、そして、警視庁の佐田真由子に、高野内、園町、
江波、一時窈子の9人がいる。
高野内は、24日、福岡と下関で得られた情報を、妹尾たちや近藤たち、真由子や江波や窈子へ知らせた。
「高野内さん、園町さん、ご苦労様」
と、真由子が言うと、
「佐田警視のほうは、何か捜査に関して、新しい情報はありませんか?」
と、高野内。
「西住の秘書の池上雅典は、これからも要マークよ」
と、真由子は、冷静な口調を崩さずに言った。
「池上も、今回の事件に大きく関与しているのですか?」
「そうよ。池上には、西住のためなら、どんなことでも引き受けざるを得ない理由があるわ」
「どういうことですか?」
「池上には、息子が2人いるのだけど、長男は、岡山県倉敷市にあるK医大の2年生で、次男も、そのK医大に進学が決定しているわ」
「K医大といいますと」
と、高野内が聞くと、今度は、妹尾が、
「あの大学は、学費が高い私大でな、普通のサラリーマンの年収の家庭じゃ、とても学費は払えんぞ」
と言った。
それを聞いた高野内が、
「じゃあ、池上は、西住から学費を援助してもらって、その見返りに、犯行の手助けをしているということですか!」
と言うと、
「そうよ」
と、真由子が答えた。
「それで、昨日の池上に何か動きがありましたか?」
今度は、園町が尋ねた。
「ええ。こっそり尾行したら、駅のみどりの窓口で切符を買っていたわ。それで、係員に聞いたら、25日の、岡山から新潟までの乗車券1枚と、大阪から新津までの急行券1枚、それに、新宿から新潟までの乗車券2枚を買っていたわ」
「岡山と新宿では、乗車場所が違いますけど、どれも新潟行きの切符ですね」
「そうよ。ちなみに、急行券は、新津までだけど、下り新潟行きの『きたぐに』は、新津から終点の新潟までは、快速列車になるから、それで、新潟まで、『きたぐに』に乗ることができるわ」
と、真由子が言うと、江波が、
「じゃあ、西住親子と池上は、新潟で何かするつもりなのでしょうか?」
「その可能性も視野に入れたほうがいいわ。事件当時、『きたぐに』に乗っていた安倉美紀は、新潟から乗車したし、それに、新潟には、西住建設の新潟支社があるわ。新潟へ出張のついでに、そこでなにかする可能性があるわ」
「『きたぐに』に乗れる切符が1枚で、あと2枚が新宿からというのが気になりますね」
と、窈子が言うと、
「新宿からの切符で、『ムーンライトえちご』に乗るつもりじゃないかしら」
と、真由子は、答えた。
『ムーンライトえちご』は、新宿と新潟を結ぶ夜行の快速列車である。
「でも、確か、『ムーンライトえちご』は、全席指定でしょう。どうして、指定券を買わなかったのでしょうか?」
と、江波が怪訝そうに言った。
「『ムーンライトえちご』は、人気の高い列車で、早く指定券が売り切れることがあるからよ。それで、指定券だけ早めに買ったのじゃないかしら」
と、真由子が言うと、
「なるほど」
と、江波。
そのあと、高野内のほうを向いて、
「高野内さんたちが調べた、西住伸吾のアリバイについてはどうなの?」
「鴨井圭が殺された21日から22日にかけては、本当に『はやぶさ』に乗っていたようです。博多で乗車したときに乗務していたJR九州の車掌も、途中の下関での交代で乗務していた車掌も、西住伸吾が乗っていたことを憶えていました」
と、高野内は言い、2人の車掌が話した内容を説明した。
それを聞いた真由子は、
「じゃあ、下関の次の宇部か、そのあとの新山口で下車した可能性も、視野に入れたほうがいいわよ」
と言った。
「それじゃあ、広島、福山、岡山の駅名表の写真はどう説明するのですか?」
すると、真由子は、軽く笑いながら、
「そんなもの、その夜に撮らなくても、その次以降の夜に撮ることもできるのじゃないかしら。それに、西住伸吾本人じゃなくても、撮れるじゃない」
と言った。
それを聞いた園町は、時刻表のページをめくりながら、
「それなら、新山口で下車したあと、20時51分発の『ひかり484号』に乗れますね。その『ひかり』なら、22時07分に岡山に着きますので、22時32分発の『サンライズ瀬戸』に乗って、鴨井圭を殺害することは十分可能ですね」
と、はきはきとした口調で言った。
「そうでしょう。西住伸吾のアリバイは崩れたわね」
「父親の晴伸や、秘書の池上の、その夜のアリバイはどうなのでしょうか?」
と、高野内が尋ねると、今度は、妹尾が、
「西住晴伸は、本人が言っていたとおり、田町のクラブで、県議会議員の金山、松川、吉崎の3人と一緒に飲んで楽しんでいたそうだ。それぞれの議員に聞いてみたら、確認が取れた。あと、帰宅に利用した個人タクシーの太田という運転手も、西住晴伸のことを憶えていたよ」
と答えた。
「秘書の池上は、どうですかね?」
すると、今度は、難波が、
「池上は、その夜は、岡山市郊外の高屋にあるD高屋店という24時間営業のスーパーで、買い物をしていたそうです。レシートがありましたし、店員も、顔を憶えていました」
それを聞いた高野内は、
「じゃあ、鴨井圭殺害のホシは、ますます、伸吾以外は考えられませんね」
それを聞いた真由子は、
「ええ。そうでしょ」
妹尾たちや近藤たち、それに、窈子や江波が動いた結果、20日から21日にかけての夜の西住伸吾のアリバイや、22日から23日にかけての夜の西住親子のアリバイも、確認されたという。
「『サンライズ瀬戸』の車内での、鴨井圭殺害のホシは、伸吾に決まりね。さっそく、西住の家へ電話してみるわ」
と、言いながら、真由子は、携帯電話を取り出して、ボタンを押した。
「はい。西住ですが」
と、若い男の声が聞こえた。
「西住伸吾さん、おられますか」
と、真由子が言うと、相手は、
「失礼ですが、どちら様ですか」
「警視庁の佐田といいますが」
と言うと、相手は、口調を変えながら、
「警察だと。伸吾は、俺だが、何のようだ? 俺は、忙しいんだ」
「21日の夜、寝台特急『サンライズ瀬戸』の車内で、鴨井圭が殺害された時刻の、あなたのアリバイ、崩れたわよ」
と、真由子が言うと、
「アリバイ崩れただと? 俺は、その夜なら、『はやぶさ』に乗っていたんだ。証拠の写真もネガも渡したし、車掌も、俺のことを憶えているはずだ。どうして、崩れたのか説明してみろよ!」
と、相手は、怒鳴るように言った。
「確かに、鉄道警察隊の捜査員が、車掌に聞いて調べた結果、少なくとも、博多から宇部までは、あなたが『はやぶさ』に乗っていたことが確認されたわ。あなたが車掌に、積極的に話しかけていたからでしょう。でも、宇部よりあとも乗車していたという証拠はないわ」
「証拠はあるだろ! 広島、福山、岡山で、停車中に撮った写真がな」
「それが、21日から22日の夜に撮ったものという証拠はあるかしら?」
すると、伸吾は、
「刑事さん、まだまだ調べが足りんな。俺は、東京駅で、『はやぶさ』を降りたあと、ホームにいた駅員に、八重洲口の通路を尋ねているんだ。その駅員は、『はやぶさ』のほうを監視していたから、俺が降りてきたところを見ていたかもしれないだろ。あと、それから、八重洲の改札口を出て、八重洲地下街にある写真屋に現像に出したんだよ」
と、笑いながら言った。
そして、相手は、写真屋の名前も言った。確かに、東京駅八重洲口地下街にある、比較的大きな写真屋である。
それを聞いた真由子は、
「わかりました。では、失礼します」
と言いながら、電話を切った。
そして、電話の内容を、高野内たちや、妹尾たち、近藤たちにも説明した。
「ずいぶん自信たっぷりな言い方だったわ」
と、真由子が言うと、
「しかし、それを聞くと、ますます、奴が怪しく感じますね」
と、高野内。
「高野内さん、あなたたちの分駐所の隊員に、本当に、西住伸吾が、駅員に話しかけたかと、八重洲口の写真屋に現像に出したかどうかを調べてもらえないかしら」
「わかりました」
そして、高野内は、分駐所に電話をかけた。
「はい。鉄道警察隊東京駅分駐所ですが」
と、田村警部の声が聞こえた。
「高野内ですが…」
と言いかけると、相手は、
「高野内君、捜査の進展はどうだ?」
「鴨井圭殺害の件なら、容疑者は、西住伸吾に絞られてきたのですが」
と、高野内は言い、推理内容などを説明した。
そして、22日の『はやぶさ』到着時に、伸吾に話しかけられた駅員がいるかどうかと、八重洲口付近の写真屋に現像に出したかどうかを調べてほしいことを伝えた。
「わかった。調べて、結果を、君に電話するよ」
「では、お願いします」
と言って、高野内は、電話を切った。
それから約1時間半過ぎて、高野内の携帯電話が鳴った。
「はい。もしもし、高野内ですが」
と、電話に出ると、相手は、
「田村だが、高野内君、西住伸吾が『はやぶさ』から下車したという22日、到着ホームで監視していた駅員が、西住伸吾のことを憶えていたぞ。『はやぶさ』から下車していたところも見ていたそうだ。確かに、八重洲口までの通路を聞いていたということだ。あと、八重洲口の例の写真屋の店員が、西住伸吾のことを憶えていたし、その日の午前10時15分頃、現像の依頼をしていたことがわかった」
と言った。
「わかりました。ありがとうございます」
と言って、高野内は、電話を切った。
と同時に、肩を落とした。
『はやぶさ』の東京到着が、9時58分で、それから、まもなく、東京駅付近の写真屋に現像に出していたことがわかったからである。
それでは、21日に、博多で『はやぶさ』に乗車後、22日に下車までの間に、駅名表の写真が撮られたことになってしまう。
「西住伸吾は、アリバイ成立ですか?」
と、江波が言うと、
「そのままだと、そういうことになってしまう。でも、何かすっきりしないんだよ」
と、高野内は、悔しそうに言った。
それを聞いた真由子は、
「高野内さん、あなたは、鴨井圭殺害のホシは、西住伸吾しかいないと確信しているんでしょ。それに、伸吾のアリバイは、作られたものである以上、きっと何か崩す方法はあるはずだわ」
「そうですね。何が何でも、奴のアリバイ崩してやるぞ!」
高野内は、熱っぽくなった。
西住伸吾のアリバイは、崩せるのだろうか。
本部の会議室には、岡山県警の妹尾警部や難波、それに、近藤警部や真野、そして、警視庁の佐田真由子に、高野内、園町、
江波、一時窈子の9人がいる。
高野内は、24日、福岡と下関で得られた情報を、妹尾たちや近藤たち、真由子や江波や窈子へ知らせた。
「高野内さん、園町さん、ご苦労様」
と、真由子が言うと、
「佐田警視のほうは、何か捜査に関して、新しい情報はありませんか?」
と、高野内。
「西住の秘書の池上雅典は、これからも要マークよ」
と、真由子は、冷静な口調を崩さずに言った。
「池上も、今回の事件に大きく関与しているのですか?」
「そうよ。池上には、西住のためなら、どんなことでも引き受けざるを得ない理由があるわ」
「どういうことですか?」
「池上には、息子が2人いるのだけど、長男は、岡山県倉敷市にあるK医大の2年生で、次男も、そのK医大に進学が決定しているわ」
「K医大といいますと」
と、高野内が聞くと、今度は、妹尾が、
「あの大学は、学費が高い私大でな、普通のサラリーマンの年収の家庭じゃ、とても学費は払えんぞ」
と言った。
それを聞いた高野内が、
「じゃあ、池上は、西住から学費を援助してもらって、その見返りに、犯行の手助けをしているということですか!」
と言うと、
「そうよ」
と、真由子が答えた。
「それで、昨日の池上に何か動きがありましたか?」
今度は、園町が尋ねた。
「ええ。こっそり尾行したら、駅のみどりの窓口で切符を買っていたわ。それで、係員に聞いたら、25日の、岡山から新潟までの乗車券1枚と、大阪から新津までの急行券1枚、それに、新宿から新潟までの乗車券2枚を買っていたわ」
「岡山と新宿では、乗車場所が違いますけど、どれも新潟行きの切符ですね」
「そうよ。ちなみに、急行券は、新津までだけど、下り新潟行きの『きたぐに』は、新津から終点の新潟までは、快速列車になるから、それで、新潟まで、『きたぐに』に乗ることができるわ」
と、真由子が言うと、江波が、
「じゃあ、西住親子と池上は、新潟で何かするつもりなのでしょうか?」
「その可能性も視野に入れたほうがいいわ。事件当時、『きたぐに』に乗っていた安倉美紀は、新潟から乗車したし、それに、新潟には、西住建設の新潟支社があるわ。新潟へ出張のついでに、そこでなにかする可能性があるわ」
「『きたぐに』に乗れる切符が1枚で、あと2枚が新宿からというのが気になりますね」
と、窈子が言うと、
「新宿からの切符で、『ムーンライトえちご』に乗るつもりじゃないかしら」
と、真由子は、答えた。
『ムーンライトえちご』は、新宿と新潟を結ぶ夜行の快速列車である。
「でも、確か、『ムーンライトえちご』は、全席指定でしょう。どうして、指定券を買わなかったのでしょうか?」
と、江波が怪訝そうに言った。
「『ムーンライトえちご』は、人気の高い列車で、早く指定券が売り切れることがあるからよ。それで、指定券だけ早めに買ったのじゃないかしら」
と、真由子が言うと、
「なるほど」
と、江波。
そのあと、高野内のほうを向いて、
「高野内さんたちが調べた、西住伸吾のアリバイについてはどうなの?」
「鴨井圭が殺された21日から22日にかけては、本当に『はやぶさ』に乗っていたようです。博多で乗車したときに乗務していたJR九州の車掌も、途中の下関での交代で乗務していた車掌も、西住伸吾が乗っていたことを憶えていました」
と、高野内は言い、2人の車掌が話した内容を説明した。
それを聞いた真由子は、
「じゃあ、下関の次の宇部か、そのあとの新山口で下車した可能性も、視野に入れたほうがいいわよ」
と言った。
「それじゃあ、広島、福山、岡山の駅名表の写真はどう説明するのですか?」
すると、真由子は、軽く笑いながら、
「そんなもの、その夜に撮らなくても、その次以降の夜に撮ることもできるのじゃないかしら。それに、西住伸吾本人じゃなくても、撮れるじゃない」
と言った。
それを聞いた園町は、時刻表のページをめくりながら、
「それなら、新山口で下車したあと、20時51分発の『ひかり484号』に乗れますね。その『ひかり』なら、22時07分に岡山に着きますので、22時32分発の『サンライズ瀬戸』に乗って、鴨井圭を殺害することは十分可能ですね」
と、はきはきとした口調で言った。
「そうでしょう。西住伸吾のアリバイは崩れたわね」
「父親の晴伸や、秘書の池上の、その夜のアリバイはどうなのでしょうか?」
と、高野内が尋ねると、今度は、妹尾が、
「西住晴伸は、本人が言っていたとおり、田町のクラブで、県議会議員の金山、松川、吉崎の3人と一緒に飲んで楽しんでいたそうだ。それぞれの議員に聞いてみたら、確認が取れた。あと、帰宅に利用した個人タクシーの太田という運転手も、西住晴伸のことを憶えていたよ」
と答えた。
「秘書の池上は、どうですかね?」
すると、今度は、難波が、
「池上は、その夜は、岡山市郊外の高屋にあるD高屋店という24時間営業のスーパーで、買い物をしていたそうです。レシートがありましたし、店員も、顔を憶えていました」
それを聞いた高野内は、
「じゃあ、鴨井圭殺害のホシは、ますます、伸吾以外は考えられませんね」
それを聞いた真由子は、
「ええ。そうでしょ」
妹尾たちや近藤たち、それに、窈子や江波が動いた結果、20日から21日にかけての夜の西住伸吾のアリバイや、22日から23日にかけての夜の西住親子のアリバイも、確認されたという。
「『サンライズ瀬戸』の車内での、鴨井圭殺害のホシは、伸吾に決まりね。さっそく、西住の家へ電話してみるわ」
と、言いながら、真由子は、携帯電話を取り出して、ボタンを押した。
「はい。西住ですが」
と、若い男の声が聞こえた。
「西住伸吾さん、おられますか」
と、真由子が言うと、相手は、
「失礼ですが、どちら様ですか」
「警視庁の佐田といいますが」
と言うと、相手は、口調を変えながら、
「警察だと。伸吾は、俺だが、何のようだ? 俺は、忙しいんだ」
「21日の夜、寝台特急『サンライズ瀬戸』の車内で、鴨井圭が殺害された時刻の、あなたのアリバイ、崩れたわよ」
と、真由子が言うと、
「アリバイ崩れただと? 俺は、その夜なら、『はやぶさ』に乗っていたんだ。証拠の写真もネガも渡したし、車掌も、俺のことを憶えているはずだ。どうして、崩れたのか説明してみろよ!」
と、相手は、怒鳴るように言った。
「確かに、鉄道警察隊の捜査員が、車掌に聞いて調べた結果、少なくとも、博多から宇部までは、あなたが『はやぶさ』に乗っていたことが確認されたわ。あなたが車掌に、積極的に話しかけていたからでしょう。でも、宇部よりあとも乗車していたという証拠はないわ」
「証拠はあるだろ! 広島、福山、岡山で、停車中に撮った写真がな」
「それが、21日から22日の夜に撮ったものという証拠はあるかしら?」
すると、伸吾は、
「刑事さん、まだまだ調べが足りんな。俺は、東京駅で、『はやぶさ』を降りたあと、ホームにいた駅員に、八重洲口の通路を尋ねているんだ。その駅員は、『はやぶさ』のほうを監視していたから、俺が降りてきたところを見ていたかもしれないだろ。あと、それから、八重洲の改札口を出て、八重洲地下街にある写真屋に現像に出したんだよ」
と、笑いながら言った。
そして、相手は、写真屋の名前も言った。確かに、東京駅八重洲口地下街にある、比較的大きな写真屋である。
それを聞いた真由子は、
「わかりました。では、失礼します」
と言いながら、電話を切った。
そして、電話の内容を、高野内たちや、妹尾たち、近藤たちにも説明した。
「ずいぶん自信たっぷりな言い方だったわ」
と、真由子が言うと、
「しかし、それを聞くと、ますます、奴が怪しく感じますね」
と、高野内。
「高野内さん、あなたたちの分駐所の隊員に、本当に、西住伸吾が、駅員に話しかけたかと、八重洲口の写真屋に現像に出したかどうかを調べてもらえないかしら」
「わかりました」
そして、高野内は、分駐所に電話をかけた。
「はい。鉄道警察隊東京駅分駐所ですが」
と、田村警部の声が聞こえた。
「高野内ですが…」
と言いかけると、相手は、
「高野内君、捜査の進展はどうだ?」
「鴨井圭殺害の件なら、容疑者は、西住伸吾に絞られてきたのですが」
と、高野内は言い、推理内容などを説明した。
そして、22日の『はやぶさ』到着時に、伸吾に話しかけられた駅員がいるかどうかと、八重洲口付近の写真屋に現像に出したかどうかを調べてほしいことを伝えた。
「わかった。調べて、結果を、君に電話するよ」
「では、お願いします」
と言って、高野内は、電話を切った。
それから約1時間半過ぎて、高野内の携帯電話が鳴った。
「はい。もしもし、高野内ですが」
と、電話に出ると、相手は、
「田村だが、高野内君、西住伸吾が『はやぶさ』から下車したという22日、到着ホームで監視していた駅員が、西住伸吾のことを憶えていたぞ。『はやぶさ』から下車していたところも見ていたそうだ。確かに、八重洲口までの通路を聞いていたということだ。あと、八重洲口の例の写真屋の店員が、西住伸吾のことを憶えていたし、その日の午前10時15分頃、現像の依頼をしていたことがわかった」
と言った。
「わかりました。ありがとうございます」
と言って、高野内は、電話を切った。
と同時に、肩を落とした。
『はやぶさ』の東京到着が、9時58分で、それから、まもなく、東京駅付近の写真屋に現像に出していたことがわかったからである。
それでは、21日に、博多で『はやぶさ』に乗車後、22日に下車までの間に、駅名表の写真が撮られたことになってしまう。
「西住伸吾は、アリバイ成立ですか?」
と、江波が言うと、
「そのままだと、そういうことになってしまう。でも、何かすっきりしないんだよ」
と、高野内は、悔しそうに言った。
それを聞いた真由子は、
「高野内さん、あなたは、鴨井圭殺害のホシは、西住伸吾しかいないと確信しているんでしょ。それに、伸吾のアリバイは、作られたものである以上、きっと何か崩す方法はあるはずだわ」
「そうですね。何が何でも、奴のアリバイ崩してやるぞ!」
高野内は、熱っぽくなった。
西住伸吾のアリバイは、崩せるのだろうか。