浜崎ヒカルのブログ推理小説

ブログを利用して推理小説を書いています。 鉄道ミステリーが中心になります。

2007年12月

 新幹線で岡山に戻った高野内たちは、岡山駅付近のホテルで一泊し、翌日25日に、岡山県警本部に向かった。
 本部の会議室には、岡山県警の妹尾警部や難波、それに、近藤警部や真野、そして、警視庁の佐田真由子に、高野内、園町、
江波、一時窈子の9人がいる。
 高野内は、24日、福岡と下関で得られた情報を、妹尾たちや近藤たち、真由子や江波や窈子へ知らせた。
「高野内さん、園町さん、ご苦労様」
 と、真由子が言うと、
「佐田警視のほうは、何か捜査に関して、新しい情報はありませんか?」
 と、高野内。
「西住の秘書の池上雅典は、これからも要マークよ」
 と、真由子は、冷静な口調を崩さずに言った。
「池上も、今回の事件に大きく関与しているのですか?」
「そうよ。池上には、西住のためなら、どんなことでも引き受けざるを得ない理由があるわ」
「どういうことですか?」
「池上には、息子が2人いるのだけど、長男は、岡山県倉敷市にあるK医大の2年生で、次男も、そのK医大に進学が決定しているわ」
「K医大といいますと」
 と、高野内が聞くと、今度は、妹尾が、
「あの大学は、学費が高い私大でな、普通のサラリーマンの年収の家庭じゃ、とても学費は払えんぞ」
 と言った。
 それを聞いた高野内が、
「じゃあ、池上は、西住から学費を援助してもらって、その見返りに、犯行の手助けをしているということですか!」
 と言うと、
「そうよ」
 と、真由子が答えた。
「それで、昨日の池上に何か動きがありましたか?」
 今度は、園町が尋ねた。
「ええ。こっそり尾行したら、駅のみどりの窓口で切符を買っていたわ。それで、係員に聞いたら、25日の、岡山から新潟までの乗車券1枚と、大阪から新津までの急行券1枚、それに、新宿から新潟までの乗車券2枚を買っていたわ」
「岡山と新宿では、乗車場所が違いますけど、どれも新潟行きの切符ですね」
「そうよ。ちなみに、急行券は、新津までだけど、下り新潟行きの『きたぐに』は、新津から終点の新潟までは、快速列車になるから、それで、新潟まで、『きたぐに』に乗ることができるわ」
 と、真由子が言うと、江波が、
「じゃあ、西住親子と池上は、新潟で何かするつもりなのでしょうか?」
「その可能性も視野に入れたほうがいいわ。事件当時、『きたぐに』に乗っていた安倉美紀は、新潟から乗車したし、それに、新潟には、西住建設の新潟支社があるわ。新潟へ出張のついでに、そこでなにかする可能性があるわ」
「『きたぐに』に乗れる切符が1枚で、あと2枚が新宿からというのが気になりますね」
 と、窈子が言うと、
「新宿からの切符で、『ムーンライトえちご』に乗るつもりじゃないかしら」
 と、真由子は、答えた。
 『ムーンライトえちご』は、新宿と新潟を結ぶ夜行の快速列車である。
「でも、確か、『ムーンライトえちご』は、全席指定でしょう。どうして、指定券を買わなかったのでしょうか?」
 と、江波が怪訝そうに言った。
「『ムーンライトえちご』は、人気の高い列車で、早く指定券が売り切れることがあるからよ。それで、指定券だけ早めに買ったのじゃないかしら」
 と、真由子が言うと、
「なるほど」
 と、江波。
 そのあと、高野内のほうを向いて、
「高野内さんたちが調べた、西住伸吾のアリバイについてはどうなの?」
「鴨井圭が殺された21日から22日にかけては、本当に『はやぶさ』に乗っていたようです。博多で乗車したときに乗務していたJR九州の車掌も、途中の下関での交代で乗務していた車掌も、西住伸吾が乗っていたことを憶えていました」
 と、高野内は言い、2人の車掌が話した内容を説明した。
 それを聞いた真由子は、
「じゃあ、下関の次の宇部か、そのあとの新山口で下車した可能性も、視野に入れたほうがいいわよ」
 と言った。
「それじゃあ、広島、福山、岡山の駅名表の写真はどう説明するのですか?」
 すると、真由子は、軽く笑いながら、
「そんなもの、その夜に撮らなくても、その次以降の夜に撮ることもできるのじゃないかしら。それに、西住伸吾本人じゃなくても、撮れるじゃない」
 と言った。
 それを聞いた園町は、時刻表のページをめくりながら、
「それなら、新山口で下車したあと、20時51分発の『ひかり484号』に乗れますね。その『ひかり』なら、22時07分に岡山に着きますので、22時32分発の『サンライズ瀬戸』に乗って、鴨井圭を殺害することは十分可能ですね」
 と、はきはきとした口調で言った。
「そうでしょう。西住伸吾のアリバイは崩れたわね」
「父親の晴伸や、秘書の池上の、その夜のアリバイはどうなのでしょうか?」
 と、高野内が尋ねると、今度は、妹尾が、
「西住晴伸は、本人が言っていたとおり、田町のクラブで、県議会議員の金山、松川、吉崎の3人と一緒に飲んで楽しんでいたそうだ。それぞれの議員に聞いてみたら、確認が取れた。あと、帰宅に利用した個人タクシーの太田という運転手も、西住晴伸のことを憶えていたよ」
 と答えた。
「秘書の池上は、どうですかね?」
 すると、今度は、難波が、
「池上は、その夜は、岡山市郊外の高屋にあるD高屋店という24時間営業のスーパーで、買い物をしていたそうです。レシートがありましたし、店員も、顔を憶えていました」
 それを聞いた高野内は、
「じゃあ、鴨井圭殺害のホシは、ますます、伸吾以外は考えられませんね」
 それを聞いた真由子は、
「ええ。そうでしょ」
 妹尾たちや近藤たち、それに、窈子や江波が動いた結果、20日から21日にかけての夜の西住伸吾のアリバイや、22日から23日にかけての夜の西住親子のアリバイも、確認されたという。
「『サンライズ瀬戸』の車内での、鴨井圭殺害のホシは、伸吾に決まりね。さっそく、西住の家へ電話してみるわ」
 と、言いながら、真由子は、携帯電話を取り出して、ボタンを押した。
「はい。西住ですが」
 と、若い男の声が聞こえた。
「西住伸吾さん、おられますか」
 と、真由子が言うと、相手は、
「失礼ですが、どちら様ですか」
「警視庁の佐田といいますが」
 と言うと、相手は、口調を変えながら、
「警察だと。伸吾は、俺だが、何のようだ? 俺は、忙しいんだ」
「21日の夜、寝台特急『サンライズ瀬戸』の車内で、鴨井圭が殺害された時刻の、あなたのアリバイ、崩れたわよ」
 と、真由子が言うと、
「アリバイ崩れただと? 俺は、その夜なら、『はやぶさ』に乗っていたんだ。証拠の写真もネガも渡したし、車掌も、俺のことを憶えているはずだ。どうして、崩れたのか説明してみろよ!」
 と、相手は、怒鳴るように言った。
「確かに、鉄道警察隊の捜査員が、車掌に聞いて調べた結果、少なくとも、博多から宇部までは、あなたが『はやぶさ』に乗っていたことが確認されたわ。あなたが車掌に、積極的に話しかけていたからでしょう。でも、宇部よりあとも乗車していたという証拠はないわ」
「証拠はあるだろ! 広島、福山、岡山で、停車中に撮った写真がな」
「それが、21日から22日の夜に撮ったものという証拠はあるかしら?」
 すると、伸吾は、
「刑事さん、まだまだ調べが足りんな。俺は、東京駅で、『はやぶさ』を降りたあと、ホームにいた駅員に、八重洲口の通路を尋ねているんだ。その駅員は、『はやぶさ』のほうを監視していたから、俺が降りてきたところを見ていたかもしれないだろ。あと、それから、八重洲の改札口を出て、八重洲地下街にある写真屋に現像に出したんだよ」
 と、笑いながら言った。
 そして、相手は、写真屋の名前も言った。確かに、東京駅八重洲口地下街にある、比較的大きな写真屋である。
 それを聞いた真由子は、
「わかりました。では、失礼します」
 と言いながら、電話を切った。
 そして、電話の内容を、高野内たちや、妹尾たち、近藤たちにも説明した。
「ずいぶん自信たっぷりな言い方だったわ」
 と、真由子が言うと、
「しかし、それを聞くと、ますます、奴が怪しく感じますね」
 と、高野内。
「高野内さん、あなたたちの分駐所の隊員に、本当に、西住伸吾が、駅員に話しかけたかと、八重洲口の写真屋に現像に出したかどうかを調べてもらえないかしら」
「わかりました」
 そして、高野内は、分駐所に電話をかけた。
「はい。鉄道警察隊東京駅分駐所ですが」
 と、田村警部の声が聞こえた。
「高野内ですが…」
 と言いかけると、相手は、
「高野内君、捜査の進展はどうだ?」
「鴨井圭殺害の件なら、容疑者は、西住伸吾に絞られてきたのですが」
 と、高野内は言い、推理内容などを説明した。
 そして、22日の『はやぶさ』到着時に、伸吾に話しかけられた駅員がいるかどうかと、八重洲口付近の写真屋に現像に出したかどうかを調べてほしいことを伝えた。
「わかった。調べて、結果を、君に電話するよ」
「では、お願いします」
 と言って、高野内は、電話を切った。

 それから約1時間半過ぎて、高野内の携帯電話が鳴った。
「はい。もしもし、高野内ですが」
 と、電話に出ると、相手は、
「田村だが、高野内君、西住伸吾が『はやぶさ』から下車したという22日、到着ホームで監視していた駅員が、西住伸吾のことを憶えていたぞ。『はやぶさ』から下車していたところも見ていたそうだ。確かに、八重洲口までの通路を聞いていたということだ。あと、八重洲口の例の写真屋の店員が、西住伸吾のことを憶えていたし、その日の午前10時15分頃、現像の依頼をしていたことがわかった」
 と言った。
「わかりました。ありがとうございます」
 と言って、高野内は、電話を切った。
 と同時に、肩を落とした。
 『はやぶさ』の東京到着が、9時58分で、それから、まもなく、東京駅付近の写真屋に現像に出していたことがわかったからである。
 それでは、21日に、博多で『はやぶさ』に乗車後、22日に下車までの間に、駅名表の写真が撮られたことになってしまう。
「西住伸吾は、アリバイ成立ですか?」
 と、江波が言うと、
「そのままだと、そういうことになってしまう。でも、何かすっきりしないんだよ」
 と、高野内は、悔しそうに言った。
 それを聞いた真由子は、
「高野内さん、あなたは、鴨井圭殺害のホシは、西住伸吾しかいないと確信しているんでしょ。それに、伸吾のアリバイは、作られたものである以上、きっと何か崩す方法はあるはずだわ」
「そうですね。何が何でも、奴のアリバイ崩してやるぞ!」
 高野内は、熱っぽくなった。
 西住伸吾のアリバイは、崩せるのだろうか。

 14時41分、高野内と園町が乗った新幹線『ひかり461号(レールスター)』は、定刻どおり、博多駅に到着した。
 博多駅に着くと、高野内と園町の2人は、改札の外に出た。
「まず、最初は、西住伸吾が写した『はやぶさ』の機関車が、本当に、21日のものかどうか、JR九州に聞いて確認してみようか」
 高野内がそう言うと、園町は、
「そうですね。博多駅前にある、JR九州の本社に行って、聞いてみましょうか」
「そうだな」
 そして、高野内と園町は、博多駅前のそばにあるJR九州の本社を訪れた。
 入口の受付係の女性に警察手帳を見せ、用件を話すと、すぐに、別の社員を呼んでくれた。
 それから、別の部屋に案内されたあと、中年過ぎの男性社員が、
「21日の上り『はやぶさ』の運用に入った機関車の番号を知りたいのですね?」
 と、入念そうに聞いた。
「はい。そうです」
 と、高野内は言いながら、バッグから、西住が撮影した『はやぶさ』の写真を出して、
「この番号の機関車が、本当に、21日の上り『はやぶさ』の運用に入ったかを確認したいのです」
「わかりました。もうしばらくお待ちください」
 社員は、いったん、高野内たちの前から去った。
 そして、数分後、その男性社員は、戻ってきて、
「お待たせしました。それで、21日の上り『はやぶさ』の熊本から門司までの牽引は、刑事さんがお持ちの写真の機関車が充当されていましたね」
「本当に間違いないですか?」
 高野内が、念入りに聞き返すと、
「はい。間違いないです」
 と、その社員は、きっぱりと答えた。
「参考までに、今月の初日から今日までの『はやぶさ』の機関車運用を印刷してきましたので、お渡しいたします」
 社員は、高野内に印刷した紙を手渡した。
 確認してみると、21日に、上り『はやぶさ』の運用に入ったED76型機関車の車両番号と、西住伸吾が写した『はやぶさ』の機関車の番号が一致している。
(21日に、『はやぶさ』に乗ったのは間違いないのだろうか)
 高野内は、そう思いながら、写真と機関車運用が印刷された紙を見ていた。
 そのあと、高野内と園町は、社員に礼を言って、JR九州本社をあとにした。
 それから、駅の中にあるカフェに入り、飲み物を注文して、椅子に腰を下ろした。
「西住伸吾が、21日に、『はやぶさ』に乗ったのは、間違いなさそうですよね」
 と、園町が残念そうに言うと、
「いや。写真自体は21日に撮影されたものかもしれないが、他の人物が撮影したということも考えられるぞ」
 と、高野内。
「だとすると、誰でしょうか?」
「それが思い浮かばないんだ。奴が、本当に『はやぶさ』に乗っていたかどうかは、車掌にも聞いてみたいと思う」
 高野内と園町は、飲み物を飲み終えて、カフェを出ると、博多駅付近にある博多車掌区へ向かった。
 車掌区に着くと、高野内は、責任者と思われる中年過ぎの男性に警察手帳を見せて、
「鉄道警察隊の者ですが、『はやぶさ』号担当の車掌さんは、おたくの車掌区でしょうか?」
「はい。JR九州管内の下関と熊本の間は、うちの車掌区が担当していますが」
 と、相手は答えた。
「今月の21日に、上り『はやぶさ』に乗務していた車掌さんにお会いしたのですが」
「少しお待ちください」
 と、相手は言ったあと、いったん、高野内たちの前から去った。
 そして、数分後、戻ってきて、
「21日の上りの『はやぶさ』は、熊本から下関までは、長澤(ナガサワ)が担当していましたね」
「今、おられますかね?」
「はい。今、休憩をしています。呼んできましょうか?」
「お願いします」
 それから少し経って、その責任者は、1人の車掌を連れて、高野内たちの前へ来た。
 JR九州の制服を着た、50代半ばくらいで、中肉中背の男だった。
「長澤といいます」
 と、車掌は、名乗った。
「鉄道警察の者ですが、今月の21日、上りの『はやぶさ』の乗務をされたのは、あなたですよね?」
 と、高野内が聞くと、長澤という車掌は、
「はい。そうですが、警察の方が何の用でしょうか?」
 と言った。 
 高野内は、バッグから、西住伸吾の顔写真のカラーコピーを出して、
「その日、この顔の人は乗っていましたかね?」
 と、言いながら、長澤車掌に見せた。
 すると、長澤車掌は、
「ええ。憶えていますよ。A寝台車に乗っていましたね。ちなみに、切符の行き先は、東京でした」
 と、はっきりと答えた。
「本当に間違いないですか?」
 高野内が、入念に聞くと、
「はい。間違いないです。博多を出て、すぐに車内改札をしたのですが、その方には、定刻どおりに走っているかとか、列車に売店は
ないのかとか、聞かれましたからね」
 と、長澤車掌。
(自分が乗っていたことを、乗務員に印象づけるためだな)
 と、高野内は、思った。
 しかし、これで、西住伸吾は、博多から『はやぶさ』に乗っていたことは、証明されてしまった。
 高野内と園町は、車掌区の責任者と長澤車掌に礼を言って、車掌区をあとにした。

 博多車掌区をあとにした高野内は、少し肩を落としていた。
 西住伸吾が、21日、博多から『はやぶさ』に乗っていたことが証明されたからである。 
 博多から東京まで、ずっと『はやぶさ』に乗っていたのなら、その夜に、サンライズの車内で、鴨井圭を殺すことは不可能である。
「そうだ。念のために、下関から担当した車掌にも聞いてみよう」
 と、高野内が言うと、
「『はやぶさ』の下関と東京の間は、JR西日本の下関地域鉄道部でしたね」
 と、園町。
「よし、下関へ行ってみよう」
 高野内と園町は、みどりの窓口で、下関までの切符を買い、新幹線改札口を通った。
 そして、16時52分発の『こだま668号』に乗車した。
 それは、100系新幹線6両編成である。今となっては、編成が短縮されたうえ、ライトグレーにグリーンの帯に塗り替えられているが、かつては、2階建て車両を組み込んで、堂々と東海道・山陽新幹線の『ひかり』号で活躍していた。
 100系電車に乗れるのは、現在では、山陽新幹線内のみとなり、それも『こだま』に限定されている。
 高野内と園町は、自由席車両に入り、腰を下ろした。座席は、4列のゆったりとしたものになっている。車内は空いていた。
 16時52分になると、定刻どおり、発車し、途中、小倉に停車して、新下関駅に停車すると、高野内たちは、列車を降りた。
 新幹線を降りると、乗り換え改札を通り、山陽本線の普通列車を待った。
 17時38分発の下関行きが入ると、乗車した。車内はいっぱいだった。
 17時47分に終点の下関に着くと、改札を通り、いったん駅の外に出ることにした。
 下関駅は、06年の火災で、駅舎が全焼していて、こじんまりとした仮駅舎で営業していた。
 高野内たちは、下関地域鉄道部乗務員センターに着くと、責任者と思われる中年過ぎの男性社員に警察手帳を見せて、
「鉄道警察ですが、今月21日に下関を出た、上り『はやぶさ・富士』併結列車を担当した車掌さんに会って話をしたいのですが」
「21日は、確か、清水(シミズ)と野村(ノムラ)の2人ですね」
 と、相手は答えた。
「『はやぶさ』の車両のほうを担当した車掌さんは、どちらですか?」
 と、高野内が聞くと、
「清水君ですね」
「その車掌さんに会わせてもらえますか?」
「清水も野村も、今朝、勤務を終えて、自宅で休んでいます」
「じゃあ、清水車掌さんのほうに会って聞きたいことがあるのですが、住所を教えてもらえませんか?」
 すると、責任者の男性は、心配そうに、
「清水が何かをしたのですか?」
 と聞いてきた。
「いいえ。ある人物が、21日の上り『はやぶさ』に乗っていたかどうかを調べています。それで、車掌さんに会って、顔を憶えているかどうか聞いているのです」
 と、高野内は、説明した。
 それを聞いた相手は、安心したように、
「そうですか。わかりました。では、お教えしましょう」
 そして、清水車掌の住所を書いた紙を、高野内に手渡した。
 高野内と園町は、責任者に礼を言って、乗務員センターをあとにした。
 それから、駅前で、タクシーを拾い、清水車掌の自宅へ向かった。
 タクシーで20分ほど走って、古い一戸建ての家の前に止まった。
 表札を見ると、『清水』と書かれている。
 高野内は、呼び鈴を鳴らした。
 すぐに玄関のドアが開き、40代半ばくらいの男が出てきた。
「どなたでしょうか?」
 と、相手が言うと、高野内は、警察手帳を出して、
「警視庁鉄道警察隊の者ですが、車掌をされている清水さんでしょうか?」
「そうですが、私に何か御用でしょうか?」
 と、相手は言った。
「今月21日の上り『はやぶさ』に、ある人物が乗っていたかどうかを調べています。それで、あなたにも、聞きたいことがあるのですが」
 と言うと、
「どんな人物でしょうか?」
 と、清水車掌は言った。
 高野内は、西住伸吾の顔写真のコピーを出して、清水車掌に見せながら、
「この顔に見覚えありませんか?」
 と聞いた。
 すると、
「ええ。憶えていますよ。A寝台車に乗っていた人でしょう」
 と、清水車掌は、はっきりとした言い方で答えた。
「よく憶えていますね」
「その人は、乗務員交代のある下関を発車して、まもなく、私に、頭痛薬がないかどうかを聞いてきたのです。それで、私が差し上げました。あと、横浜を出てすぐに、おかげで頭痛がやわらいだと、礼を言いにきましたね」
「それで、憶えておられるのですね」
 と、高野内が言うと、
「そうです」
 と、清水車掌。
(これで、西住伸吾は、鴨井圭殺害に関しては、アリバイ成立か)
 高野内は、頭を痛めていた。
 高野内と園町は、清水車掌に礼を行った後、清水宅をあとにした。
 それから、大きな通りへ歩き、路線バスで下関駅へ戻った。
 そして、下関駅から、新下関駅までは、山陽本線に乗り、新下関駅からは、新幹線『こだま』に乗車した。
「西住伸吾は、アリバイ成立か」
 と、高野内が不満そうに言うと、
「鴨井圭を殺したのは、親父かもしれないし、池上という男かもしれませんね。奴らについては、岡山県警の人や、一時や江波が、きっと、調べてくれていると思いますよ」
 と、園町。
「そうだろうけど、俺は、西住伸吾が撮った写真や、車掌との会話と言い、アリバイを作るための手段としか思えないんだ。作られたアリバイであるからには、必ず、崩す方法があると、俺は確信しているよ」
 と、高野内は、熱っぽく言った。
 西住伸吾のアリバイは、崩せるのだろうか。

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