浜崎ヒカルのブログ推理小説

ブログを利用して推理小説を書いています。 鉄道ミステリーが中心になります。

2008年01月

 高野内、園町、窈子、江波、真由子、妹尾、難波、近藤、真野の9人の捜査員は、正午過ぎた頃、岡山駅に到着した。
 地下駐車場に車を止めて、改札口を通り、14番ホームに向かった。
 上り『はやぶさ』『富士』の併結列車が止まるホームである。
 西住伸吾が撮影した駅名表の写真を見ながら、妹尾は、
「おそらく、西住伸吾は、一緒に写っているベンチやゴミ箱、広告看板との位置関係から、あの駅名表を写したんだと思うな」
 と、駅名表を指さした。
 駅名表の下には、ベンチやゴミ箱、広告看板、時刻表などがある。
「ここは、『はやぶさ』編成の客車が止まる位置ですから、間違いないでしょうね」
 と、難波は、停車位置案内や駅名表の周辺を見ながら言った。
 駅名表は、電光式で、夜間は、内部に組み込んだ蛍光灯で照らされる仕組みになっている。
 高野内も、妹尾が指さした駅名表のほうに眼を向けた。
 よく見ると、駅名表の左端上部が割られていた。
 誰かが、石か何かを投げて壊したのだろう。
「あっ、この駅名表、誰かに壊されていますね。写真に写っているのは、何ともないのに」
 と、高野内が言うと、妹尾は、
「言われてみれば、そうじゃな」
 と頷いた。
「いつ壊されたのでしょうか?」
 と、園町が言うと、
「俺も、それを知りたいな。ひょっとしたら、西住伸吾のアリバイを崩す手がかりになるかもしれないよ」
 と、高野内。
「じゃあ、岡山の鉄警隊の人に聞いてみよう」
 と、妹尾は言い、そして、岡山駅構内にある、鉄道警察隊の分駐所へ向かった。
 鉄道警察隊の分駐所へ行くと、50歳くらいの男性警察官が出てきて、
「何か御用でしょうか?」
 と、相手は言った。
 妹尾が警察手帳を見せながら、
「県警の妹尾ですが、14番ホームの駅名表の破損の件について、お聞きしたいのですが」
 すると、相手は、
「私は、鉄道警察隊の安原(ヤスハラ)といいますが、駅名表を破損させた犯人は、私と、うちの隊員が、逮捕しました」
 と言った。
「それは、いつ頃でしたか?」
 と、妹尾が聞くと、
「20日の晩です。少年と思われる男2人が、14番ホームで、石を投げながら、ふざけまわっているという通報がありまして、駆けつけたところ、少年2人が、駅名表とかに石を投げていました。そのとき、駅名表が破損しましたね」
 と、安原は、答えた。
「動機は、何だったのですか?」
「2人とも、むしゃくしゃしたからと言っていましたね。だからといって、駅にあるものを石投げて壊すなんて、悪質極まりないですよ」
 と、安原は、呆れたように言った。
「破壊行為があったのは、本当に、20日の晩で間違いないのですね?」
 妹尾が、入念そうに聞くと、
「ええ。今月20日の夜11時ごろでした」
 と、安原は、はっきりとした口調で言った。
 それを聞いた妹尾は、
「どうも、ありがとう」
 と言って、分駐所をあとにした。

 高野内たちや真由子、妹尾たちや近藤たちは、岡山駅をあとにして、岡山県警本部に戻った。
「これで、伸吾が岡山駅の駅名表を、『はやぶさ』乗車中に撮ったというのは、うそだとわかりましたね」
 と、高野内が言うと、
「ええ。西住伸吾は、新山口で、『はやぶさ』を下車したあと、『ひかり484号』で、岡山へ行き、『サンライズ瀬戸』に乗って、鴨井圭を殺害して、下車したあと、『はやぶさ』に戻ったのよ」
 と、真由子。
 窈子が、時刻表のページをめくりながら、
「犯人の心理としては、殺害したら、なるべく早く下車したいでしょう」
 と言うと、真由子は、
「ええ。そうでしょ」
「それなら、きっと、姫路で降りたと思いますわ」
「姫路には、何時に到着するの?」
「23時34分ですわ。それで、発車が1分後の35分です」
「それで、その姫路駅に、『はやぶさ』は、停車するの?」
 窈子は、時刻表のページを、さらにめくりながら、
「あっ、姫路には、『はやぶさ』は、止まらないですわ。それどころか、岡山を出ると、名古屋までノンストップです」
 と、がっかりしたように言った。
「どうやって、『サンライズ瀬戸』から下車したあと、『はやぶさ』に戻ったかが、問題だな…」
 それらの会話を聞いた高野内は、頭を痛めるような言い方になった。
 時刻表を見ると、『サンライズ瀬戸』『サンライズ出雲』の併結列車は、23時34分に、姫路駅に停車するが、姫路駅には、『はやぶさ』『富士』の併結列車は、停車しないのである。
 上り『はやぶさ』『富士』は、岡山駅を0時48分に発車すると、5時16分に、名古屋に停車するまで、ノンストップである。
 それでは、姫路駅で下車しても、『はやぶさ』に戻ることは不可能である。
 しかし、西住伸吾が、『はやぶさ』が横浜発車後も乗車していたことを車掌が、東京駅で、伸吾が『はやぶさ』から下車するところを、駅員の1人が確認しているのである。
 そのままだと、西住伸吾のアリバイが、完全に崩せたとはいえない。
 伸吾のアリバイを崩す方法はあるのだろうか。

「問題は、広島、福山、岡山の3つの駅の駅名表の写真だな」
 高野内は、会議用のテーブルの上に、西住伸吾から預かった写真を並べて、じっと見ていた。
「その3つの駅名表は、隣の駅名から、在来線で、撮影されたのは確実ですね」
 と、横から江波が言った。
「ああ。だから、新山口から岡山まで、新幹線『ひかり』で移動したとすると、撮ることはできないんだよ」
 と、高野内。
「でも、これらの駅名表、どう見ても、アリバイ作りのために撮ったとしか思えませんね。『はやぶさ』を降りて、すぐに現像に出したのも、後日、撮影することは不可能だと印象づけるためじゃないのですか」
 今度は、園町が言った。
「俺も、そうとしか思えないんだ。でも、『はやぶさ』から撮影されたとすると、『サンライズ瀬戸』での鴨井圭殺しのアリバイが成立してしまうんだ」
 高野内は、苦悩の表情で言った。
「それでも、鴨井圭殺しのホシは、西住伸吾しかいないと確信しているんでしょう」
 と、園町が言うと、
「そうなんだ」
 と、高野内。
 すると、窈子が、ネガを見ながら、
「どうして、西住伸吾は、このデジカメ全盛の時代に、わざわざフィルム・カメラを使ったのでしょうか?」
 と言った。
 それを聞いた真由子は、
「そうね。西住のようなお金持ちの人間が、デジカメを買えずに、古いフィルム・カメラをそのまま使いつづけるのは、考え難いわ。何か理由があって、フィルム・カメラで撮影したのよ。きっと」
 と、落ち着いたような口調で言った。
「フィルムを装填して写すカメラに、何のメリットがあるのでしょうかね?」
 妹尾が怪訝そうに言うと、
「フィルム・カメラとデジタル・カメラの大きな違いといえば、何が思い浮かぶかしら?」
 と、真由子。
「フィルム・カメラは、撮影された記録は、ネガフィルムで保存されるけど、デジタル・カメラなら、メモリーカードですね」
 と、窈子。
 それを聞いた高野内は、
「そうだ。奴は、その違いに目を着けたんだ!」
 と、はっきりとした口調で言った。
「何かわかったのですか?」
 と、江波が聞くと、
「ああ。フィルム・カメラは、撮影された画像は、1本のネガフィルムで保存されるから、ネガに写って並んでいる順番に撮影されたといえば、誰もが信じるが、メモリーカードに保存するデジカメだったら、パソコンとかで、記録された順番を並べ替えたと疑えば、対抗しにくいからな」
 と、高野内は、はきはきとした言い方で答えた。
「それで、デジカメを使わずに、フィルムのカメラで撮影したのですね」
 と、窈子が言うと、高野内は、
「きっと、そうだよ」
 それを聞いた江波は、
「でも、フィルムを使って撮影されたものなら、フィルムに写っている順番は、どうやって変えたのですか?」
「一眼レフカメラを使えば、誰だってできるよ」
「どうやってですか?」
「フィルムを装填したら、カメラを、マニュアル・フォーカスに切り替えて、レンズに蓋をした状態で、シャッターを切れば可能だよ。それを10コマ目まで繰り返して、11コマ目で、広島駅の駅名表を入れて、そして、次に、福山駅の駅名表を撮って、それから、岡山駅も同じように撮ればいい」
 と、高野内は、説明した。
 それを聞いた江波は、
「なるほど。そのあと、巻き戻して、後日、再び、カメラに装填して、福岡の街や、『はやぶさ』の撮影を10コマ目までして、13コマ目まで、福岡の街から岡山駅まで順番に撮影されたように見せかけたのですね」
 と、納得したように言った。
 すると、真由子が、
「そのとおりよ」
 と言った。
「なるほど。これで、西住伸吾のアリバイ、崩れる可能性が出たのう。じゃが、高野内さん、そのトリックを実行したという証拠がないのう。せめて、駅名表の撮影が、21日よりも前の日に撮影されたということが証明されりゃいいんじゃけーどなー」
 と、近藤警部。
 それを聞いた高野内は、
「そうですね。確かに、私が説明したトリックを使えば、アリバイ偽装は可能ですが、まだ状況証拠でしかないですからね」
 と、少し肩を落とした言い方になった。
「まあ、ここで話し合うだけでは、解決にはつながりませんよ。ここはまず、駅名表が撮影された駅の1つである、岡山駅に行ってみませんか? 何か手がかりが見つかるかもしれませんよ」
 と、妹尾警部は、言った。
「そうですね」
 と、近藤が言うと、
「じゃあ、これから、岡山駅へ向かいましょ」
 と、真由子。
 そして、高野内たちや真由子、妹尾たちや近藤たちは、3台の覆面車に分乗して、岡山駅へ向かった。
 岡山駅に、何か捜査を進展させる手がかりはあるのだろうか。

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