高野内たちは、岡山県警本部の会議室で、頭を痛めていた。
 鴨井圭の死亡推定時刻は、23時から24時の間である。
 『サンライズ瀬戸』が、22時32分に、岡山駅を発車後、次の停車駅は、上郡で、23時10分に停車である。
 高野内は、時刻表のページをめくりながら、
「鴨井圭の死亡が23時になってすぐだとすれば、上郡で下車した可能性もありそうですが、それでは、『はやぶさ』に戻る手段がありませんね」
 それを聞いた真由子は、
「そうでしょ。でも、姫路からも、『はやぶさ』に戻ることはできないわ」
 と、苦笑した。
 すると、今度は、窈子が、
「名古屋駅まで、車で行って、『はやぶさ』に戻った可能性はありませんか? 姫路から名古屋までなら、高速道路を使ったら、十分間に合うと思います。それに、深夜から早朝は、交通量も少ないですし」
 と言った。
「車って、タクシーかしら?」
 と、真由子が言うと、
「タクシーかもしれませんし、西住は、中古車事業もやっていますので、自分の中古車店名義の車を、あらかじめ、姫路駅前の駐車場に置いていて、それを名古屋駅前の駐車場まで運転したことも考えられませんか?」
 と、窈子。
「なるほど。それなら、高速道路のインターチェンジやNシステムに、該当する車のナンバーや通過した時刻が記録されているわね。本庁を通じて調べてもらうように、頼んでみるわ」
 と、真由子は言ったあと、携帯電話を出して、インターチェンジやNシステムの記録に、該当する車がないかどうか調べてもらうように依頼した。
「西住伸吾が、高速道路を使って、車で移動したことが判明すれば、奴のアリバイは崩れたことになるのですね」
 と、高野内は、期待したように言った。
「ところで、今夜は、西住たちが、新潟方面へ向かって動き出す予定ですから、こっそり、尾行して、動きをチェックしたほうがよさそうですね」
 と、園町が言うと、
「ええ。岡山から新潟までの切符が1枚で、新宿から新潟までの切符が2枚だから、西住親子と池上のうちの2人が、東京へ移動したあと、新宿から『ムーンライトえちご』で、新潟へ動く可能性がありそうね」
「じゃあ、新宿駅から、西住親子と池上の写真を持たせた捜査員を乗車させたほうが良さそうですね」
「そうね」
 と、真由子は、言ったあと、再び携帯電話を出して、
「佐田ですが、岡田君…」
 と、話し出した。
 そして、数分後、電話を切り、
「今夜の『ムーンライトえちご』には、岡田君が新宿から乗車するわ。だけど、他に捜査員が確保できなかったから、鉄道警察隊からも2人お願いね」
 と言った。
「じゃあ、一時、江波に行かせます」
 と、高野内は言い、窈子と江波のほうを向いて、
「じゃあ、お願いするよ」
 と言った。
「わかりました」
 と、窈子と江波。
「あと、岡山から新潟へ動く1人は、急行『きたぐに』に乗る可能性が高いと思うわ。そして、新潟駅で、2組が合流して、何かする可能性があると思うから、『きたぐに』にも、捜査員を乗せたほうがいいわね」
 と、真由子が言うと、
「じゃあ、僕と園町が『きたぐに』に乗ります」
 と、高野内は、言った。
「そうね。じゃあ、お願いしようかしら」
 と、真由子。
「西住たちが、新潟に向かう目的を早く知りたいですね」
 と、高野内が言うと、
「西住建設の支社かもしれないし、安倉美紀が新潟へ行っていたこととも関係がありそうな気もするし、今のところ、わたしも、見当がつかないわ」
 と、真由子。
 すると、近藤が、
「安倉美紀か…」
 と言い出した。
 そして、次は、妹尾が。
「安倉美紀の自宅か勤め先へ行って、何か聞いてみたいと思います」
 と言うと、真由子は、
「じゃあ、安倉美紀については、妹尾さん、難波さん、近藤さん、真野さんの4人にお願いするわ」
「わかりました。まず、勤務先の化粧品店へ行ってみたいと思います」
 と、妹尾。
「あと、津山にある戸塚雅明の実家に行ってみたら、妙な暗号のような紙切れが出てきたんじゃけど、これが何を意味しているのか、わからんのです」
 と、近藤は、1枚の紙切れを出した。
 それには、ハムの絵と、樹木の絵と、Sの字が書かれていた。
「子供の落書きのような絵ですが、何か意味があるのでしょうね」
 と、高野内は、言った。
「わしゃ、戸塚雅明が、何かのために残した暗号じゃと思うけーど、何を意味しているのか、さっぱりわからんのじゃ」
 近藤は、苦悩するように言った。

 時刻は、午後2時を過ぎた。
 妹尾たちや近藤たちは、安倉美紀に話を聞くために、県警本部を出て行った。
 会議室には、高野内、園町、窈子、江波、真由子の5人が残っている。
「明日の新潟で、一体何が起きるのでしょうかね?」
 と、園町が聞くと、
「まだ、わたしも予想がつかないわ。一連の事件に関係あるかもしれないし、ないかもしれない。それをはっきりさせるために動くのも、わたしたち、捜査官の大事な仕事よ」
 と、真由子は、答えた。
「奴らのうち、1人が乗る予定と思われる『きたぐに』と、2人が乗る予定と思われる『ムーンライトえちご』の時刻を、確認しましょう」
 と、江波は、言った。
 そして、江波は、時刻表のページをめくりながら、ホワイトボードに、
『きたぐに停車駅と発車時刻』
 と書き込んで、次々と駅名と時刻を書いていった。

 急行『きたぐに』の停車駅と発車時刻は、次のとおりである。
 大阪 23:27
 新大阪 23:32
 京都 0:02
 大津 0:10
 米原 1:05
 長浜 1:12
 敦賀 1:37
 武生 2:01
 福井 2:17
 小松 2:49
 金沢 3:37
 高岡 4:15
 富山 4:30
 滑川 4:42
 魚津 4:49
 黒部 4:55
 入善 5:04
 泊 5:08
 糸魚川 5:29
 直江津 6:20
 柿崎 6:33
 柏崎 6:48
 来迎寺 7:08
 長岡 7:28
 見附 7:38
 東三条 7:48
 加茂 7:55
 新津 8:14
 亀田 8:22
 新潟 8:30着

 『きたぐに』の新潟到着は、8時30分である。
 なお、下り『きたぐに』の新津から新潟までは、快速列車となる。

 次に、江波は、快速『ムーンライトえちご』の時刻を記入していった。

 『ムーンライトえちご』の停車駅と発車時刻は、次のとおりである。

 新宿 23:09
 池袋 23:16
 大宮 23:43
 高崎 1:13
 長岡 3:55
 見附 4:05
 東三条 4:14
 加茂 4:21
 新津 4:37
 新潟 4:51着

 ホワイトボードに書かれた時刻を見て、高野内は、
「新宿から乗ったほうが、3時間以上も早く新潟へ着くのだな」
 と言った。
「最近は、ある程度の都市なら、大抵、24時間営業のネットカフェとかあるから、待ち合わせるとしたら、そういう場所で時間を潰すのじゃないかしら」
 と、真由子。
「『きたぐに』と『ムーンライトえちご』では、2組の新潟到着時刻が、こんなに違うんでしょう。どうして、別々の列車にしたのでしょうか?」
 と、窈子が、怪訝そうに言った。
「うち2人は、東京に用があって、そのあと、新潟へ向かうんじゃないかな」
 と、高野内。
「なるほど。残りの1人は、岡山から最短で新潟へ向かうために、大阪で乗換えができる『きたぐに』を選ぶということですね」
 と、窈子は、納得したように言った。

 午後5時過ぎ、妹尾たちや近藤たちは、県警本部に戻ってきた。
「ご苦労様」
 と、真由子が言うと、
「安倉美紀ですが、勤め先に、昨日から、しばらく休む届出を出したそうです。自宅のアパートに行っても、留守でしたね」
 と、妹尾は、言った。
「何か変わったことはなかった?」
「そういえば、隣の住人の証言では、昨日から、アパートの駐車場に、安倉美紀がいつも乗っている車と違う車種の車が止まっていたそうです。それで、調べてみたら、自動車ディーラーの代車で、マイカーを車検に出していることがわかりました」
 と、難波が言った。
「車を車検に出した直後に、失踪? 何か妙ね」
 と、真由子は、言った。

 時刻が6時半を過ぎた頃、高野内、園町、窈子、江波の4人は、県警本部をあとにして、岡山駅に向かった。
 窈子と江波は、新宿駅を23時9分に発車する『ムーンライトえちご』に乗るため、岡山を、19時5分に出発する『のぞみ46号』に乗ることにした。その列車は、品川駅に、22時22分に到着し、そのあと、山手線に乗り換えれば、新宿に向かうことができる。
 高野内と園町は、大阪駅から、『きたぐに』に乗るために、在来線で大阪に向かうことにした。
 それぞれ、駅舎内で分かれると、別々の改札口を通っていった。
 2組は、それぞれ違うルートで、新潟へ向かうことになる。
 新潟で、何かあるのだろうか。