午前7時頃、高野内と園町が乗った下り急行『きたぐに』は、新潟県を走っていた。
次の停車駅は、来迎寺で、7時8分に到着予定である。
空は、徐々に明るくなってきた。
突然、高野内の携帯電話が鳴った。田村警部からのようだ。
「はい。高野内ですが」
と、高野内。
「高野内君、安倉美紀と思われる女が、寝台急行『銀河』に乗っていたそうなのだが、行方不明になったのだよ」
「『銀河』でですか?」
「そうだ。上り東京行きのほうでな。切符も、東京までだそうだ」
「どこか途中の駅で降りたのでしょうか?」
「その可能性があるのだが、何か事情があって、自ら列車から降りたのか、誰かに無理矢理連れて行かれたのかすら、まだわからんのだよ」
田村の声からは、焦燥が感じた。
「もし、西住たちの仲間が無理矢理降ろしたとしたら、彼女の命が危ないですね」
「そうなんだ。安倉美紀は、『きたぐに』で平山車掌殺害があった日、その列車に乗っていたし、平山車掌とつながりのある人物だからな」
「安倉美紀が降りたか降ろされた可能性のある駅は、どこでしょうか?」
「車掌の証言だと、岐阜県を走行中は、まだ乗車していたことは確かだそうだ。だから、名古屋以降の停車駅で降りたか降ろされたことになる。ただ、磯野君と堀西君が横浜から乗車したときには、既にいなかったから、名古屋から横浜までには違いない!」
「名古屋から横浜の間には、どこどこに止まりましたかね」
「えーっと、富士、沼津、熱海、小田原、大船だよ」
「じゃあ、安倉美紀の降車駅は、それらの停車駅のどこかの可能性が高いですね」
「そうだよ。ところで、『きたぐに』に、西住親子か池上の誰かが乗っているのか?」
「秘書の池上が乗っていることがわかりました」
「そうか。一時君たちが乗った『ムーンライトえちご』のほうは、2人分座席が確保されていたが、晴伸のほうしか乗らなかったそうだ。まだ、一時君たちが晴伸のあとをつけているが、新潟市内のネットカフェにいたまま動かないそうだ」
「ネットカフェですか?」
一瞬、高野内は、怪訝そうな顔をしたが、
「そこで、池上や伸吾を待っているのでしょうか?」
「その可能性があるな」
「西住たちは、何か目的があって、新潟に向かったのだと思いますが、それが、一連の事件に関係あるのかどうかすら、まだわからないのです」
「高野内君は、個人的にどう思うのかね?」
「私は、安倉美紀が事件のあった『きたぐに』に、新潟から乗車したことから、無関係とはいえないと思うのですが、いまひとつ、断定する決め手が見つからないのです」
「そうか。また何かあったら、連絡してくれないか。こっちも、何かわかったら、また電話するよ。じゃあ、奴に気付かれないように、尾行を続けてくれ」
「わかりました」
そして、高野内は、電話を切った。
列車は、来迎寺駅に停車していた。
まもなく、列車は、発車した。次の停車駅は、長岡である。
高野内は、車内を歩き、4号車のデッキに移動した。
4号車にデッキに入ってまもなく、辻車掌が通りかかった。
高野内は、辻車掌のほうを向いて、
「例の男に、変わった動きとかありませんでしたか?」
と尋ねた。
「いいえ。座席で眠っておられましたが」
と、辻車掌は答えた。
「わかりました」
そして、辻車掌は、車内巡回のために、高野内たちの前から去った。
高野内は、園町に、電話でのやりとりの内容を話した。
それを聞いた園町は、
「安倉美紀は、なぜ『銀河』に乗っていたのでしょうかね?」
と、高野内に聞いた。
「俺も、まだわからないんだよ。切符は、東京までだが、途中で、なぜ列車からいなくなったのだろうか」
高野内は、合点のいかない顔で答えた。
「もし、西住親子か仲間の誰かが、無理矢理連れ去ったとしたら、彼女の命が危ないですよ!」
「そうなんだ。ただ、そうだとすると、西住晴伸と池上は、実行し得ないし、伸吾や、他の者がやったとしても、どうして『銀河』に乗っていたことを知り得たかが謎になる」
「そうですね」
高野内たちの乗った下り『きたぐに』は、7時17分に、長岡駅に、停車した。
地方の中規模な都市の代表駅で、新幹線への乗換駅のせいか、乗降客がかなりいた。
7時28分、『きたぐに』は、新潟を目指して発車した。
次は、見附駅に停車する。
この時期の越後平野は、いつもは雪景色なのだが、暖冬のせいか、作物もなにもない広い田園が広がる風景が眼に入った。
7時38分、見附駅に停車した。
池上が下車したという話も、西住伸吾が乗ってきたという話もない。
見附を出た『きたぐに』は、東三条、加茂に停車し、新津駅には、定刻の8時10分に、停車した。
下り『きたぐに』は、新津からは、快速列車になる。
そのせいか、自由席の1号車から4号車は、多数の乗車があり、座席に座れなかった人が、デッキに立つようになった。
列車は、途中、亀田に停車し、終点の新潟には、8時30分に到着した。
結局、西住伸吾が乗車したという報告はなかった。
高野内と園町は、池上に気付かれないようにしながら、尾行した。
改札口を出て、駅前のタクシー乗り場へ向かった。
池上は、タクシーを拾った。
高野内と園町も、1台後ろのタクシーに乗り、池上が乗ったタクシーを追尾した。
2台のタクシーは、市街地を通り、しばらく走った。
駅前を出発して、30分近く経ったとき、左手にあるネットカフェの駐車場に入った。
そこで、池上が下車して、ネットカフェの建物に入った。
高野内たちも料金を払って、タクシーを降りた。
「ネットカフェということは…」
と、高野内が言い出すと、
「ここで、待ち合わせしていたのでしょうか?」
と、園町。
「その可能性があるが、伸吾の動きが読めないし、奴らが何の目的で新潟へ行ったのかすら、わからないんだよ」
高野内たちは、そう言いながら、ネットカフェの中に入った。
一体、新潟で、何が起きようとしているのだろうか。
そのときの高野内たちは、まだ何もわからなかった。
次の停車駅は、来迎寺で、7時8分に到着予定である。
空は、徐々に明るくなってきた。
突然、高野内の携帯電話が鳴った。田村警部からのようだ。
「はい。高野内ですが」
と、高野内。
「高野内君、安倉美紀と思われる女が、寝台急行『銀河』に乗っていたそうなのだが、行方不明になったのだよ」
「『銀河』でですか?」
「そうだ。上り東京行きのほうでな。切符も、東京までだそうだ」
「どこか途中の駅で降りたのでしょうか?」
「その可能性があるのだが、何か事情があって、自ら列車から降りたのか、誰かに無理矢理連れて行かれたのかすら、まだわからんのだよ」
田村の声からは、焦燥が感じた。
「もし、西住たちの仲間が無理矢理降ろしたとしたら、彼女の命が危ないですね」
「そうなんだ。安倉美紀は、『きたぐに』で平山車掌殺害があった日、その列車に乗っていたし、平山車掌とつながりのある人物だからな」
「安倉美紀が降りたか降ろされた可能性のある駅は、どこでしょうか?」
「車掌の証言だと、岐阜県を走行中は、まだ乗車していたことは確かだそうだ。だから、名古屋以降の停車駅で降りたか降ろされたことになる。ただ、磯野君と堀西君が横浜から乗車したときには、既にいなかったから、名古屋から横浜までには違いない!」
「名古屋から横浜の間には、どこどこに止まりましたかね」
「えーっと、富士、沼津、熱海、小田原、大船だよ」
「じゃあ、安倉美紀の降車駅は、それらの停車駅のどこかの可能性が高いですね」
「そうだよ。ところで、『きたぐに』に、西住親子か池上の誰かが乗っているのか?」
「秘書の池上が乗っていることがわかりました」
「そうか。一時君たちが乗った『ムーンライトえちご』のほうは、2人分座席が確保されていたが、晴伸のほうしか乗らなかったそうだ。まだ、一時君たちが晴伸のあとをつけているが、新潟市内のネットカフェにいたまま動かないそうだ」
「ネットカフェですか?」
一瞬、高野内は、怪訝そうな顔をしたが、
「そこで、池上や伸吾を待っているのでしょうか?」
「その可能性があるな」
「西住たちは、何か目的があって、新潟に向かったのだと思いますが、それが、一連の事件に関係あるのかどうかすら、まだわからないのです」
「高野内君は、個人的にどう思うのかね?」
「私は、安倉美紀が事件のあった『きたぐに』に、新潟から乗車したことから、無関係とはいえないと思うのですが、いまひとつ、断定する決め手が見つからないのです」
「そうか。また何かあったら、連絡してくれないか。こっちも、何かわかったら、また電話するよ。じゃあ、奴に気付かれないように、尾行を続けてくれ」
「わかりました」
そして、高野内は、電話を切った。
列車は、来迎寺駅に停車していた。
まもなく、列車は、発車した。次の停車駅は、長岡である。
高野内は、車内を歩き、4号車のデッキに移動した。
4号車にデッキに入ってまもなく、辻車掌が通りかかった。
高野内は、辻車掌のほうを向いて、
「例の男に、変わった動きとかありませんでしたか?」
と尋ねた。
「いいえ。座席で眠っておられましたが」
と、辻車掌は答えた。
「わかりました」
そして、辻車掌は、車内巡回のために、高野内たちの前から去った。
高野内は、園町に、電話でのやりとりの内容を話した。
それを聞いた園町は、
「安倉美紀は、なぜ『銀河』に乗っていたのでしょうかね?」
と、高野内に聞いた。
「俺も、まだわからないんだよ。切符は、東京までだが、途中で、なぜ列車からいなくなったのだろうか」
高野内は、合点のいかない顔で答えた。
「もし、西住親子か仲間の誰かが、無理矢理連れ去ったとしたら、彼女の命が危ないですよ!」
「そうなんだ。ただ、そうだとすると、西住晴伸と池上は、実行し得ないし、伸吾や、他の者がやったとしても、どうして『銀河』に乗っていたことを知り得たかが謎になる」
「そうですね」
高野内たちの乗った下り『きたぐに』は、7時17分に、長岡駅に、停車した。
地方の中規模な都市の代表駅で、新幹線への乗換駅のせいか、乗降客がかなりいた。
7時28分、『きたぐに』は、新潟を目指して発車した。
次は、見附駅に停車する。
この時期の越後平野は、いつもは雪景色なのだが、暖冬のせいか、作物もなにもない広い田園が広がる風景が眼に入った。
7時38分、見附駅に停車した。
池上が下車したという話も、西住伸吾が乗ってきたという話もない。
見附を出た『きたぐに』は、東三条、加茂に停車し、新津駅には、定刻の8時10分に、停車した。
下り『きたぐに』は、新津からは、快速列車になる。
そのせいか、自由席の1号車から4号車は、多数の乗車があり、座席に座れなかった人が、デッキに立つようになった。
列車は、途中、亀田に停車し、終点の新潟には、8時30分に到着した。
結局、西住伸吾が乗車したという報告はなかった。
高野内と園町は、池上に気付かれないようにしながら、尾行した。
改札口を出て、駅前のタクシー乗り場へ向かった。
池上は、タクシーを拾った。
高野内と園町も、1台後ろのタクシーに乗り、池上が乗ったタクシーを追尾した。
2台のタクシーは、市街地を通り、しばらく走った。
駅前を出発して、30分近く経ったとき、左手にあるネットカフェの駐車場に入った。
そこで、池上が下車して、ネットカフェの建物に入った。
高野内たちも料金を払って、タクシーを降りた。
「ネットカフェということは…」
と、高野内が言い出すと、
「ここで、待ち合わせしていたのでしょうか?」
と、園町。
「その可能性があるが、伸吾の動きが読めないし、奴らが何の目的で新潟へ行ったのかすら、わからないんだよ」
高野内たちは、そう言いながら、ネットカフェの中に入った。
一体、新潟で、何が起きようとしているのだろうか。
そのときの高野内たちは、まだ何もわからなかった。