27日の午前8時頃、高野内、園町、窈子、江波、貴代子、真希、それに、田村警部は、捜査を続けるために、分駐所へ出勤していた。
本庁の岡田も来ていた。
高野内は、西住伸吾が主張したアリバイについて説明した。
「西住伸吾は、富士駅に、『銀河』が停車していた時間の約30分後に、高井戸のコンビニで買い物していたということが立証されました。でも、俺は、浜田耕太郎と安倉美紀を殺したホシは、奴以外、考えられません」
と、高野内は、熱っぽく語った。
それに続くように、園町が、
「西住たちは、新潟行きの切符を3人分用意して、二手に分かれて、新潟行きの夜行列車に乗り、新潟へ行きましたが、実際に行ったのは、父親の晴伸と秘書の池上の2人だけです。伸吾は、どちらの列車にも乗ってきませんでした。
ですが、そのとき、我々捜査員の注意は、2本の夜行列車と新潟の街のほうへ向いていて、伸吾1人だけ、注意が行き届かなかったのも事実です。それが、奴らの狙いだったのだと思います」
と、説明した。
「なるほど。そうやって、違う方向へ注意を向けされて、その間に、我々の眼が行き届かないところで、浜田と安倉を殺したというのだな」
と、田村は、納得したように言った。
「そうです。それによって、西住晴伸と池上は、浜田・安倉殺害については、強固なアリバイも成立していますし」
と、高野内。
「でも、伸吾も、アリバイがあるのでしょう。富士駅で、列車から安倉美紀を降ろした後、30分で、高井戸のコンビニに行って買い物なんて、とても無理よ」
と、貴代子は言った。
「そうですが、昨夜、俺と園町と岡田警部の3人で、質問をしたときの、自信満々な答え方が、余計に引っかかるんです」
と、高野内。
それに続いて、岡田が、
「西住伸吾は、高井戸のコンビニを出た後、午前9時40分頃に、西住建設東京支社に出社するまでの間、アリバイがはっきりとしないことがわかりました」
と、説明した。
「東京支社はどこにあるのですか?」
と、貴代子が言うと、
「品川区です。品川駅から、徒歩で10分から15分で行けると思います」
と、岡田は答えた。
「浜田の死亡推定時刻は、午前の7時から7時半ですから、犯行時刻が7時だとしても、2時間40分以内に、品川の支社へ行けないと、奴のアリバイを崩したことにはなりませんね」
と、高野内が言うと、
「そうなんだよ」
と、岡田。
高野内は、時刻表を取り出した。
「河口湖畔の駐車場から富士急行の河口湖駅まで、徒歩で15分くらいですから、7時に犯行後、すぐに、河口湖駅へ向かえば、7時19発の大月行きに乗れる可能性がありますね」
と、高野内は、時刻表を見ながら言った。
「大月に着くのは、何時かね?」
と、田村が言うと、
「8時11分です」
と、高野内。
「じゃあ、大月で、富士急から、JRの中央線に乗り換えて、新宿から山手線で、品川へ向かったのかしら」
と、貴代子。
「大月からは、8時14分発の高尾行きがありますね」
と、高野内が言うと、
「じゃあ、それに乗り換えたのかしら」
と、貴代子は言った。
高野内は、時刻表を見ながら、
「高尾行きが、高尾に着くのが、9時ちょうどで、高尾からは、9時17分発の特別快速が…」
と、言いかけたところで、
「ダメです。それじゃ、アリバイが崩せませんね」
と、肩を落とした。
「どうしてですか?」
と、江波が言うと、
「高尾から、その時間に、中央線に乗っていたのでは、9時40分に、品川区へ行くのは不可能なんだ」
と、高野内。
時刻表によると、高尾を9時17分に発車する特別快速は、9時40分は、国分寺を発車する時刻になっている。
それでは、品川区にある西住建設東京支社に、9時40分に、出社することは不可能である。
「それじゃ、安倉美紀を『銀河』から連れ出した件も、安倉美紀と浜田耕太郎を、河口湖で殺害した件も、アリバイが成立してしまうよ」
と、高野内は、納得のいかないような表情で言った。
「でも、犯行は、奴しか考えられないんでしょう」
と、園町は言った。
「西住伸吾は、本当に、9時40分頃、品川の支社へ出社したのですか?」
と、田村は、岡田のほうを向いて、入念そうに言った。
「ええ。多数の社員の証言がありますし、それに、ビルの入口の防犯ビデオの画像からも裏づけが取れています」
と、岡田は答えた。
「奴のアリバイは完璧ですね」
と、高野内は、悔しそうに言った。
「それでも、ホシは、伸吾しか考えられないんだろう」
と、田村。
今度は、岡田が、
「鴨井圭殺しのほうの西住伸吾のアリバイだが、それも、なかなか崩せないんです」
と言った。
西住伸吾が、上り寝台特急『はやぶさ』を、新山口で下車し、新幹線の『ひかり484号』に乗り換えれば、岡山駅で、鴨井圭が乗っていた『サンライズ瀬戸』に乗車することは可能である。
鴨井圭を殺害したあと、姫路駅で下車した可能性が高いが、姫路駅には、『はやぶさ』は、停車しないので、戻ることは不可能なのだ。
しかし、横浜駅発車後、車掌に話し掛けていることや、東京駅で、下車しているのを目撃した駅員の証言から、横浜発車時、『はやぶさ』に乗っていたのも事実である。
「『はやぶさ』『富士』の併結列車は、名古屋駅に止まりますから、姫路で、『サンライズ瀬戸』から降りた後、自動車で高速道路を走って、名古屋駅へ向かったのではないでしょうか?」
と、園町が言うと、
「その可能性で調べてみたんだが、西住の関係する車が、その時間、姫路から名古屋へ走った形跡がないんだ?」
と、岡田は、残念そうに言った。
「といいますと?」
「Nシステムや、料金所の通過記録を調べてもらったが、該当する車はなかったんだよ」
「じゃあ、西住名義の車ではなく、タクシーを利用したということは考えられませんか?」
と、園町が言うと、岡田は、
「そのセンも当たってみたが、該当する車は見つからなかったそうだ」
と、否定するように言った。
「じゃあ、タクシーではなく、運送関係のトラックとかはどうでしょうか? 奴は、金持ちだから、大金を渡して、名古屋駅まで乗せてもらったとか」
すると、岡田は、
「いいや。それも調べたが、該当する車は見つからなかったよ。それに、そんなことしたら、その運転手も殺さなければいけなくなる可能性が出てくる」
と言った。
「鴨井圭の件も、浜田耕太郎と安倉美紀の件も、アリバイ成立か…」
高野内は、納得のいかない顔で、ぶつぶつと言った。
「でも、どちらの事件も、ホシは、奴意外、考えられないんでしょう」
と、岡田が言った。
「そうです。どちらとも、作られたアリバイであるから、必ず崩す方法はあると、俺は確信しています!」
高野内は、熱をこめて言った。
そうして、分駐所では、捜査に関する話し合いが進められていった。
西住伸吾のアリバイは、崩せるのだろうか。
本庁の岡田も来ていた。
高野内は、西住伸吾が主張したアリバイについて説明した。
「西住伸吾は、富士駅に、『銀河』が停車していた時間の約30分後に、高井戸のコンビニで買い物していたということが立証されました。でも、俺は、浜田耕太郎と安倉美紀を殺したホシは、奴以外、考えられません」
と、高野内は、熱っぽく語った。
それに続くように、園町が、
「西住たちは、新潟行きの切符を3人分用意して、二手に分かれて、新潟行きの夜行列車に乗り、新潟へ行きましたが、実際に行ったのは、父親の晴伸と秘書の池上の2人だけです。伸吾は、どちらの列車にも乗ってきませんでした。
ですが、そのとき、我々捜査員の注意は、2本の夜行列車と新潟の街のほうへ向いていて、伸吾1人だけ、注意が行き届かなかったのも事実です。それが、奴らの狙いだったのだと思います」
と、説明した。
「なるほど。そうやって、違う方向へ注意を向けされて、その間に、我々の眼が行き届かないところで、浜田と安倉を殺したというのだな」
と、田村は、納得したように言った。
「そうです。それによって、西住晴伸と池上は、浜田・安倉殺害については、強固なアリバイも成立していますし」
と、高野内。
「でも、伸吾も、アリバイがあるのでしょう。富士駅で、列車から安倉美紀を降ろした後、30分で、高井戸のコンビニに行って買い物なんて、とても無理よ」
と、貴代子は言った。
「そうですが、昨夜、俺と園町と岡田警部の3人で、質問をしたときの、自信満々な答え方が、余計に引っかかるんです」
と、高野内。
それに続いて、岡田が、
「西住伸吾は、高井戸のコンビニを出た後、午前9時40分頃に、西住建設東京支社に出社するまでの間、アリバイがはっきりとしないことがわかりました」
と、説明した。
「東京支社はどこにあるのですか?」
と、貴代子が言うと、
「品川区です。品川駅から、徒歩で10分から15分で行けると思います」
と、岡田は答えた。
「浜田の死亡推定時刻は、午前の7時から7時半ですから、犯行時刻が7時だとしても、2時間40分以内に、品川の支社へ行けないと、奴のアリバイを崩したことにはなりませんね」
と、高野内が言うと、
「そうなんだよ」
と、岡田。
高野内は、時刻表を取り出した。
「河口湖畔の駐車場から富士急行の河口湖駅まで、徒歩で15分くらいですから、7時に犯行後、すぐに、河口湖駅へ向かえば、7時19発の大月行きに乗れる可能性がありますね」
と、高野内は、時刻表を見ながら言った。
「大月に着くのは、何時かね?」
と、田村が言うと、
「8時11分です」
と、高野内。
「じゃあ、大月で、富士急から、JRの中央線に乗り換えて、新宿から山手線で、品川へ向かったのかしら」
と、貴代子。
「大月からは、8時14分発の高尾行きがありますね」
と、高野内が言うと、
「じゃあ、それに乗り換えたのかしら」
と、貴代子は言った。
高野内は、時刻表を見ながら、
「高尾行きが、高尾に着くのが、9時ちょうどで、高尾からは、9時17分発の特別快速が…」
と、言いかけたところで、
「ダメです。それじゃ、アリバイが崩せませんね」
と、肩を落とした。
「どうしてですか?」
と、江波が言うと、
「高尾から、その時間に、中央線に乗っていたのでは、9時40分に、品川区へ行くのは不可能なんだ」
と、高野内。
時刻表によると、高尾を9時17分に発車する特別快速は、9時40分は、国分寺を発車する時刻になっている。
それでは、品川区にある西住建設東京支社に、9時40分に、出社することは不可能である。
「それじゃ、安倉美紀を『銀河』から連れ出した件も、安倉美紀と浜田耕太郎を、河口湖で殺害した件も、アリバイが成立してしまうよ」
と、高野内は、納得のいかないような表情で言った。
「でも、犯行は、奴しか考えられないんでしょう」
と、園町は言った。
「西住伸吾は、本当に、9時40分頃、品川の支社へ出社したのですか?」
と、田村は、岡田のほうを向いて、入念そうに言った。
「ええ。多数の社員の証言がありますし、それに、ビルの入口の防犯ビデオの画像からも裏づけが取れています」
と、岡田は答えた。
「奴のアリバイは完璧ですね」
と、高野内は、悔しそうに言った。
「それでも、ホシは、伸吾しか考えられないんだろう」
と、田村。
今度は、岡田が、
「鴨井圭殺しのほうの西住伸吾のアリバイだが、それも、なかなか崩せないんです」
と言った。
西住伸吾が、上り寝台特急『はやぶさ』を、新山口で下車し、新幹線の『ひかり484号』に乗り換えれば、岡山駅で、鴨井圭が乗っていた『サンライズ瀬戸』に乗車することは可能である。
鴨井圭を殺害したあと、姫路駅で下車した可能性が高いが、姫路駅には、『はやぶさ』は、停車しないので、戻ることは不可能なのだ。
しかし、横浜駅発車後、車掌に話し掛けていることや、東京駅で、下車しているのを目撃した駅員の証言から、横浜発車時、『はやぶさ』に乗っていたのも事実である。
「『はやぶさ』『富士』の併結列車は、名古屋駅に止まりますから、姫路で、『サンライズ瀬戸』から降りた後、自動車で高速道路を走って、名古屋駅へ向かったのではないでしょうか?」
と、園町が言うと、
「その可能性で調べてみたんだが、西住の関係する車が、その時間、姫路から名古屋へ走った形跡がないんだ?」
と、岡田は、残念そうに言った。
「といいますと?」
「Nシステムや、料金所の通過記録を調べてもらったが、該当する車はなかったんだよ」
「じゃあ、西住名義の車ではなく、タクシーを利用したということは考えられませんか?」
と、園町が言うと、岡田は、
「そのセンも当たってみたが、該当する車は見つからなかったそうだ」
と、否定するように言った。
「じゃあ、タクシーではなく、運送関係のトラックとかはどうでしょうか? 奴は、金持ちだから、大金を渡して、名古屋駅まで乗せてもらったとか」
すると、岡田は、
「いいや。それも調べたが、該当する車は見つからなかったよ。それに、そんなことしたら、その運転手も殺さなければいけなくなる可能性が出てくる」
と言った。
「鴨井圭の件も、浜田耕太郎と安倉美紀の件も、アリバイ成立か…」
高野内は、納得のいかない顔で、ぶつぶつと言った。
「でも、どちらの事件も、ホシは、奴意外、考えられないんでしょう」
と、岡田が言った。
「そうです。どちらとも、作られたアリバイであるから、必ず崩す方法はあると、俺は確信しています!」
高野内は、熱をこめて言った。
そうして、分駐所では、捜査に関する話し合いが進められていった。
西住伸吾のアリバイは、崩せるのだろうか。