浜崎ヒカルのブログ推理小説

ブログを利用して推理小説を書いています。 鉄道ミステリーが中心になります。

2009年02月

 27日の午前8時頃、高野内、園町、窈子、江波、貴代子、真希、それに、田村警部は、捜査を続けるために、分駐所へ出勤していた。
 本庁の岡田も来ていた。
 高野内は、西住伸吾が主張したアリバイについて説明した。
「西住伸吾は、富士駅に、『銀河』が停車していた時間の約30分後に、高井戸のコンビニで買い物していたということが立証されました。でも、俺は、浜田耕太郎と安倉美紀を殺したホシは、奴以外、考えられません」
 と、高野内は、熱っぽく語った。
 それに続くように、園町が、
「西住たちは、新潟行きの切符を3人分用意して、二手に分かれて、新潟行きの夜行列車に乗り、新潟へ行きましたが、実際に行ったのは、父親の晴伸と秘書の池上の2人だけです。伸吾は、どちらの列車にも乗ってきませんでした。
 ですが、そのとき、我々捜査員の注意は、2本の夜行列車と新潟の街のほうへ向いていて、伸吾1人だけ、注意が行き届かなかったのも事実です。それが、奴らの狙いだったのだと思います」
 と、説明した。
「なるほど。そうやって、違う方向へ注意を向けされて、その間に、我々の眼が行き届かないところで、浜田と安倉を殺したというのだな」
 と、田村は、納得したように言った。
「そうです。それによって、西住晴伸と池上は、浜田・安倉殺害については、強固なアリバイも成立していますし」
 と、高野内。
「でも、伸吾も、アリバイがあるのでしょう。富士駅で、列車から安倉美紀を降ろした後、30分で、高井戸のコンビニに行って買い物なんて、とても無理よ」
 と、貴代子は言った。
「そうですが、昨夜、俺と園町と岡田警部の3人で、質問をしたときの、自信満々な答え方が、余計に引っかかるんです」
 と、高野内。
 それに続いて、岡田が、
「西住伸吾は、高井戸のコンビニを出た後、午前9時40分頃に、西住建設東京支社に出社するまでの間、アリバイがはっきりとしないことがわかりました」
 と、説明した。
「東京支社はどこにあるのですか?」
 と、貴代子が言うと、
「品川区です。品川駅から、徒歩で10分から15分で行けると思います」
 と、岡田は答えた。
「浜田の死亡推定時刻は、午前の7時から7時半ですから、犯行時刻が7時だとしても、2時間40分以内に、品川の支社へ行けないと、奴のアリバイを崩したことにはなりませんね」
 と、高野内が言うと、
「そうなんだよ」
 と、岡田。
 高野内は、時刻表を取り出した。
「河口湖畔の駐車場から富士急行の河口湖駅まで、徒歩で15分くらいですから、7時に犯行後、すぐに、河口湖駅へ向かえば、7時19発の大月行きに乗れる可能性がありますね」
 と、高野内は、時刻表を見ながら言った。
「大月に着くのは、何時かね?」
 と、田村が言うと、
「8時11分です」
 と、高野内。
「じゃあ、大月で、富士急から、JRの中央線に乗り換えて、新宿から山手線で、品川へ向かったのかしら」
 と、貴代子。
「大月からは、8時14分発の高尾行きがありますね」
 と、高野内が言うと、
「じゃあ、それに乗り換えたのかしら」
 と、貴代子は言った。
 高野内は、時刻表を見ながら、
「高尾行きが、高尾に着くのが、9時ちょうどで、高尾からは、9時17分発の特別快速が…」
 と、言いかけたところで、
「ダメです。それじゃ、アリバイが崩せませんね」
 と、肩を落とした。
「どうしてですか?」
 と、江波が言うと、
「高尾から、その時間に、中央線に乗っていたのでは、9時40分に、品川区へ行くのは不可能なんだ」
 と、高野内。
 時刻表によると、高尾を9時17分に発車する特別快速は、9時40分は、国分寺を発車する時刻になっている。
 それでは、品川区にある西住建設東京支社に、9時40分に、出社することは不可能である。
「それじゃ、安倉美紀を『銀河』から連れ出した件も、安倉美紀と浜田耕太郎を、河口湖で殺害した件も、アリバイが成立してしまうよ」
 と、高野内は、納得のいかないような表情で言った。
「でも、犯行は、奴しか考えられないんでしょう」
 と、園町は言った。
「西住伸吾は、本当に、9時40分頃、品川の支社へ出社したのですか?」
 と、田村は、岡田のほうを向いて、入念そうに言った。
「ええ。多数の社員の証言がありますし、それに、ビルの入口の防犯ビデオの画像からも裏づけが取れています」
 と、岡田は答えた。
「奴のアリバイは完璧ですね」
 と、高野内は、悔しそうに言った。
「それでも、ホシは、伸吾しか考えられないんだろう」
 と、田村。
 今度は、岡田が、
「鴨井圭殺しのほうの西住伸吾のアリバイだが、それも、なかなか崩せないんです」
 と言った。
 西住伸吾が、上り寝台特急『はやぶさ』を、新山口で下車し、新幹線の『ひかり484号』に乗り換えれば、岡山駅で、鴨井圭が乗っていた『サンライズ瀬戸』に乗車することは可能である。
 鴨井圭を殺害したあと、姫路駅で下車した可能性が高いが、姫路駅には、『はやぶさ』は、停車しないので、戻ることは不可能なのだ。
 しかし、横浜駅発車後、車掌に話し掛けていることや、東京駅で、下車しているのを目撃した駅員の証言から、横浜発車時、『はやぶさ』に乗っていたのも事実である。
「『はやぶさ』『富士』の併結列車は、名古屋駅に止まりますから、姫路で、『サンライズ瀬戸』から降りた後、自動車で高速道路を走って、名古屋駅へ向かったのではないでしょうか?」
 と、園町が言うと、
「その可能性で調べてみたんだが、西住の関係する車が、その時間、姫路から名古屋へ走った形跡がないんだ?」
 と、岡田は、残念そうに言った。
「といいますと?」
「Nシステムや、料金所の通過記録を調べてもらったが、該当する車はなかったんだよ」
「じゃあ、西住名義の車ではなく、タクシーを利用したということは考えられませんか?」
 と、園町が言うと、岡田は、
「そのセンも当たってみたが、該当する車は見つからなかったそうだ」
 と、否定するように言った。
「じゃあ、タクシーではなく、運送関係のトラックとかはどうでしょうか? 奴は、金持ちだから、大金を渡して、名古屋駅まで乗せてもらったとか」
 すると、岡田は、
「いいや。それも調べたが、該当する車は見つからなかったよ。それに、そんなことしたら、その運転手も殺さなければいけなくなる可能性が出てくる」
 と言った。
「鴨井圭の件も、浜田耕太郎と安倉美紀の件も、アリバイ成立か…」
 高野内は、納得のいかない顔で、ぶつぶつと言った。
「でも、どちらの事件も、ホシは、奴意外、考えられないんでしょう」
 と、岡田が言った。
「そうです。どちらとも、作られたアリバイであるから、必ず崩す方法はあると、俺は確信しています!」
 高野内は、熱をこめて言った。
 そうして、分駐所では、捜査に関する話し合いが進められていった。
 西住伸吾のアリバイは、崩せるのだろうか。

「俺には、アリバイがあるからな」
 西住伸吾がそう言った声を聞いた高野内、園町、岡田は、不安そうな表情になった。
「どういうアリバイですか?」
 それでも、高野内は、聞き返した。
「俺は、4時50分から5時頃まで、高井戸駅前のコンビニでタバコを買っていたよ。だから、刑事さんが言っていた、『銀河』の富士駅停車中に、そんなところにいたわけないだろ」
「その証拠はありますか?」
 と、高野内が言うと、伸吾は、不快そうな顔で、
「レシートが残っているから、持ってきてやるよ」
 と言い、いったん部屋の中へ行った。
 そして、数分後、高野内たちの前に戻ってくると、
「これだよ」
 と、言いながら、高野内に、レシートを渡した。
 確かに、高井戸駅前のコンビニである。日付は2月26日で、時刻は午前4時56分だった。
 買い物の内容は、タバコが1箱だった。
「刑事さん、これで、俺には、アリバイがあることがわかっただろ」
 と、伸吾は、自信満々の笑みを浮かべながら言った。
「わかりました。念のため、このレシートは預からせていただきますが、よろしいですか?」
 と、高野内が言うと、伸吾は、
「ああ、いいよ」
 と言った後、
「浜田は、仕事はよくやる頼もしい部下だったけどな、女癖が悪かったからな。安倉とかいう女に手を出して、心中したんだろ」
 すると、高野内は、
「その可能性も視野にいれて捜査していましたが、心中を装った他殺の可能性が出てきました。それに、浜田は、安倉美紀を殺害する動機が弱いが、あなたなら十分ありますね」
 と、強い口調で言った。
「刑事さん、いい加減にしろ! 俺は、安倉とかいう女は知らないし、アリバイがあると言っただろう!」
 伸吾は、怒鳴りつけるように言った。
「安倉美紀は、15年前、亡くなった平山義彦さんの婚約者ですよ。彼女なら、婚約者の突然の死について、真相を知りたくなるでしょう」
 と、高野内が言うと、
「俺が、安倉を殺したというのか? できるわけないだろ。何度も言うが、刑事さんが言っていた、『銀河』の富士駅停車時刻の30分ほど後に、高井戸のコンビニで買い物していたんだよ。店員も憶えているかもしれないし、防犯カメラに映っているはずだ。だから、俺には、犯行は無理だぜ。
 だけど、浜田は、出張に行ったきり、居場所がはっきりとしなかったんだよ。だから、奴がやったんだろ」
 と、伸吾は、高野内を睨みつける顔で言った。
「仕事をよくやる部下が、出張に出ていながら、居場所がはっきりとしなかったのですか?」
 高野内が聞き返すと、
「浜田は、仕事をこなせる部下だったが、河口湖で死んでいるという知らせを受けるまで、居場所がわからなかったんだよ。
だから、奴が出張へ行ったふりして、身を隠して、安倉という女を、無理矢理連れて、河口湖で心中したんだよ、きっと」
 と、伸吾は言った。
 すると、今度は、園町が、
「死人に口なしと言いますからね」
 と、伸吾の眼をじっと見ながら言った。
「刑事さん、いい加減にしてくれないか? 俺は、安倉という女は知らないし、アリバイがある。それに対して、浜田のアリバイははっきりとしないんだろ?」
「確かに、浜田さんの行動については、裏づけが取れていませんが」
「なら、浜田だよ。とにかく、俺にはアリバイがあるんだぜ」
 と、伸吾は、ニヤッとした表情で言った。
「わかりました。あなたの言ったことが正しいかどうか調べて見ますので、では、失礼します」
 と、高野内は言い、
「夜分遅く、すみませんでした」
 と、岡田は言った。
 そして、高野内、園町、岡田の3人は、マンションの外に出た。

 高野内、園町、岡田は、高井戸駅へ向かって歩いていた。
「あの自信満々な態度、ますます怪しいな」
 と、高野内は、腹立たしそうに言った。
「でも、アリバイがあるんでしょう」
 と、園町が言うと、
「例のコンビニに、本当に、奴が出入りしていたか、これから確認してみるよ」
 と、高野内。
 そして、3人は、伸吾が持っていたレシートを発行していた高井戸駅前のコンビニに入った。
「いらっしゃいませ、こんばんは」
 と、2人の男性店員の声。
 高野内は、警察手帳を見せながら、
「警察ですが、お聞きしたいことがあります」
 すると、相手は、硬直した表情で、
「何でしょうか?」
 高野内は、西住伸吾の顔写真のカラーコピーを見せて、
「この男の人、見覚えありませんか?」
 中年過ぎの店員は、知らないという反応を見せたが、若い店員が、
「今日の午前5時前に、タバコを買われた方だったと思います」
 と言った。
(伸吾は、本当に買い物をしていたのか。なら、アリバイ成立か)
 と、高野内は、肩を落とした。
 それでも、例のレシートを見せて、
「このレシート、おたくの店のものに間違いないですか?」
 と、入念に聞いた。
「ええ。うちの店がお出ししたものですね」
 と、若い店員は言った。
「念のため、防犯ビデオの映像を見せていただいてよろしいでしょうか?」
 と、岡田が言うと、
「わかりました」
 と、中年過ぎの店員が言った。
 そして、事務所のテレビとビデオで、26日の午前4時から5時頃まで、見せてもらうことにした。
 すると、4時50分に入店する姿と、5時ちょうどに出る姿が確認できた。
(アリバイ成立か)
 高野内たちは、がっかりした。
 そして、3人は、店員に、礼を言って、店を出て、駅へ向かって歩いた。
 西住伸吾が、4時50分から5時まで、店にいたことが確認された。
 上り『銀河』が、富士駅に停車中に、安倉美紀を降ろしていたのなら、その時間に、高井戸駅前のコンビニに来店するのは不可能である。
「伸吾のあの態度から、ホシは、奴しか考えられない気がするが、アリバイが成立だなんて…」
 高野内は、頭を痛めていた。
「西住は、暴力団員とつきあいがありますから、神崎とか、組員に、安倉美紀を連れてくるように依頼していたことは、考えられませんか?」
 と、園町が言うと、
「いいや。佐田警視を通じて、岡山県警に協力してもらって調べてもらったが、西住と関係の深い神崎は、犯行時、岡山から出ていないことが証明されたよ」
 と、岡田は言った。
「どういうことですか?」
 と、園町が聞くと、
「神崎は、4時過ぎから5時頃までの間、岡山市内の24時間営業の飲食店にいたという裏づけが取れたそうだ」
 と、岡田。
 それを聞いた高野内は、
「じゃあ、伸吾しか犯行はなし得ないという確信が、ますますわいてきたよ」
 と言った。
「僕も、ホシは、奴しか考えられないと思う」
 と、岡田は言った。
「しかし、アリバイが…」
 高野内は、苦悩していた。
「伸吾のアリバイもだけど、もう一つひっかかることがあるんだ」
 と、岡田が言った。
「何です?」
 と、高野内が聞くと、
「浜田耕太郎と安倉美紀が死んでいた車だが、富士方面と、河口湖方面へ向かう道路の、どのNシステムを調べても、その車が通過した形跡が見つからないんだ」
 と、岡田は、説明した。
「妙ですね」
 と、高野内。
 そして、納得がいかない顔のまま、高野内と園町は、東京駅分駐所へ、岡田は、本庁へ戻ることにした。

↑このページのトップヘ