高野内、園町、窈子、江波の4人が乗った覆面車は、国道53号線を北上していた。
運転しているのは高野内で、助手席には、園町が座っている。
覆面車は、市街地を抜けると、郊外地域に入った。
広い駐車場を持った平屋建ての店舗が多いが、しばらく走ると、左前方に大きな病院も見えた。
また、マンションも至るところで眼に入ってきた。
大きな病院のそばを通り過ぎると、目の前に山が迫ってきた。
高野内は、『津山』と書かれた標識の案内に従うように、車を走らせた。
山の中に入り、トンネルを抜け、峠道を下り、しばらく走ると、津山線の線路が見えた。単線非電化の路線なので、架線は張られていない。
また、ほぼ同時に、岡山三大河川の一つである旭川が見えてきた。
その辺りから、しばらくは旭川沿いを走った。
旭川と別れると、少しして、『久米南町』と書かれた標識が見えた。久米郡久米南町に入ったのである。
窓の外には、山間の田園風景が広がっていた。
東京で生まれて、埼玉県南部で育った高野内にとっては、なかなか見られない風景だった。
しかし、それを楽しんでいる余裕はほとんどない。
車窓には、津山線の線路が見えたり、隠れたりを繰り返した。国道53号線は、岡山市御津地域から津山市までは、JRの津山線と並行している。
久米南町を過ぎると、久米郡美咲町に入った。
そして、美咲町を過ぎると、やっと津山市に入った。
しばらく走ると、津山市街地である。
津山市街地で、吉井川を渡ると、国道53号線と別れて、北上した。
市街地を抜け郊外に入って、しばらくすると、高野内は、ある一戸建ての住宅の前に車を止めた。
「多分、ここだな」
と、高野内は、住宅のほうへ眼を向けながら言った。
生垣や塀に囲まれた庭のある2階建ての木造住宅で、庭には、芝生が敷き詰めてあり、立派な庭木が何本か植えてある。
高野内たち4人は、車から降りると、玄関の扉のほうへ、眼を向けた。
玄関の表札には、『戸塚文雄 善子』と書かれていた。
「間違いなさそうですね」
と、窈子が言うと、
「何か話を聞けたら、聞きたいな」
と、高野内は言いながら、玄関へ向かって歩いた。
そして、扉をノックしながら、
「ごめんください。戸塚さん、おられませんか?」
それから少し待つと、足音が近づき、玄関が開けられた。
そこには、70過ぎに見える男が立っていた。
「何か御用でしょうか?」
と、相手が言うと、高野内は、警察手帳を見せながら、
「私、警視庁・鉄道警察隊の高野内といいますが、戸塚雅明さんの件で知りたいことがあります」
相手は、少し緊張した顔で、
「東京の刑事さんが、どうして、雅明のことを?」
「我々が捜査をしている殺人事件と、雅明さんがトラック運転中に起こした事故と、雅明さんが亡くなった件が、関連している可能性が出てきました
それで、それらの事件の捜査のために、お聞きしたいことがあるのですが」
すると、相手は、
「雅明のことなら、赤磐南署の刑事さんも聞きに来ましたよ。その刑事さんたちにも話したと思いますが、雅明が刑務所に入っているとき、そいつの部屋を整理していたら、変な暗号みたいな紙が出てきましたね」
すると、高野内は、バッグから暗号の書かれた紙を取り出し、相手に見せながら、
「これのことですよね」
と、確認するように言った。
「そうですが」
と、男は言った。
その紙切れには、ハムの絵と、樹木の絵と、Sの字が書かれている。
いったい、それは、何を意味するのか、高野内たちは、まだ解らなかった。
「この紙切れは、雅明さんが残したメッセージのようにとれるのですが、それが何かを知りたいのです」
と、高野内が言うと、相手は、少し不機嫌な顔で、
「そのために、わざわざうちへ来られたのですか?」
「そうです。その暗号が、何か事件解決への手がかりになると、私たちは思います」
「こんな絵と、Sの文字が、何を意味しているのか、わしゃ、わからんよ」
と、相手は、困惑の表情を見せた。
「それが何を意味しているのか、ぜひ知りたいのです」
すると、相手は、表情を落ち着かせながら、
「刑事さん、せっかく来られたのだから、もし良かったら上がっていってください」
と言った。
その男は、雅明の父親、文雄には違いないだろう。
彼は、高野内たちなら、雅明の死亡の真相を突き止めてくれるだろうと、信じているのだろうか。
高野内は、そのような相手を見ながら、家の中へ入った。
園町、窈子、江波も、入っていった。
そして、床の間へ案内された。
8畳の部屋で、真ん中に、大きな座卓が置かれていた。
「どうぞ、腰を下ろしてください。汚い家ですみませんが、お茶をお出ししますので」
と、男が言うと、いったん、高野内たちの前から去った。
高野内たちは、座卓のそばに腰を下ろした。
それから何分かして、70過ぎに見える老女と一緒に、高野内たちの前へ来た。お茶を持ってである。
「刑事さん、申し遅れましたが、わしは、戸塚文雄といいます」
と、男は言い、
「私は、雅明の母の善子といいます」
と、老女は言った。
そして、善子は、座卓にお茶を置いて、並べながら、
「刑事さん、私は、雅明は、自殺したんじゃないと思います。雅明は、簡単に死ぬような人じゃないけん」
「捜査を進めた結果、出所後、何者かに自殺を装って殺害された可能性が高くなりました。
そして、その紙切れに書かれた暗号が、事件解決への糸口になると、私たちは思っています。
それで、その暗号が何を意味しているのかを知りたいのです」
と、高野内は言いながら、例の紙切れを座卓の上に置いた。
「何度もゆうが、わしゃー、わからんけえのー」
と、文雄は言った。
「樹木とハムと、Sの文字が、いったい、何を意味しているのでしょうかね?」
と、江波。
高野内は、メモ帳を出して、
『木 ハム S』の文字を書いた。
それを見た園町は、
「木にハム…」
と言いかけたあと、突然、
「わかりましたよ」
と、少し大きな声で言った。
「園町、何がわかったのか?」
と、高野内が聞くと、
「その暗号の意味ですよ」
「それは、何を意味しているのかな?」
「木へんの右側に、カタカナ、縦書きで、ハムと書いたらわかりますよ」
それを聞いた高野内は、メモ帳に、園町に言われたとおりに書いた。
すると、それが『松』の字のように見えた。
「そうか。鍵は、松の木のそばにあるんだな」
「そうです。そして、Sは、南を意味しているんだと思います」
「ということは、松の木の南に何かあるということか? これで謎が解けそうだな」
と、高野内は、歓声をあげるように言った。
すると、江波が、
「しかし、どこの松の木ですか。松の木といっても、至るところにたくさんありますよ」
と言った。
「そうだな。その松の木はどこだろうか」
と、高野内は、苦悩の表情を見せた。
そのとき、
「刑事さん」
と、文雄の声。
「戸塚さん、なにか心当たりがあるのでしょうか?」
と、高野内が聞くと、
「思い出しましたよ。うちの庭木の松です」
と、文雄は言った。
「どうして、そう思われるのですか?」
と、高野内が怪訝そうに言うと、
「雅明が、トラックで事故を起こして捕まるちーと前じゃったと思います。うちの庭に1本だけー、松の木を植えていて、その周りは芝生に囲まれとるんですが、その松の木の南側の芝生が剥がされてーたことがあったんです。おそらく、雅明が、そこを掘って、何かを埋めたのだと思います」
と、文雄は、庭を指差しながら、説明した。
窓の向こうに、1本の松の木が見えた。形の整った、美しい樹である。
高野内たち4人も、松の木のほうへ眼を向けた。
そして、高野内は、
「戸塚さん、せっかくの立派なお庭を荒らしてしまうことになって申し訳ありませんが、あの松の木のそばを掘らしてもらってよろしいですかね」
と、頭を下げながら言うと、
「どうぞ。これで、雅明の死の真相へ近づけると思うたら、庭が荒れるのぐれー、たいしたことないけん」
と、文雄は言った。
高野内は、園町、窈子、江波のほうを向いて、
「よし! じゃあ、松の木の南を掘るぞ。これから作業服とショベルを買いに行こう」
そして、高野内たち4人は、覆面車で、作業服店へ行き、それぞれの体型に合った作業着を買い、そのあと、園芸用品店へ行って、ショベルを4つ買った。
それから、再び、戸塚夫婦の家の前へ戻った。
玄関から、文雄、善子の2人が、庭のほうを見ていた。
「それでは、これから掘らせていただきます」
と、高野内は言い、4人は、松の木に近づいた。
松の木のそばには、一体何が隠されているのか?
そのときの高野内たちは、まだ何もわからなかった。
運転しているのは高野内で、助手席には、園町が座っている。
覆面車は、市街地を抜けると、郊外地域に入った。
広い駐車場を持った平屋建ての店舗が多いが、しばらく走ると、左前方に大きな病院も見えた。
また、マンションも至るところで眼に入ってきた。
大きな病院のそばを通り過ぎると、目の前に山が迫ってきた。
高野内は、『津山』と書かれた標識の案内に従うように、車を走らせた。
山の中に入り、トンネルを抜け、峠道を下り、しばらく走ると、津山線の線路が見えた。単線非電化の路線なので、架線は張られていない。
また、ほぼ同時に、岡山三大河川の一つである旭川が見えてきた。
その辺りから、しばらくは旭川沿いを走った。
旭川と別れると、少しして、『久米南町』と書かれた標識が見えた。久米郡久米南町に入ったのである。
窓の外には、山間の田園風景が広がっていた。
東京で生まれて、埼玉県南部で育った高野内にとっては、なかなか見られない風景だった。
しかし、それを楽しんでいる余裕はほとんどない。
車窓には、津山線の線路が見えたり、隠れたりを繰り返した。国道53号線は、岡山市御津地域から津山市までは、JRの津山線と並行している。
久米南町を過ぎると、久米郡美咲町に入った。
そして、美咲町を過ぎると、やっと津山市に入った。
しばらく走ると、津山市街地である。
津山市街地で、吉井川を渡ると、国道53号線と別れて、北上した。
市街地を抜け郊外に入って、しばらくすると、高野内は、ある一戸建ての住宅の前に車を止めた。
「多分、ここだな」
と、高野内は、住宅のほうへ眼を向けながら言った。
生垣や塀に囲まれた庭のある2階建ての木造住宅で、庭には、芝生が敷き詰めてあり、立派な庭木が何本か植えてある。
高野内たち4人は、車から降りると、玄関の扉のほうへ、眼を向けた。
玄関の表札には、『戸塚文雄 善子』と書かれていた。
「間違いなさそうですね」
と、窈子が言うと、
「何か話を聞けたら、聞きたいな」
と、高野内は言いながら、玄関へ向かって歩いた。
そして、扉をノックしながら、
「ごめんください。戸塚さん、おられませんか?」
それから少し待つと、足音が近づき、玄関が開けられた。
そこには、70過ぎに見える男が立っていた。
「何か御用でしょうか?」
と、相手が言うと、高野内は、警察手帳を見せながら、
「私、警視庁・鉄道警察隊の高野内といいますが、戸塚雅明さんの件で知りたいことがあります」
相手は、少し緊張した顔で、
「東京の刑事さんが、どうして、雅明のことを?」
「我々が捜査をしている殺人事件と、雅明さんがトラック運転中に起こした事故と、雅明さんが亡くなった件が、関連している可能性が出てきました
それで、それらの事件の捜査のために、お聞きしたいことがあるのですが」
すると、相手は、
「雅明のことなら、赤磐南署の刑事さんも聞きに来ましたよ。その刑事さんたちにも話したと思いますが、雅明が刑務所に入っているとき、そいつの部屋を整理していたら、変な暗号みたいな紙が出てきましたね」
すると、高野内は、バッグから暗号の書かれた紙を取り出し、相手に見せながら、
「これのことですよね」
と、確認するように言った。
「そうですが」
と、男は言った。
その紙切れには、ハムの絵と、樹木の絵と、Sの字が書かれている。
いったい、それは、何を意味するのか、高野内たちは、まだ解らなかった。
「この紙切れは、雅明さんが残したメッセージのようにとれるのですが、それが何かを知りたいのです」
と、高野内が言うと、相手は、少し不機嫌な顔で、
「そのために、わざわざうちへ来られたのですか?」
「そうです。その暗号が、何か事件解決への手がかりになると、私たちは思います」
「こんな絵と、Sの文字が、何を意味しているのか、わしゃ、わからんよ」
と、相手は、困惑の表情を見せた。
「それが何を意味しているのか、ぜひ知りたいのです」
すると、相手は、表情を落ち着かせながら、
「刑事さん、せっかく来られたのだから、もし良かったら上がっていってください」
と言った。
その男は、雅明の父親、文雄には違いないだろう。
彼は、高野内たちなら、雅明の死亡の真相を突き止めてくれるだろうと、信じているのだろうか。
高野内は、そのような相手を見ながら、家の中へ入った。
園町、窈子、江波も、入っていった。
そして、床の間へ案内された。
8畳の部屋で、真ん中に、大きな座卓が置かれていた。
「どうぞ、腰を下ろしてください。汚い家ですみませんが、お茶をお出ししますので」
と、男が言うと、いったん、高野内たちの前から去った。
高野内たちは、座卓のそばに腰を下ろした。
それから何分かして、70過ぎに見える老女と一緒に、高野内たちの前へ来た。お茶を持ってである。
「刑事さん、申し遅れましたが、わしは、戸塚文雄といいます」
と、男は言い、
「私は、雅明の母の善子といいます」
と、老女は言った。
そして、善子は、座卓にお茶を置いて、並べながら、
「刑事さん、私は、雅明は、自殺したんじゃないと思います。雅明は、簡単に死ぬような人じゃないけん」
「捜査を進めた結果、出所後、何者かに自殺を装って殺害された可能性が高くなりました。
そして、その紙切れに書かれた暗号が、事件解決への糸口になると、私たちは思っています。
それで、その暗号が何を意味しているのかを知りたいのです」
と、高野内は言いながら、例の紙切れを座卓の上に置いた。
「何度もゆうが、わしゃー、わからんけえのー」
と、文雄は言った。
「樹木とハムと、Sの文字が、いったい、何を意味しているのでしょうかね?」
と、江波。
高野内は、メモ帳を出して、
『木 ハム S』の文字を書いた。
それを見た園町は、
「木にハム…」
と言いかけたあと、突然、
「わかりましたよ」
と、少し大きな声で言った。
「園町、何がわかったのか?」
と、高野内が聞くと、
「その暗号の意味ですよ」
「それは、何を意味しているのかな?」
「木へんの右側に、カタカナ、縦書きで、ハムと書いたらわかりますよ」
それを聞いた高野内は、メモ帳に、園町に言われたとおりに書いた。
すると、それが『松』の字のように見えた。
「そうか。鍵は、松の木のそばにあるんだな」
「そうです。そして、Sは、南を意味しているんだと思います」
「ということは、松の木の南に何かあるということか? これで謎が解けそうだな」
と、高野内は、歓声をあげるように言った。
すると、江波が、
「しかし、どこの松の木ですか。松の木といっても、至るところにたくさんありますよ」
と言った。
「そうだな。その松の木はどこだろうか」
と、高野内は、苦悩の表情を見せた。
そのとき、
「刑事さん」
と、文雄の声。
「戸塚さん、なにか心当たりがあるのでしょうか?」
と、高野内が聞くと、
「思い出しましたよ。うちの庭木の松です」
と、文雄は言った。
「どうして、そう思われるのですか?」
と、高野内が怪訝そうに言うと、
「雅明が、トラックで事故を起こして捕まるちーと前じゃったと思います。うちの庭に1本だけー、松の木を植えていて、その周りは芝生に囲まれとるんですが、その松の木の南側の芝生が剥がされてーたことがあったんです。おそらく、雅明が、そこを掘って、何かを埋めたのだと思います」
と、文雄は、庭を指差しながら、説明した。
窓の向こうに、1本の松の木が見えた。形の整った、美しい樹である。
高野内たち4人も、松の木のほうへ眼を向けた。
そして、高野内は、
「戸塚さん、せっかくの立派なお庭を荒らしてしまうことになって申し訳ありませんが、あの松の木のそばを掘らしてもらってよろしいですかね」
と、頭を下げながら言うと、
「どうぞ。これで、雅明の死の真相へ近づけると思うたら、庭が荒れるのぐれー、たいしたことないけん」
と、文雄は言った。
高野内は、園町、窈子、江波のほうを向いて、
「よし! じゃあ、松の木の南を掘るぞ。これから作業服とショベルを買いに行こう」
そして、高野内たち4人は、覆面車で、作業服店へ行き、それぞれの体型に合った作業着を買い、そのあと、園芸用品店へ行って、ショベルを4つ買った。
それから、再び、戸塚夫婦の家の前へ戻った。
玄関から、文雄、善子の2人が、庭のほうを見ていた。
「それでは、これから掘らせていただきます」
と、高野内は言い、4人は、松の木に近づいた。
松の木のそばには、一体何が隠されているのか?
そのときの高野内たちは、まだ何もわからなかった。