浜崎ヒカルのブログ推理小説

ブログを利用して推理小説を書いています。 鉄道ミステリーが中心になります。

2010年03月

近藤警部は、安倉美紀が残した証拠のテープを、あるところから見つけたという。
そこは、どこなのだろうか。
「近藤警部、安倉美紀は、どこに隠していたのですか?」
と、高野内が言うと、
「それは、これにじゃ」
と、1枚の写真を出した。2Lサイズの写真だった。
写真には、1台の自動車が写っていた。
車種は、bBで、色は黒だった。角ばった2ボックスのコンパクトカーである。
「この写真の車の中にじゃ」
と、近藤は言った。
高野内は、それを見ながら、突然、
「それって、ひょっとして、安倉美紀が車検に出した車ですか?」
と言った。
すると、
「そうじゃ。その車の助手席のボックスの中に、カセットテープがあったんじゃ」
と、近藤は答えた。
「ということは、安倉美紀は、万が一、自分が殺されたときのために、犯人の声を録音したテープを車に隠して、それをディーラーに預けてから、犯人の指示で河口湖へ向かったということになりますね」
と、高野内が言うと、
「そのとおりじゃろ」
と、近藤。
「近藤警部、そのテープの声を聴きたいです」
と、園町が言うと、近藤は、
「もちろん、聴いてもらいたい」
と言いながら、テープレコーダーにテープを入れて、再生ボタンを押した。
数秒後、
「失礼ですが、どちら様ですか?」
という、女の声が聞こえてきた。安倉美紀の声だった。
「私は、ヤマシタといいます」
と、中年過ぎの男の声が流れた。池上雅典の声だった。
「ヤマシタさん、わたしに何の御用ですか?」
と、美紀の声。
「あなたは、2月20日に、新潟駅を出た大阪行きの急行『きたぐに』に乗車していましたね」
と、池上の声。
「どうして、それを知っているのですか」
「それについては、詳しくは言えないのですが、警察は、あなたが、平山車掌を殺害したと睨んでマークしているようですよ」
「そんな。はっきり言いますけど、わたしは、そんなことしていませんわ」
「それは、私もわかっています。でも、警察は、あなたを犯人と思っているようですよ」
「どうしたらいいのですか?」
「安心してください。私の言うとおりにすれば大丈夫です。次第に、あなたへの容疑も晴れます」
「本当に、わたしへの容疑がなくなるの?」
「そうです。その方法をお教えしますよ」
「どうすればいいの?」
「さきほど、あなたの自宅へ、寝台列車の切符を速達で送りました。2月25日に、大阪駅を発車する東京行きの寝台急行『銀河』です」
「切符が届いたら、その列車に乗ればいいの?」
「そうです。ただし、それには、いくつか条件があります」
「条件ですか?」
「そうです。その条件に従っていただかないと、あなたへの容疑が晴れないどころか、警察は、なおさら怪しいと睨む可能性もあります」
「その条件を教えて」
「わかりました」
と、池上は言ったあと、安倉美紀に、靴と服と財布を2人分用意すること、携帯電話を常にオンにしたうえ、こちらに電話番号を教えること、携帯電話が鳴ったら、必ず出て、こちらの指示に従うことなどを話していた。
それに続いて、安倉美紀が、池上に、携帯電話の番号を教える声が出てきた。
そのあと、
「本当にそのようにしたら、わたしへの容疑は晴れるのですね?」
と、安倉美紀が、入念に聞き返す声。
「もちろんです。それだけではありません。私は、あなたの婚約者で、平山車掌の弟であった平山義彦さんが亡くなったときの真相も知っています」
と、池上。
「本当ですか?」
「はい。本当です。警察は、義彦さんは自殺したものとして処理していますが、本当は自殺ではありません。私の指示通りに動いていただけたら、その真相もお教えします」
「わかりました」
「では、そのようにお願いいたします。では、電話を切らせていただきます」
以上で、テープの声は終わっていた。
こうして、池上が言葉巧みに、安倉美紀をコントロールして、河口湖に向かわせていたのであろう。
ただし、安倉美紀を殺害したのは、池上ではなく、西住伸吾であると、高野内たちは、確信している。
高野内は、近藤のほうを向いて、
「これで、池上も、犯行に協力していたことが証明できましたね」
と、うれしそうな顔で言った。
「ああ。これは、動かぬ証拠だからのう」
と、近藤。
それに続いて、岡田が、
「安倉美紀の件についてですが、僕たちのほうも調べてみて、わかったことがありますので、報告します」
と言った。
そして、
「安倉美紀は、26日の午前4時半過ぎに、富士駅前で、タクシーに乗ったことがわかりました」
と言った。
「タクシーで河口湖に向かったのでしょうか?」
と、高野内が言うと、
「そのとおりだよ。乗車したタクシーは、富士市内にあるTタクシーで、中井(ナカイ)という57歳の運転手が、安倉美紀の顔も憶えていたよ」
と、岡田。
「河口湖に着いたのは、何時頃ですか?」
と、高野内が聞くと、
「朝の7時より少し前だそうだ」
と、岡田は答えた。
「じゃあ、タクシーから降りてまもなく、西住伸吾に会って、浜田と一緒に殺されたのですね」
と、高野内が言うと、
「そうでしょう」
と、岡田。
「あと、安倉美紀は、そのタクシーに携帯電話を忘れていたことがわかりました。その携帯電話にも証拠があります」
岡田は、バッグから、透明のビニール袋に入った携帯電話を取り出しながら言った。
若い女性が好みそうなピンク色の携帯電話だった。
「その携帯電話、安倉美紀のものですか」
と、園町が言うと、
「そうだよ」
と、岡田は言い、続いて、
「その携帯電話には、25日の夜から26日の未明にかけて、番号非通知の着信履歴が4回あったんだ」
と言った。
それから、岡田は、ホワイトボードのほうへ向かって歩いて、ペンをとった。

着信1回目 22時13分
着信2回目 22時25分
着信3回目 4時9分
着信4回目 4時33分

岡田は、ホワイトボードに、そのように書いた。
「合計4回、ここに書いた時刻に着信している」
と、岡田は言ったあと、
「電話会社の通信記録を調べたら、4回とも、同じ番号の携帯電話からかかっていたことがわかったんだ」
それを聞いた高野内が、
「それは、池上ですか?」
と聞くと、
「そうだ。そのとおり。池上の携帯からだよ」
と、岡田は、はっきりとした口調で答えた。
「やっぱり、そうでしたか」
と、高野内は言ったあと、時刻表を見ながら、
「1回目は、寝台急行『銀河』が大阪駅を出る9分前で、2回目は、大阪駅を出て3分後ですね」
と言った。
すると、園町が、
「池上は、安倉美紀が『銀河』に乗ったのを確認するために電話したに違いないですね」
と、自信たっぷりの口調で言った。
「そのとおりだと思うよ」
と、岡田。
「着信第3回目は、富士駅に止まるより前ですね」
と、高野内が言い、それに続いて、園町が、
「ということは、誰かに無理やり降ろされたように偽装して、列車から降りるように指示したのでしょうか?」
と言った。
「僕もそう思う」
と、岡田は言った。
そのあと、高野内は、
「4回目は、安倉美紀が『銀河』を降りた少し後ですね。それは、降りたことを確認するのと、タクシーで河口湖へ向かうように指示を出すためだと、僕は思います」
と、はっきりとした口調で言った。
それに続いて、園町が、
「僕も、高野内さんが言うとおりだと思います」
と言った。
それを聞いた岡田は、
「おそらく、そのとおりだよ」
と答えた。
「これで、池上も、犯行に関わっていたと、ますます確信できますね」
高野内は、自信ありそうに言った。
このように、池上が、言葉巧みに、安倉美紀をコントロールして誘い出して、西住伸吾に、河口湖で、浜田耕太郎ともども、自殺を装って殺害させたのであろう。
犯行時、池上自信は、大阪発新潟行きの急行列車『きたぐに』に乗車していたというアリバイを作ったうえである。
実行犯の西住伸吾も、巧みにアリバイを作っていたが、それは、すでに崩れている。
これで、池上が、安倉美紀と浜田耕太郎の殺害については、共犯であることが判明した。
安倉美紀は、平山義彦さんが亡くなったときの真相を知りたくて、ヤマシタと名乗る池上の指示通りに動いたが、相手が裏切ったときのことを考えて、テープに声を録音し、自分の車に隠して、その車をカーディーラーに預けたのであろう。
それが、動かぬ証拠になっている。
「これで、池上も逮捕できますね」
と、園町は、うれしそうな顔で言った。
すると、妹尾が、
「そうだな」
と言ったあと、
「俺たちも、姫路や大阪へ調べに行ったら、いろいろなことがわかったし、証拠も出てきたよ」
それを聞いた高野内が、
「それについて、ぜひ聞きたいです」
と言うと、
「これから説明するよ」
と、妹尾。
妹尾と難波は、捜査のために、姫路と大阪へ行ってきたのである。
そこでは、どのようなことが判明し、どのような証拠がみつかったのだろうか。

 岡山県警本部に戻った高野内たちは、着替えると、捜査会議室へ入った。
 佐田真由子警視や岡田俊一警部のほか、県警の妹尾や難波、赤磐南署の近藤と真野もいた。
「近藤さん、あなたたちが見つけた証拠をみんなに見せてあげて」
 と、真由子が言うと、
「わかりました」
 と、近藤は言いながら、バッグから何かを取り出した。
 それは、カセットテープだった。
「近藤警部も、証拠になる声が録音されたテープを見つけたのですか」
 と、高野内がテープのほうをじっと見ながら言うと、
「そうじゃ。それも何本か見つかったけえのう」
 と、近藤は、うれしそうな顔で言った。
「近藤さん、再生していただけるかしら」
 と、真由子が微笑しながら言うと、
「わかりました。これから再生します」
 と、近藤は言った。
 近藤が、テープをテープレコーダーに入れ、ボタンを押した。
「荻田先生、頼めるだろう!」
 と、西住晴伸の声が流れた。
 それに続いて、
「平山義彦先生を消せというのですか」
 と、荻田勲の声が出てきた。
「そうだ。宮川達彦が死んだ件について、平山先生がいろいろ感づいてきている。一刻も早く、平山先生を消さないとあぶないんだ。頼めるだろ?」
 という、西住晴伸の声。
 そこで、録音された声は終わっていた。
 近藤が、再生を停止し、カセットテープを取り出しながら、
「これが見つけたテープのうちの1本目じゃ」
 と言った。
「どこから見つかったのですか?」
 と、高野内が聞くと、
「荻田がレンタルボックスを借りていたことがわかって、そこを探したら、テープが何本か出てきたんじゃ」
 と、近藤は答えた。
 そして、
「2本目を再生するけん」
 と、近藤は言いながら、テープを出して、テープレコーダーに入れ、ボタンを押した。
「西住さん、また私に何の御用でしょうか?」
 と、荻田の声が流れた。
 それに続いて、
「12月に、戸塚雅明という元トラック運転手の男がムショから出てくる。そいつを消してほしいんだ」
 と、西住晴伸の声。
「また、私に消してほしいというのですか?」
 と、荻田。
「そうだ」
 と、西住晴伸。
「出所後は、どこに住む予定なんですか?」
 と聞く、荻田の声が出てきたあと、
「ここに書いているとおりだ」
 と、言ったあと、
「じゃあ、頼むよ。荻田先生」
 と言う、西住晴伸の声が出てきた。
 そして、近藤は、再生を止めた。
「荻田は、万が一、自分だけが捕まったり、消されそうになったときの用心のために、テープを用意していたようじゃ」
 と、近藤が言い、それに続いて、真野が、
「みんな考えていたことは、似ていましたね」
 と言った。
「似ていたといいますと?」
 と、園町が言うと、
「それは、安倉美紀も、念のための証拠をテープに残していて、あるところに隠していたんじゃ」
 と、近藤は、軽い笑みを浮かべながら言った。
 近藤警部がいう「あるところ」、それは、一体どこなのだろうか?

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