浜崎ヒカルのブログ推理小説

ブログを利用して推理小説を書いています。 鉄道ミステリーが中心になります。

2012年03月

 3月1日の早朝、岡山県警本部では、西住親子と池上に対する取調べが、まだ続いていた。
「じゃあ、次は、野崎征太郎殺害の件について、話を聞かせてもらおうかのう」
 と、近藤は言った。
 すると、池上は、
「野崎は、15年前の事件が起きた後は、社長や伸吾さんに不利な事実は隠蔽し、こちらに有利になるように便宜を図ってくれていました」
 と答えた後、
「しかし…」
 と言った。
「どうしたんかのう?」
 と、近藤が言うと、
「社長の会社が成長し、社長としても地方議員としても知名度があがるにつれて、野崎は、急に態度を変えてきたのです」
 と、池上は言った。
「どうしたじゃ? 野崎さんも、ゆすりをしてきたんかのう」
 と、近藤が池上の顔をじっと見ながら言うと、
「はい。そうです」
 と、池上は言ったあと、
「しばらくは、社長や伸吾さんのために、便宜を図ってくれたのに、急に態度を変えて、カネを要求してきたのです。そうしないと、証拠を揃えて、事実を公表するぞ、と、野崎は、脅してきました。そこで、仕方なく、社長は、野崎に、毎月一定の額を渡していました。
野崎が警察官だった頃は、彼が要求してきた額は、社長にとってはたいした金額ではなかったのですが、野崎が警察官を退職後、急に、カネの要求がエスカレートしてきました」
 と、説明した。
「それで、殺したんじゃな!」
 と、近藤が険しい目つきで言うと、池上は、
「はい」
 と、返事した後、
「それで、社長の命令で、野崎のブランデーに青酸カリを混入しました」
 と言った。
「じゃあ、次は、荻田勲殺害の件について、聞かせてもらおうかのー」
 と、近藤は言った。
 すると、池上は、初めは、荻田を殺害する予定はなかったが、荻田が交通事故を起こした上、警察に連行されそうになったという情報を得た西住親子が、急遽、暴力団員に、荻田が警察署に到着する前に、荻田を消すように依頼したことを説明した。
 池上の供述によると、荻田殺害に関わった暴力団員は、神崎と谷合だった。
 谷合は、ダンプカーを強奪すると、荻田の乗った警察車両を追いかけ、故意に衝突して跳ね飛ばし、殺害したのだという。
 荻田とともに、死亡した笠松と宮本の2人の機捜隊員は、巻き添えである。
 そのあと、谷合は、追いかけてきたパトカーの妨害をしたあと、逃走したのだという。
 そして、神崎が谷合を口封じに殺害したことを、池上は、近藤に話した。
 それに続いて、池上は、
「谷合をいいように利用したあと消す計画は、ずっと前からありました」
 と言った。
「どういうことかのう?」
 と、近藤が言うと、
「谷合は、所属していた組の内部情報を漏らしているという噂もあり、組の中でもかなり厄介者だったそうです。それで、組では、谷合を消す計画があったそうです」
 と、池上は答えた。
「それで、急遽、荻田殺害の実行役として、利用した後、神崎が殺害したんじゃな」
 と、近藤。
「はい」
 と、池上。
 こうして、野崎、荻田、谷合殺害の真相が明らかになっていった。
 その後も、池上に対する取調べは続いた。

 3月1日の未明、岡山県警本部では、西住親子と池上に対する取調べが、まだ続いていた。
「21日の午前0時半から1時にかけて、急行『きたぐに』のトイレで、車掌の平山泰彦さんが殺害された件についても、話してもらおうか」
 と、高野内は言った。
 すると、池上は、
「それも、社長の命令です」
 と言った。
「実行したのは、誰かのう」
 と、近藤が言うと、
「寺山君です」
 と、池上は答えたあと、
「社長と伸吾さんの命令で、寺山君がやりました」
 と言った。
 そして、アリバイを作るために、京都駅前のホテルに泊まり、ルームサービスを利用した後、こっそりとホテルを抜けて、犯行を実行するために、新幹線を乗り継いで、長岡駅から、『きたぐに』に乗り、平山車掌を殺害したことを説明した。
 それに続いて、直江津駅で、『きたぐに』から降りて、寝台特急『日本海2号』で、京都へ戻ったことを、池上は話した。
 池上の説明の内容は、高野内たちの推理内容と一致していた。
「動機は、西住親子の過去の事件が、明るみに出ないようにするためかね?」
 と、高野内が言うと、
「そうです」
 と、池上は言った。
 そして、平山泰彦が、弟の平山義彦の死が自殺とされた件について、不審を感じ、鴨井圭という私立探偵に、調べてもらっていたことに対する危機感から、平山泰彦を殺害するように、西住親子が、寺山に命じていたことを話した。
「じゃあ、次は、寺山が殺害された件について、話してもらえるかのう」
 と、近藤は言った。
 すると、池上は、
「はじめは、寺山君を殺害する予定はなかったのです」
 と答えた。
「やっぱり、そうか」
 と、近藤は言ったあと、
「どうして、寺山を殺したのかのー?」
 と言った。
「寺山君がアリバイを作りながら、急行『きたぐに』に乗務中の平山車掌を殺害し、我々もアリバイを作っておくのは、予定どおりだったんですが…」
 と、池上が言うと、
「あんたたちにとって、予定外の事態が生じて、寺山を殺害したんじゃな」
 と、近藤。
「そうです。寺山君が平山車掌を殺害したのは、予定通り実行できたのですが、平山車掌に抵抗されたとき、引っかき傷ができてしまったのです。そのままだと、平山車掌の爪の間から出た寺山君の皮膚が証拠になってしまい、寺山君の逮捕が時間の問題になります。寺山君が逮捕されてしまうと、社長や伸吾さんがあぶなくなりますので、暴力団員に頼んで殺害してもらいました」
 と、池上は震えながら言った。
「暴力団員って、神崎か?」
 と、近藤が聞くと、
「そうです」
 と、池上。
「神崎に寺山殺しを依頼し、神崎が実行している間に、西住親子は、アリバイを作るために、津山市内のコンビニを利用したとゆうことじゃな」
 と、近藤が確認するように言うと、
「そうです。刑事さんの言うとおりです」
 と、池上。
「じゃあ、今度は、探偵の鴨井圭殺害の件についても、話してもらおうかのう」
 と、近藤は言った。
「鴨井圭は、平山車掌の依頼で、伸吾さんが通っていた中学校の先生で、弟の平山義彦の死の真相を調べていました」
 と、池上が言うと、
「それで」
 と、近藤。
「鴨井は、社長と伸吾さんのことも嗅ぎ付けました」
 と、池上は言った。
「で、どうして、殺したのかのー?」
 と、近藤が言うと、
「カネです」
 と、池上は答えた。
「鴨井も、カネを要求してきたんじゃな」
 と、近藤が言うと、
「そうです」
 と、池上は答えた後、鴨井が、平山義彦が亡くなった件の真相について、依頼者の平山泰彦に知らせて欲しくなければ、5000万円を用意しろと、脅してきたことと、西住晴伸が、2月21日の夜に、児島駅から、東京行きの寝台特急『サンライズ瀬戸』に乗ることを、鴨井に指示したこと、鴨井が『サンライズ瀬戸』に乗車中、西住晴伸や池上自身は、『サンライズ瀬戸』に乗れないというアリバイを作っておき、西住伸吾が、寝台特急『はやぶさ』に乗っていたという偽アリバイを作りながら、『サンライズ瀬戸』に乗車していた鴨井を殺害を実行したことを説明した。
 その説明内容は、高野内たちの推理内容と一致していた。
 こうして、平山泰彦、寺山正伸、鴨井圭殺害の真相が明らかになった。
 だが、まだ、池上への取調べは終わらなかった。

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