浜崎ヒカルのブログ推理小説

ブログを利用して推理小説を書いています。 鉄道ミステリーが中心になります。

2014年02月

 午前11時20分頃、高野内と園町は、再び、東京中央郵便局を訪れた。
 そして、ゆうちょ銀行の窓口の係員に、警察手帳を見せながら、用件を告げると、店長の中山を呼んでくれた。
 しばらくして、中山店長は、高野内たちの前に姿を見せると、
「刑事さん、『ヤマシタジロウ』という人物からの振込みの件で調べてみました」
 と言った。
「いつから振込みがありましたか?」
 と、高野内が聞くと、中山は、手持ちの封筒から、何かを印刷した紙を取り出して、それを見ながら、
「2011年11月15日ですね」
 と答えた。
「その次の振込みはいつでしたか?」
 と、再度聞くと、
「同じ2011年の12月15日です」
 と、中山は言ったあと、
「そのあとも、毎月15日か14日か13日のいずれかの日に振り込まれていますね、ちなみに、金額は5万円ずつです」
 と言った。
「どちらから振り込まれていましたか?」
 と、高野内が聞くと、
「いずれも、長野県松本市にある松本T郵便局のATMからです」
 と、中山は答えた。
「松本からですか」
 と、高野内は、軽く驚いたような声を出した。
「ええ。そうです」
 と、中山は言った。
「記録した紙を拝見してよろしいですか?」
 と、高野内が言うと、中山は、
「よろしければ、それをお渡しします」
 と言いながら、記録を印刷した紙を封筒に入れて、高野内に手渡した。
「ありがとうございます。では、捜査に使わせていただきます」
 と、高野内は言った後、改めて、お礼を言って、園町と一緒に東京中央郵便局をあとにした。
 そして、分駐所に戻った。

 分駐所に戻った頃、時計の針は正午に近づいていた。
 貴代子と真希は、退勤していた。
 桑田警部と、鶴尾、奈々美はいた。
 高野内は、桑田警部のほうを向いて、
「警部、『ヤマシタジロウ』という人物が早崎裕允の通帳に振り込んでいた郵便局と日付、それに、振込みが開始された日がわかりました」
 と言った後、ゆうちょ銀行本店の中山店長から預かった紙を封筒ごと、桑田に手渡した。
「この中に、振込みの履歴の記録が印刷された紙が入っています」
 と、高野内は言った。
「わかった。これから、俺も確認してみるよ」
 と、桑田は言いながら、封筒の中身を取り出した。
 そして、桑田は、中に入っていた紙に眼を向けていた。
「『ヤマシタジロウ』という人物は、長野県の松本の郵便局から振り込んでいるようだな」
 と、桑田は、記録が印刷された紙を見ながら言った。
「そうです。すべて、同じ郵便局のATMからだそうです」
 と、高野内は言った。
 すると、桑田は、
「それについて、高野内君は、どう考えるかね?」
 と聞いた。
「捜査を進めるうえでですか?」
 と、高野内が確認するように聞き返すと、
「そうだ」
 と、桑田は答えた。
「まだ、今の段階では、確信は持てませんが、『ヤマシタジロウ』という人物は、長野県の松本市かその周辺の人物だと思われます」
 と、高野内が言うと、桑田は、真剣そうな表情で、
「その人物が、早崎裕允を殺害したホシだというのか?」
 と言った。
 すると、高野内は、
「それは、これから、捜査を進めていかなければわかりませんが、『ヤマシタジロウ』が、早崎裕允にゆすられて、毎月5万円ずつ振り込んだのは、間違いないと、私は思います。ですから、その人物が早崎裕允を殺害した可能性についても、調べてみる必要があります」
 と言った。
「俺も、高野内君の意見に同意だよ」
 と、桑田は言った後、
「じゃあ、高野内君、園町君、鶴尾君、桜田君の4人に、捜査のために、松本まで行ってもらおう」
 と、はっきりとした口調で言った。
 そして、高野内、園町、鶴尾、奈々美の4人は、捜査のために、長野県の松本へ向かうことになった。

 高野内、園町、鶴尾、奈々美の4人は、新宿駅に行き、14時ちょうど発の特急『スーパーあずさ19号』に乗った。
 その列車は、松本行きの特急列車で、E351系電車の12両編成だった。
 高野内たち4人は、自由席の車両に乗った。
 『スーパーあずさ19号』は、終点、松本までの途中の停車駅は、八王子、甲府、茅野、上諏訪の4箇所のみである。
 時計の針が午後2時を差して、まもなく、高野内たちが乗った特急『スーパーあずさ19号』は、新宿駅を出発した。
 終点の松本には、16時26分に到着する。
 その日も、あまり天候がよくなかったため、松本に近づいていた頃には、窓の外は少し暗くなっていた。
 終点の松本駅には、定時に到着した。
 松本駅で降りると、改札の外に出た。
「これから、どこへ行くのですか? 高野内さん」
 と、鶴尾が聞くと、
「松本中央警察署へ行って、ATMで振り込んだ人物の割り出しに協力してもらおうと思うんだ」
 と、高野内は答えた。
 そのあと、
「タクシーで松本中央署に向かおう」
 と、高野内は言いながら、タクシー乗り場へ向かって歩いた。
 園町、鶴尾、奈々美は、高野内のあとを歩いた。
 それから、少し経って、高野内は、誰かにぶつかった。
 服装から、相手は女性のようだった。
「すみません」
 と、高野内は頭を下げた。
 すると、相手の女性も、
「すみません」
 と言った。
 その声は、聞き覚えのある声のように聞こえた。
 高野内が、相手の顔のほうに眼を向けると、相手の女性は、佐田真由子警視だった。そばには、岡田俊一警部がいた。
「佐田警視…」
 高野内は、軽く驚いたような声を出した。
 すると、真由子は、
「高野内さん、松本まで、何の用で来たのかしら」
 と、怪訝そうな顔で言った。
「早崎裕允が殺害された件の捜査のためですよ」
 と、高野内は答えた。
 偶然とはいえ、高野内たちは、驚きの表情は隠せなかった。捜査のために行った先で、捜査一課の捜査官に会ったからである。
「佐田警視は、どうして、松本へ行かれたのですか?」
 と、高野内は聞いた。
 すると、真由子は、
「それは、鉄道警察隊の人たちには関係ないことよ」
 と言った。
「そうですか。では、私たちは、これで失礼します」
 と、高野内は言った後、真由子と岡田の前から去った。
 そして、高野内たち4人は、タクシー乗り場に行き、タクシーに乗った。
 タクシーの後席に座った奈々美は、
「どうして、佐田警視たちがいたのか、気になりますね」
 と言った。そのときの奈々美の表情は、ぜひとも知りたいといわんばかりだった。
「俺も同感だが、ずけずけと聞いたら、あとで面倒なことになる」
 と、高野内は言った。
 その間も、タクシーは、松本市内にある松本中央署へ向かっていた。
 松本では、捜査に関する手がかりが、どれだけ得られるのか、そのときの高野内たちには、まだ、はっきりとはわからなかった。

 夕方6時半頃、分駐所に戻ると、桑田警部や鶴尾、奈々美がいたほか、貴代子と真希が出勤していた。鶴尾と奈々美は、その日の昼は、制服姿だったが、高野内たちが出ていた間に、私服に着がえていた。
「警部、早崎の自宅に行って調べたら、この通帳を見つけました」
 と、高野内は、早崎の部屋で発見した通帳を見せながら言った。
「ごくろうだったな。それで、その通帳から何がわかったんだ?」
 と、桑田は聞いた。
「この通帳は、昨年10月に新しいものに切り替えられていますが、ずっと毎月15日か14日か13日のいずれかの日に、『ヤマシタジロウ』と名乗る者から、5万円ずつ金が振り込まれています」
 と、高野内は、通帳の内容を改めて確認しながら言った。
「毎月5万円って、何かのバイト代ですかね?」
 と、鶴尾が言うと、
「いや。俺は違うと思うぜ」
 と、高野内は答えた。
「じゃあ、どうして、毎月5万円も、ヤマシタという人が振り込んだのでしょうか?」
 と、今度は、園町が怪訝そうな顔で言った。
 それに続いて、
「高野内君、きちんと説明したまえ」
 と、桑田が言った。
「これは、私の推測ですが、早崎という男は、恐喝の前科がある人物です。また、懲りずに、誰かをゆすっていたのではないでしょうか」
 と、高野内は言った。
「ゆすりか」
 と、桑田が確認するような言い方で言うと、
「そうだと思います」
 と、高野内は答えた。
 それに続いて、
「それと、その通帳の記録によると、『ヤマシタジロウ』という人物から振込みがあった日かその翌日に、キャッシュカードで5万円ずつ引き出されています」
 と、高野内は、通帳を見ながら言った。
 そして、園町にも通帳を見せた。
 通帳によると、ほとんどの月の15日に『ヤマシタジロウ』名義で、5万円ずつ振込みがされているのがわかった。15日に振込みがない月には、13日か14日に、5万円が振り込まれていた。
「園町、それをみてどう思うかね?」
 と、高野内が言うと、
「そうですね。『ヤマシタジロウ』と名乗る人物は、毎月15日が給料日だったのでしょうか」
 と、園町は、当てずっぽうで答えた。
 すると、高野内は、
「俺も同じ考えだよ!」
 と、微笑しながら言った。
「『ヤマシタジロウ』の正体は、15日が給料日の職場に勤務する人物ということかね?」
 と、桑田は、確認するような言い方で言った。
「その可能性が高いです」
 と、高野内は答えた。
「じゃあ、高野内君と園町君には、『ヤマシタジロウ』と名乗る人物について、調べてもらおうか」
 と、桑田が言うと、
「わかりました」
 と、高野内は答えたあと、
「明日、中央郵便局へ行って、『ヤマシタジロウ』がどの郵便局から振り込んだか調べてもらおうと思います」
 と言った。
「わかった」
 と、桑田は言った。
 そして、高野内、園町、鶴尾、奈々美は、退勤した。

 翌日10月9日、午前7時頃、高野内、園町、鶴尾、奈々美は、出勤した。
 貴代子と真希もいた。
 それからまもなく、桑田警部も出勤してきた。
「おはようございます」
 と、高野内は、桑田警部のほうを向いてあいさつをしたあと、
「9時になったら、園町と一緒に中央郵便局に行ってみます」
 と言った。
「早崎裕允の貯金通帳の件でかね」
 と、桑田が改めて確認するように言うと、
「そうです」
 と、高野内は答えた。
「じゃあ、高野内君と園町君、頼んだぞ」
 と、桑田は言った。
 時計の針が8時55分を差したとき、高野内は、ショルダーバッグに通帳を入れて、園町と一緒に、分駐所から出た。
 そして、駅から徒歩ですぐの場所にある東京中央郵便局に行った。
 9時の営業開始とほぼ同時に中へ入り、局内にあるゆうちょ銀行本店の窓口の女性社員に声をかけた。
「お客様、恐れ入りますが、番号札を取ってお待ちください」
 と、若い女性の社員が言うと、高野内は、警察手帳を見せながら、
「鉄道警察隊の者ですが、貯金通帳のことで調べてほしいことがあるのですが」
 と言った。
 すると、相手は、緊張した表情で、
「担当の者をお呼びしますので、少しお待ちください」
 と言った。
 そして、窓口係の女性は、窓口から立って奥にいった。
 それから、しばらくすると、その女性係員は、男性と一緒に、高野内たちの前に出てきた。
 男性は、50代半ばくらいで、白髪の多い頭だった。ピンストライプのスーツを着ていた。
「警察の方でしょうか?」
 と、男性のほうが声をかけた。
「そうです。私は、鉄道警察隊東京駅分駐所の高野内といいます」
 と、高野内は、相手に警察手帳を見せながら言った。
 すると、50代くらいの男性は、
「私は、ゆうちょ銀行本店の店長の中山(ナカヤマ)といいますが、ご用件は何でしょうか」
 と言った。
 高野内は、ショルダーバッグから通帳を取り出して、相手に見せながら、
「この通帳のことで調べてほしいことがあるのですが」
 と言った。
「どのようなことでしょうか?」
 と、中山店長が聞くと、
「この通帳は、私たちが捜査をしている事件の被害者のものですが、内容を確認すると、毎月15日かそれに近い日に、『ヤマシタジロウ』と名乗る人物から、5万円振り込まれています」
 と、高野内は、通帳を見せながら言った。
 そして、通帳を中山に手渡した。
 中山は、通帳の中身を確認しながら、
「確かに、刑事さんのおっしゃるとおり、15日か14日か13日に、5万円振り込まれていますね」
 と言った。
「それで、『ヤマシタジロウ』が振り込んだ郵便局がどこかを調べていただきたいのと、もうひとつ、この通帳は、昨年の10月に新しいものに切り替えられていますが、『ヤマシタジロウ』からの振込みが、何年の何月何日から始まっているか、もし、分かれば、それも、調べていただきたいのですが」
 と、高野内は言った。
「わかりました。調査結果がわかるまで、何時間か要すると思いますので、調査が済み次第、電話をさせてください」
 と、中山は言った。
 高野内は、電話番号などの連絡先を教えた。
 そして、
「では、お願いします」
 と言った後、東京中央郵便局から出て、分駐所に戻った。

 分駐所に戻ると、桑田警部や奈々美、貴代子はいたが、鶴尾と真希は、捜査のために外へ出ていたのか、そこにはいなかった。
 11時頃、鶴尾と真希が戻ってきた。
 早崎の自宅アパート周辺で聞き込みをするため、竹ノ塚まで行っていたのだという。
「警部、早崎裕允は、同じアパートの住人からは総スカンだったそうですよ」
 と、鶴尾は言った。
 それに続いて、今度は、真希が、
「アパートの住人とは、電化製品の音などをめぐって騒音トラブルは日常茶飯だったそうですし、注意されると、すぐ逆切れしていたそうです」
 と言った。
「で、早崎裕允は、どのような職に就いていたんだね」
 と、桑田が聞くと、
「それが、職業不詳というのでしょうかね、同じアパートの住人に聞いても、近所の住人に聞いても、みんな、何やっているのかわからない感じだったとしかいわなかったのですよ」
 と、鶴尾は答えた。
「職業もわからずか」
 と、桑田は残念そうな表情で言った。
 それから、まもなく、分駐所の電話が鳴った。
「はい。鉄道警察隊東京駅分駐所ですが」 
 桑田は、すぐに電話に出た。
 それから、しばらく、何か話を続けていた。
 そして、しばらく話をしたあと、
「わかりました。高野内と園町を向かわせます。どうも、ありがとうございました」
 と言って、電話を切った。
 それから、桑田は、
「高野内君、園町君、ゆうちょ銀行本店へ行ってくれ」
 と言った。
「早崎の通帳の件で何かわかったのでしょうか」
 と、高野内が、入念に聞くと、
「そうだ!」
 と、桑田は言った。
 そして、高野内と園町は、再び、東京中央郵便局へ向かった。

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