浜崎ヒカルのブログ推理小説

ブログを利用して推理小説を書いています。 鉄道ミステリーが中心になります。

2015年09月

 10月14日の朝8時前、高野内、園町、鶴尾、奈々美の4人は、東京駅分駐所に出勤した。
 桑田警部や貴代子、真希もいた。
「警部、岩崎真実の親友の黒坂由利と早崎裕允との接点があるかどうか調べてみたいと思います」
 と、高野内がはりきったように言うと、
「黒坂由利という人物が、早崎裕允殺害の件に何か関係あると、高野内君はみているのかね?」
 と、桑田は聞いた。
「今はまだはっきりとはいえないのですが、もしかしたら、関係あるかもしれないと、私は思います。ぜひ、黒坂由利に会って、話を聞いてみたいのですが。」
 と、高野内は答えた。
「そうか。わかった」
 と、桑田は言った。

 午前9時過ぎ、高野内と園町は、覆面車で品川区大井にある黒坂由利の自宅に向かった。由利の自宅は集合住宅の3階らしい。
 9時50分頃、高野内が運転する覆面車は、由利の自宅の前に到着した。5階建ての賃貸マンションだった。入口には防犯扉がついている。
 高野内と園町は、車から降りると、由利の部屋の番号を押して、チャイムを鳴らした。
 しかし、返事はなかった。
「仕事に行っているのかもしれませんね」
 と、園町が言うと、
「そうだな。勤務先のI病院に行ってみよう」
 と、高野内は言いながら、覆面車に向かった。
 園町もあとをついてきた。
 そして、高野内と園町は、覆面車で、大田区のI病院に向かった。
 10時半頃、I病院の駐車場に入った。
 病院は、9階建ての大きな建物だった。場所は、池上駅から徒歩でもそれほど時間がかからないところだった。
 高野内と園町は、建物に入ると、受付にいる女性に警察手帳を見せながら、
「鉄道警察隊ですが、お宅の病院にお勤めの方に黒坂由利さんはいらっしゃいますかね」
 と尋ねた。
「看護師の黒坂でしょうか?」
 と、受付の女性は聞き返した。
「そうです」
 と、高野内は答えた。
「少々お待ちください」
 と、受付係は言ったあと、高野内たちの前から、いったん去った。
 そして、数分後、50歳くらいに見える恰幅のよさそうな男を連れてきた。
 恰幅のいい男は、高野内たちのほうを向くと、
「警察の方でしょうか?」
 と言った。
 高野内は、警察手帳を、その男にも見せながら、
「そうですが、看護師の黒坂由利さんにお聞きしたいことがあるのですが」
 と言った。
 すると、相手は、
「私は、事務長の竹山(タケヤマ)といいますが、黒坂は出勤しております。よろしければ、お呼びいたしますが」
 と、少し緊張した表情で言った。
「お願いします」
 と、高野内が答えると、竹山は、
「黒坂君が、何か警察のご厄介になるようなことをしたのですか?」
 と、入念そうに聞いた。
「いいえ。そういうわけではないのですが、ある事件の捜査で、黒坂さんもお聞きしたいことがあるのです」
 と、高野内は、落ち着いた口調で答えた。
「わかりました。黒坂君を呼んできます」
 と、竹山は言った。
 それから数分後、竹山は、女性の看護師を1人連れてきた。
 その看護師は、30代くらいに見える細身の美人で、髪はセミロングだった。
「警察の方でしょうか?」
 と、女性看護師は聞いてきた。
「そうです」
 と、高野内は答えたあと、相手の顔をじっと見ながら、
「黒坂由利さんですね?」
 と言った。
「そうですが、警察の方がわたしに何の御用ですか?」
 と、由利は聞き返した。
「我々は、今月の8日に、新幹線『のぞみ218号』の車内で発生した殺人事件の捜査をしています」
 と、高野内は言ったあと、
「その殺人事件の害者は、早崎裕允というのですが、我々が調べたら、2年近く前から、岩崎正信さんから、毎月現金5万円が振り込まれていることもわかりました」
 と、相手に説明するような言い方で言った。
「それがわたしとどのように関係あるのですか?」
 と、由利は、不快そうな表情で言った。
「岩崎正信さんは、あなたの親友だった岩崎真実さんの父親ですよ」
 と、今度は、園町が言った。
 すると、由利は、
「そうですけど、真実のお父さんが、ハヤサキという男に毎月5万円振り込んでいたことと、そのハヤサキという男が、新幹線の中で殺されたことと、わたしがどういう関係があるのですか?」
 と、少し怒ったような声で言った。
「それについて、調べたいと思い、あなたにもお聞きすることにしたのです」
 と、高野内が言うと、由利は、
「それなら、わたしは無関係ですわ。第一、ハヤサキという男、知りませんし」
 と言った。
「そうですか。わかりました。では、失礼します」
 と、高野内は言ったあと、由利の前から去った。
 そして、高野内と園町は、覆面車に乗り、分駐所へ戻った。

 高野内たちが分駐所へ戻った頃には、正午近くになっていた。
 分駐所には、桑田警部や、貴代子、真希、鶴尾、奈々美がいた。
 高野内は、I病院で黒坂由利から話を聞いた内容を、桑田に報告した。
「黒坂由利という女性について、高野内君はどう思うかね」
 と、桑田が聞くと、高野内は、
「まだ、はっきりとしたことはいえませんが、それでも、何か事件について知っているか、もしかしたら関係しているような気がするのです」
 と答えた。
「でも、まだ彼女が、事件に関わっていたとかいう証拠はないんだな?」
 と、桑田が念を押すように言うと、
「はい。そうです」
 と、高野内は言った。
 そのあと、高野内たちは、分駐所内で、昼食をとった。
 昼食を終えると、午後1時近くになった。
 それから少し経って、高野内は、
「警部、今度は、岩崎真実について、さらに、いろいろ調べてみたいと思うのですが」
 と、桑田のほうへ顔を向けて言った。
「よし、わかった」
 と、桑田は言った。
「これから、園町と一緒に、岩崎真実が勤めていた会社とかに行って、彼女について、いろいろ情報を集めてきます」
 と、高野内は言いながら、園町と一緒に、分駐所から出た。
 そして、覆面車に乗って、新宿区へ向かった。
 岩崎真実が勤めていた会社は新宿区にある。
 高野内が運転する覆面車は、岩崎真実の勤務先だった情報処理関連の会社を目指して走った。

 高野内と園町の2人が、竹ノ塚の早崎の自宅アパートに行ったものの、新たな手がかりが何も得られないまま分駐所に戻ったとき、正午を少し過ぎた。
 分駐所には、桑田警部、貴代子、真希、鶴尾、奈々美もいた。高野内たちは、分駐所内で昼食の弁当を食べた。
 昼食後、高野内は、
「警部、早崎裕允と岩崎真実との接点があったと確認できるようなものは見つかりませんでした」
 と、残念そうに言った。
「そうか。仕方ない」
 と、桑田は言った。
 すると、今度は、園町が、
「早崎は、岩崎正信の弱みを何か知っていて、毎月5万円ずつゆすっていたのでしょう」
 と言った。
「俺も、そうにらんでいるよ」
 と、高野内は言った。
「早崎が、岩崎正信をゆする動機となった弱みは、娘の岩崎真実が亡くなった件と関係ありそうな気がすると、俺は思うのですが」
 と、園町は、自信ありそうに言った。
 すると、高野内も、表情を変えながら、
「俺も、園町が言ったことに同感です。また、松本に行って、岩崎正信だけではなく、岩崎真実についても調べてみたいと思います」
 と言った。
「そうか。わかった」
 と、桑田は返事をしたあと、
「じゃあ、高野内君、園町君、鶴尾君、桜田君の4人に、明日、再度、松本まで行ってもらおうか!」
 と言った。

 10月13日の朝、高野内、園町、鶴尾、奈々美の4人は、東京駅分駐所に出勤後、中央線快速で新宿駅まで移動した。
 そして、新宿からは、特急『スーパーあずさ5号』に乗った。その列車は、午前8時ちょうどに、新宿駅を発車した。
 その日は、日曜日のせいか、車内は、観光客と思われる人たちが多数乗っていた。
 『スーパーあずさ5号』は、途中、立川、八王子、甲府、小淵沢、茅野、上諏訪、岡谷、塩尻に停車した。
 そして、終点の松本駅には、10時38分に到着した。
 松本駅で下車すると、改札の外に出て、駅前からタクシーに乗った。
 高野内たちが乗ったタクシーは、松本中央署へ向かった。
 高野内たちが松本中央署に着いた頃、時計の針は、11時を少し過ぎていた。
 警察署の建物に入ると、制服警官に警察手帳を見せて、要件を告げた。それから、刑事課のところへ行った。
 刑事課のところへ行くと、林警部と森下刑事に再会した。
「高野内さん、また、岩崎正信について調べたいのかな?」
 と、林は、確認するように言った。
「そうです。それと、岩崎の娘の岩崎真実についても知りたいのです」
 と、高野内は言った。
 すると、林は、
「岩崎真実については、昨日、ファックスを送ったと思うが、必要なら、さらに詳しく調べてみるよ」
 と言った。
「お願いします」
 と、高野内は、軽く頭を下げた。
 そして、高野内たち4人は、署内でしばらく待つことになった。
 午後1時頃、林と森下の2人が高野内たちが待っていたところへ来て、
「岩崎真実について、何人かの人に聞いてみたのですが、彼女のことを特別悪くいう人や、恨んでいそうな人はいませんね。ただ、彼女自体、内向的な正確だったためか、友達づきあいは、あまりなかったそうです」
 と、森下が説明するように言った。
「岩崎真実は、他人の恨みを買う人物ではないが、友達も多くなかったのですね」
 と、高野内は、念入りな聞き方で言った。
「そうですね」
 と、森下は答えたあと、
「岩崎正信のことを悪くいう人もみつかりませんでした。そういう人物が、どうしてゆすられているのか、我々には見当がつきませんね」
 と言った。
 すると、今後は、奈々美が、
「岩崎真実さんは、友達は多くないのかもしれないですけど、それでも、仲の良い親友や、仲の良かった友達だった人の1人や2人はいたということは考えられませんか?」
 と言った。
「そうかもしれないが、それが岩崎正信がゆすられていた件や、岩崎真実が亡くなった件と、何か関係あるのかな?」
 と、林が聞き返した。
「今は、まだ何ともいえないのですけど、岩崎真実が亡くなった件と、父親の正信がゆすられていた件について、真実の友人が何か知っているという可能性はありませんか?」
 と、奈々美は言った。
 すると、林は、
「岩崎真実にも、何人かの友人はいたのかもしれないが、彼女が亡くなった件と、彼女の父親がゆすられた件と、父親をゆすっていた男が殺された件と、どういう関係があるのか、我々には見当がつかないね」
 と、難しい顔で言った。
 今度は、高野内が、
「岩崎真実の高校までの交友関係について知りたいのですが、調べていただけないでしょうか?」
 と言った。
 それを聞いた林は、
「わかった。必要なら調べてみるよ」
 と答えた。
 そのあと、高野内たちは、松本中央署から出て、遅めの昼食をとった。
 昼食後、署に戻ると、午後2時半を過ぎていた。

「高野内さんも、岩崎真実の友人が何か知っているとお考えなのですか?」
 と、奈々美が聞くと、高野内は、
「ああ」
 と、返事をしたあと、
「岩崎真実の親友の誰かが、岩崎真実の父親の正信が早崎裕允にゆすられていたことや岩崎真実が亡くなった件について何か勘ぐっていたとしたらどうだ?」
 と言った。
 すると、園町が、
「真実の親友の誰かが、父親の正信のために、早崎裕允殺害について加担していたということですか?」
 と、入念そうに言った。
「まだ、はっきりとはいえないが、その可能性もないとはいえない」
 と、高野内は答えた。
「じゃあ、岩崎真実の友人関係は、事件解決への糸口となりそうですね」
 と、鶴尾は言った。

 午後4時頃、林と森下の2人が、署に戻ってきた。
「岩崎真実の高校時代からの親友で卒業後も交友関係のあった親友が1人いることがわかりましたよ」
 と、森下は言った。
「その友人に会われたのですか?」
 と、高野内が聞くと、
「いいえ。父親の正信や、近所の人たちや、担任だった先生などから聞いてきたのですよ」
 と、森下は答えた。
 そして、ホワイトボードに、『黒坂由利』と書きながら、
「岩崎真実の親友の名前は、クロサカ・ユリという女性です」
 と言った。
「どのような人物で、どこに住んでいるのですか?」
 と、鶴尾が聞くと、
「岩崎真実とは高校からの親友で、卒業後は、東京都内の看護学校に進学し、現在は、東京都大田区にあるI病院に看護師として勤務していることがわかりました。現住所は、東京都品川区大井です」
 と、森下は、説明するように言った。
 そのあと、林が、
「岩崎真実と特別親しかった友人で高校卒業後も交友関係があったと考えられる人物は、黒坂由利以外出てこなかったが、彼女が、早崎裕允という人物が殺害された件や、岩崎真実が亡くなった件と何か関係があるのかな?」
 と聞いてきた。
「今の段階では、まだ何ともいえませんが、可能性がある限り、調べてみたいと思います」
 と、高野内は言った。
 そして、林と森下に礼を言って、松本中央署をあとにした。
 それから、タクシーで松本駅へ向かった。
 松本駅からは、17時18分発の特急『あずさ30号』に乗った。
 その列車は、他の上り『あずさ』号とは異なり、終点は新宿ではなく、新宿経由で千葉まで運転される。
 新宿停車後、終点の千葉までは、錦糸町と船橋に停車する。
 高野内たちは、『あずさ30号』には、錦糸町まで乗り、錦糸町から総武線快速に乗り、東京駅分駐所へ戻った。
 分駐所に戻った頃には、午後9時が近づいていた。
 高野内たちは、岩崎真実の親友だった黒坂由利が事件解決への糸口となる可能性があるとみている。
 しかし、彼女がどのように関係しているのか、まだわからなかった。

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