浜崎ヒカルのブログ推理小説

ブログを利用して推理小説を書いています。 鉄道ミステリーが中心になります。

2016年09月

「これから、広塚貴明殺害の件と西井紳二殺害の件について、岩崎正信が主張するアリバイを説明します」
 と、真由子は、真剣そうな表情で言った。
 そして、あまり表情を変えずに、
「まず、岩崎の主張によると、彼は、一昨年10月28日の23時20分に、東京駅八重洲口の東京ターミナルホテルにチェックインしているわ」
 と言った。
「それを証明した人はいるのですか?」
 と、高野内が聞くと、
「当時の捜査員がホテルのフロント係に聞いた話によると、フロント係のうち3人が岩崎がチェックインしたこと憶えていたそうよ。チェックインの記録も残っているわ」
 と、真由子は答えた。
「じゃあ、事件があった29日のアリバイはどういう内容でしょうか?」
 と、高野内が言うと、
「説明を続けるわ」
 と、真由子は言ったあと、
「岩崎は、29日朝の7時30分に、羽田空港を出発した新千歳行きのJAL503便に乗って、北海道へ行ったと主張していたのよ」
 と、高野内の顔をじっと見ながら言った。
 そして、
「そのJAL503便は新千歳空港に着くのが9時5分で、そのあとの岩崎の主張は、札幌市内などを観光して、それから、札幌駅を13時ちょうどに発車した特急『スーパーカムイ19号』で旭川へ行き、旭川からは、駅前を14時35分に出発した層雲峡行きのバスに乗って、層雲峡へ行ったというそうよ」
 と、真由子は説明した。
 それから、真由子は、ホワイトボード用のマーカーでホワイトボードに、
『羽田空港・7時30分→JAL503便→新千歳空港・9時05分
(札幌市内などを観光)
 札幌駅・13時00分→特急スーパーカムイ19号→旭川駅・14時20分

 旭川駅前・14時35分→路線バス→層雲峡・16時20分
(層雲峡周辺を観光)
 層雲峡リゾートホテルチェックイン・18時20分』
 という内容を書いた。
 そのあと、真由子は、
「岩崎が、層雲峡のホテルに、午後6時20分にチェックインしたことは、ホテルの従業員が証言していたそうだし、チェックインの記録も残っているわ」
 と言った。
「岩崎は、本当に羽田を7時半に出発したJAL503便に乗っていたのでしょうかね?」
 と、今度は、園町が言った。
「ええ。搭乗者名には岩崎正信の名前はあったし、実際に搭乗手続きもされていたそうよ」
 と、真由子は残念そうな言い方で答えた。
「じゃあ、岡山駅の事件も、新千歳空港の事件も、アリバイが成立しているのですね」
 と、高野内が言うと、
「そうなのよ」
 と、真由子は言った。
 すると、今度は、貴代子が、、
「広塚という人物は、岡山駅のトイレで殺害されたそうですけど、死亡推定時刻は何時頃でしょうか?」
 と聞いた。
「岡山県警の捜査資料によると、午前7時から8時の間よ」
 と、真由子は答えた。
「じゃあ、確実にアリバイ成立ですな」
 と、桑田警部が残念そうに言った。
「羽田を朝の7時30分に出発する飛行機に乗っていたのなら、7時から8時の間に、岡山駅で殺人を犯すのは、どう考えても不可能ですね」
 と、高野内は、苦悩したような顔で言った。
 すると、今度は、鶴尾が、
「犯人は、岩崎とは関係のない別の人物で、岩崎はシロじゃないでしょうかね」
 と言った。
 それを聞いた高野内は、
「いや。俺は、岩崎が関わっている気がするんだ。そして、新千歳空港の件も、岡山駅の件も、早崎裕允が『のぞみ218号』の車内で殺害された件も、何らかのつながりがあると思うんだ!」
 と、強い口調で言った。
「確証はあるのかね?」
 と、桑田警部が聞くと、
「いえ。まだ今ははっきりとしたことはいえませんが、早崎が『のぞみ218号』で殺害された件も、新千歳空港で西井が殺害された件も、岡山駅で広塚が殺害された件も、すべて何らかのつながりがあると思えてならないのです」
 と、高野内は答えた。
「そうか。高野内君は、そのように思っているのだな」
 と、桑田が言うと、高野内は、
「はい」
 と返事をしたあと、
「いずれの事件にも岩崎正信が関わっているとすれば、すべて岩崎が作った偽りのアリバイということになります。そして、作られた偽りのアリバイなら、必ず崩せると確信しています」
 と、自信ありそうに言った。
 すると、今度は、真由子が、
「高野内さん、岩崎正信のアリバイについて、再度検証してみる必要がありそうね」
 と言った。
「そうですね」
 と、高野内は言った。
 そして、岩崎が主張したアリバイについて、検証する作業にかかることにした。

 10月15日、午前10時半頃、鉄道警察隊東京駅分駐所では、2011年10月29日に、新千歳空港で発生した殺人事件に関する話し合いが行なわれていた。
 その事件で殺害された西井紳二という男は、結婚詐欺などを行なっていたことがわかっている。
 北海道警が捜査した結果、長野県松本市に住む岩崎正信が容疑者として浮上しているが、岩崎はアリバイがあることを主張しているそうである。
 また、岩崎正信は、高野内たちが捜査中の東海道新幹線『のぞみ218号』の車内で早崎裕允という男が殺害された事件の容疑者でもあるが、岩崎は、それについても、アリバイを主張している。
「西井紳二が新千歳空港で殺害された件について、なぜ、岡山県警が捜査に関係しているのでしょうか?」
 と、高野内が不思議そうな顔で言うと、
「西井紳二は、岩崎真実を含めた10人の女性に対して、偽りの婚約をして、金をだまし取っていたのだけど、そのとき、西井は、女性を信用させるために、西井の身内を装った共犯者を使っていたのよ」
 と、真由子は言った。
「つまり、西井は、だます女性に対して、共犯者を身内として紹介し、相手を信用させたのですね」
 と、確認するように言った。
「そうよ」
 と、真由子は答えた。
「その共犯者についても、詳しく知りたいですね」
 と、今度は、園町が言った。
「その共犯者について、これから説明するわ」
 と、真由子は言いながら、ホワイトボードに、『広塚貴明(ひろつか・たかあき)』と書いた。
 そして、
「共犯者は、広塚貴明(ヒロツカ・タカアキ)という、岡山県出身の男で、過去に何度か詐欺罪で逮捕された前歴があるわ」
 と言った。
「その広塚という男は、今はどうしているのですか?」
 と、園町が聞くと、
「殺害されたわよ」
 と、真由子は答えた。
「殺害されたのですか?」
 と、園町が確認するように聞き返すと、
「ええ。岡山駅のトイレでね」
 と、真由子は答えた。
 それを聞いた高野内は、
「それで、岡山県警も捜査に関わっているのですね」
 と、納得したように言った。
「そうよ」
 と、真由子は言ったあと、
「広塚貴明が殺害された日も、2011年10月29日。つまり、西井が新千歳空港で殺害された日と同じ日よ」
 と言った。
「広塚が殺害された件も、岡山県警が、岩崎正信をホシだと睨んでいるのですか?」
 と、高野内が聞くと、
「そのとおりよ」
 と、真由子は言った。
「その件でも岩崎正信を逮捕できないのは、アリバイがあるからですか?」
 と、高野内が確認するように聞くと、
「そうなのよ」
 と、真由子は残念そうに言った。

 岩崎正信は、2年前にも、2件の殺人事件で、北海道警と岡山県警から容疑がかけられていることがわかった。
 だが、岩崎が逮捕されないのは、アリバイが成立しているからだという。
 高野内は、真由子の顔をじっと見ながら、
「佐田警視、どうして、岡山県警も、広塚殺害の件で、岩崎正信をホシとみていたのでしょうか?」
 と言うと、
「広塚貴明が殺害された現場は、岡山駅の男性用トイレだけど、現場に、岩崎正信の指紋がついたボールペンが落ちていたそうよ。でも…」
 と、真由子は言ったが、声が少し弱くなった。
「なんでしょうか」
 と、高野内が言うと、
「岡山県警は、それについて、岩崎に質問したのよ。でも、岩崎は、ボールペンはどこかでなくしたものだと主張していたそうだし、殺害の犯行時、アリバイがあることも言っていたそうよ」
 と、真由子は説明した。
「広塚殺害の件についても、殺害の犯行時刻と、岩崎が主張するアリバイについても、調べてみる必要がありそうですね」
 と、高野内は言った。
 新千歳空港で西井紳二が殺害された日、岡山駅では広塚貴明が殺害されたことが、高野内たちにはわかった。
 どちらの事件も、岩崎正信が容疑者とされているが、アリバイ成立のため、逮捕には至っていないという。
 2件の殺人事件のアリバイは、一体どのようなものだろうか。

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