10月19日土曜日の朝7時頃、高野内は、東京駅分駐所に出勤した。
まもなく、園町、鶴尾、奈々美も出勤してきた。
7時半頃、事件の捜査に関する話し合いを始めた。
岡山駅と新千歳空港で発生した殺人事件、新幹線『のぞみ218号』の車内で発生した殺人事件のいずれも、ホシのアリバイが成立したまま、崩せていない。
「本当に、岩崎正信が犯人なのでしょうかね」
と、鶴尾が少し自信を失ったような言い方をすると、
「今さら何を言っているんだ。俺は、ホシは岩崎正信に間違いないと確信しているよ」
と、高野内は、はっきりとした口調で言った。
「でも、岡山駅の事件も、新千歳空港の事件も、『のぞみ218号』での事件も、すべてアリバイが成立しているのでしょう」
と、今度は、奈々美が言った。
「そうだけど、そのアリバイを崩すのも、俺たちの仕事の一つだぞ」
と、高野内は言った。
それから、10分ほど経ったとき、高野内は、
「そういえば、今月の8日に、『のぞみ218号』の車内で、早崎裕允が殺害された件の殺害方法は、青酸化合物を皮下注射だったな」
と、確認するような言い方をした。
「そうでしたね」
と、今度は、園町が言った。
「ということは、早崎を殺害した実行犯は、注射器を持っていて、注射が手慣れている人物の可能性が高いぞ」
と、高野内は、自信ありそうな言い方で言った。
「じゃあ、実行犯は、岩崎正信ではなく、共犯者で、注射器を自由に扱える人物ですか?」
と、園町が言うと、
「俺は、そう思うのだが、どうだ?」
と、高野内は言った。
「もしかして、実行犯は、看護師とか、医療関係の人ですか?」
と、園町が言うと、
「そのとおりだよ」
と、高野内は、はっきりとした口調で答えた。
「岩崎正信と共犯になりそうな人で看護師といえば…」
と、園町が言うと、
「岩崎真実と親友だった黒坂由利について、再度調べる必要があると思わないか」
と、高野内は言った。
「そうですね」
と、園町は言った。
そして、高野内と園町は、覆面車に乗り、由利が勤務するI病院へ向かった。
午前10時頃、I病院に到着した。
I病院の駐車場に車を止めると、高野内と園町は、受付へ行き、係員の女性に警察手帳を提示して、用件を言った。
「警察の方ですね。少々お待ちください」
と、受付係の女性は言った。
そして、5、6分ほど経ってから、1人の女性が姿を見せた。
セミロングヘアーの女性で、看護師の白衣を着ている。
間違いなく、黒坂由利だった。
「またお聞きしたいことがありまして」
と、高野内が軽く頭を下げながら言うと、
「またですか」
と、由利は、不快そうな顔で言った。
すると、高野内は、
「今月の8日に、東海道新幹線『のぞみ218号』の車内で、早崎裕允という男が殺害された件で、再度、聞きたいことがあります」
と、由利の顔をじっと見ながら言った。
「前にも言ったでしょう。その件なら、わたしは無関係ですし、何も知りません!」
と、由利は、怒ったような声を出した。
「そうですか。警察が調べた結果、早崎は、腕に青酸化合物を皮下注射されて、殺害されたことがわかっています。つまり、犯人は注射器を自由に扱える人物だと、我々警察は睨んでいます」
と、高野内が、少し強い口調で言うと、
「だからといって、それだけで、わたしが犯人だというのですか?」
と、由利は、ますます怒ったような声を出した。
すると、高野内は、
「まだ、あなたを犯人だと断定したわけではありません。参考までに聞いてまわっているのです」
と、相手を制するように言った。
「じゃあ、わたしに何を聞きたいのですか?」
と、由利が言うと、
「10月8日の午前10時前後、どこで何をしていましたか?」
と、高野内は言った。
「アリバイ確認ですか?」
と、由利が言うと、
「そうです」
と、高野内は言った。
「それなら、答えますわ」
と、由利は、強気の表情で言った。
「じゃあ、答えてもらえますか」
と、高野内が言うと、由利は、
「京都市内を観光していましたわ」
と、強い口調で答えた。
「それを証明する人はいますか?」
と、高野内が聞くと、
「いいえ。ずっとわたし一人でしたので」
と、由利は答えた。
「じゃあ、アリバイはないのですね」
と、高野内が微笑しながら言うと、
「そうですけど、別にアリバイを作るために京都へ行ったわけではありませんし」
と、由利は、怒ったような声を出した。
すると、高野内は、
「そうですね」
と言ったあと、
「では、京都市内には、何時頃から何時頃までいましたか?」
と聞いた。
「その日は、朝まで、新大阪駅の近くのホテルにいましたわ。チェックアウトしたのは9時より少し前で、そのあとは、新大阪駅から新快速で京都へ行きましたわ。わたしが京都にいたのは、新快速を降りたときから、12時頃までです」
と、由利は答えた。
「12時頃、京都市内を離れて、どうされましたか?」
と、高野内が言うと、
「そこまで聞くのですか」
と、由利は、不快そうな顔で言った。
「我々は、捜査のためには必要と考えています」
と、高野内が言うと、
「12時頃に京都駅に戻って、12時06分発の『のぞみ224号』で、東京へ帰りました」
と、由利は言った。
「しかし、それを証明する人はいないのですね」
と、高野内が入念そうに言うと、
「そうですけど、さっきも言ったように、アリバイを作るために京都へ行ったのではないですから」
と、由利は、ますます不快そうな表情で言った。
「わかりました」
と、高野内が言うと、
「だったら、もうこれ以上、わたしに聞くのはやめてほしいですわ。わたしは関係ないのですから」
と、由利は怒ったような声で言った。
「そうですか。では、失礼します」
と、高野内は言い、それから、高野内と園町は、由利の前から去った。
そして、病院の事務室に行き、黒坂由利の顔写真を1枚借りて、それから、駐車場に止めた覆面車に戻り、分駐所へ戻ることにした。
覆面車のハンドルを握りながら、高野内は、
「黒坂由利という看護師、何か気にならないか?」
と言うと、園町は、
「何か隠していそうな雰囲気でしたね」
と答えた。
すると、高野内は、
「園町もそう思うか」
と言った。
高野内は、黒坂由利は本当に京都へ行ったのかどうかと、もしそうなら、単純に観光のためなのか、それとも別の理由で行ったのかが気になって仕方がなかった。
正午を少し過ぎた頃、高野内と園町は、東京駅分駐所に戻った。
鶴尾、奈々美のほか、桑田警部もいた。
高野内は、桑田警部に、黒坂由利に質問して聞いた内容を説明した。
それから、病院で借りてきた黒坂由利の写真も出した。
すると、桑田は、
「俺も、黒坂由利の10月8日の行動が気になるな。大阪府警と京都府警に協力をお願いして、本当に、新大阪のホテルをチェックアウトして、京都に行っていたかを調べてもらう必要がありそうだ。黒坂由利の顔写真の画像を、大阪府警と京都府警に送ろう」
と言った。
黒坂由利の10月8日の行動について知りたいのは、高野内や園町も同じである。
まもなく、園町、鶴尾、奈々美も出勤してきた。
7時半頃、事件の捜査に関する話し合いを始めた。
岡山駅と新千歳空港で発生した殺人事件、新幹線『のぞみ218号』の車内で発生した殺人事件のいずれも、ホシのアリバイが成立したまま、崩せていない。
「本当に、岩崎正信が犯人なのでしょうかね」
と、鶴尾が少し自信を失ったような言い方をすると、
「今さら何を言っているんだ。俺は、ホシは岩崎正信に間違いないと確信しているよ」
と、高野内は、はっきりとした口調で言った。
「でも、岡山駅の事件も、新千歳空港の事件も、『のぞみ218号』での事件も、すべてアリバイが成立しているのでしょう」
と、今度は、奈々美が言った。
「そうだけど、そのアリバイを崩すのも、俺たちの仕事の一つだぞ」
と、高野内は言った。
それから、10分ほど経ったとき、高野内は、
「そういえば、今月の8日に、『のぞみ218号』の車内で、早崎裕允が殺害された件の殺害方法は、青酸化合物を皮下注射だったな」
と、確認するような言い方をした。
「そうでしたね」
と、今度は、園町が言った。
「ということは、早崎を殺害した実行犯は、注射器を持っていて、注射が手慣れている人物の可能性が高いぞ」
と、高野内は、自信ありそうな言い方で言った。
「じゃあ、実行犯は、岩崎正信ではなく、共犯者で、注射器を自由に扱える人物ですか?」
と、園町が言うと、
「俺は、そう思うのだが、どうだ?」
と、高野内は言った。
「もしかして、実行犯は、看護師とか、医療関係の人ですか?」
と、園町が言うと、
「そのとおりだよ」
と、高野内は、はっきりとした口調で答えた。
「岩崎正信と共犯になりそうな人で看護師といえば…」
と、園町が言うと、
「岩崎真実と親友だった黒坂由利について、再度調べる必要があると思わないか」
と、高野内は言った。
「そうですね」
と、園町は言った。
そして、高野内と園町は、覆面車に乗り、由利が勤務するI病院へ向かった。
午前10時頃、I病院に到着した。
I病院の駐車場に車を止めると、高野内と園町は、受付へ行き、係員の女性に警察手帳を提示して、用件を言った。
「警察の方ですね。少々お待ちください」
と、受付係の女性は言った。
そして、5、6分ほど経ってから、1人の女性が姿を見せた。
セミロングヘアーの女性で、看護師の白衣を着ている。
間違いなく、黒坂由利だった。
「またお聞きしたいことがありまして」
と、高野内が軽く頭を下げながら言うと、
「またですか」
と、由利は、不快そうな顔で言った。
すると、高野内は、
「今月の8日に、東海道新幹線『のぞみ218号』の車内で、早崎裕允という男が殺害された件で、再度、聞きたいことがあります」
と、由利の顔をじっと見ながら言った。
「前にも言ったでしょう。その件なら、わたしは無関係ですし、何も知りません!」
と、由利は、怒ったような声を出した。
「そうですか。警察が調べた結果、早崎は、腕に青酸化合物を皮下注射されて、殺害されたことがわかっています。つまり、犯人は注射器を自由に扱える人物だと、我々警察は睨んでいます」
と、高野内が、少し強い口調で言うと、
「だからといって、それだけで、わたしが犯人だというのですか?」
と、由利は、ますます怒ったような声を出した。
すると、高野内は、
「まだ、あなたを犯人だと断定したわけではありません。参考までに聞いてまわっているのです」
と、相手を制するように言った。
「じゃあ、わたしに何を聞きたいのですか?」
と、由利が言うと、
「10月8日の午前10時前後、どこで何をしていましたか?」
と、高野内は言った。
「アリバイ確認ですか?」
と、由利が言うと、
「そうです」
と、高野内は言った。
「それなら、答えますわ」
と、由利は、強気の表情で言った。
「じゃあ、答えてもらえますか」
と、高野内が言うと、由利は、
「京都市内を観光していましたわ」
と、強い口調で答えた。
「それを証明する人はいますか?」
と、高野内が聞くと、
「いいえ。ずっとわたし一人でしたので」
と、由利は答えた。
「じゃあ、アリバイはないのですね」
と、高野内が微笑しながら言うと、
「そうですけど、別にアリバイを作るために京都へ行ったわけではありませんし」
と、由利は、怒ったような声を出した。
すると、高野内は、
「そうですね」
と言ったあと、
「では、京都市内には、何時頃から何時頃までいましたか?」
と聞いた。
「その日は、朝まで、新大阪駅の近くのホテルにいましたわ。チェックアウトしたのは9時より少し前で、そのあとは、新大阪駅から新快速で京都へ行きましたわ。わたしが京都にいたのは、新快速を降りたときから、12時頃までです」
と、由利は答えた。
「12時頃、京都市内を離れて、どうされましたか?」
と、高野内が言うと、
「そこまで聞くのですか」
と、由利は、不快そうな顔で言った。
「我々は、捜査のためには必要と考えています」
と、高野内が言うと、
「12時頃に京都駅に戻って、12時06分発の『のぞみ224号』で、東京へ帰りました」
と、由利は言った。
「しかし、それを証明する人はいないのですね」
と、高野内が入念そうに言うと、
「そうですけど、さっきも言ったように、アリバイを作るために京都へ行ったのではないですから」
と、由利は、ますます不快そうな表情で言った。
「わかりました」
と、高野内が言うと、
「だったら、もうこれ以上、わたしに聞くのはやめてほしいですわ。わたしは関係ないのですから」
と、由利は怒ったような声で言った。
「そうですか。では、失礼します」
と、高野内は言い、それから、高野内と園町は、由利の前から去った。
そして、病院の事務室に行き、黒坂由利の顔写真を1枚借りて、それから、駐車場に止めた覆面車に戻り、分駐所へ戻ることにした。
覆面車のハンドルを握りながら、高野内は、
「黒坂由利という看護師、何か気にならないか?」
と言うと、園町は、
「何か隠していそうな雰囲気でしたね」
と答えた。
すると、高野内は、
「園町もそう思うか」
と言った。
高野内は、黒坂由利は本当に京都へ行ったのかどうかと、もしそうなら、単純に観光のためなのか、それとも別の理由で行ったのかが気になって仕方がなかった。
正午を少し過ぎた頃、高野内と園町は、東京駅分駐所に戻った。
鶴尾、奈々美のほか、桑田警部もいた。
高野内は、桑田警部に、黒坂由利に質問して聞いた内容を説明した。
それから、病院で借りてきた黒坂由利の写真も出した。
すると、桑田は、
「俺も、黒坂由利の10月8日の行動が気になるな。大阪府警と京都府警に協力をお願いして、本当に、新大阪のホテルをチェックアウトして、京都に行っていたかを調べてもらう必要がありそうだ。黒坂由利の顔写真の画像を、大阪府警と京都府警に送ろう」
と言った。
黒坂由利の10月8日の行動について知りたいのは、高野内や園町も同じである。