浜崎ヒカルのブログ推理小説

ブログを利用して推理小説を書いています。 鉄道ミステリーが中心になります。

2020年06月

 10月20日の正午頃、高野内と園町は、東京駅分駐所に戻った。
 桑田警部が、
「高野内君、園町君、何か進展はあったかね」
 と、期待したような顔をすると、
「昼食後、八王子にある室野祐治のアパートに行ってみたいと思います」
 と、高野内は言った。
「室野祐治って、美ヶ原で殺された人物だろ。何か関係あるのかね?」
 と、桑田は、怪訝そうな顔をした。
「黒坂由利は、室野祐治からストーカー行為をされていたことがわかりました」
 と、高野内は、強い口調で答えた。
「じゃあ、室野祐治が殺された件に、安心感を覚えているかもしれないな」
 と、桑田が言うと、
「間違いなく、黒坂由利は、室野が亡くなって、ほっとしているでしょう」
 と、高野内は、はっきりとした口調で言った。
「で、高野内君は、八王子の室野のアパートに、何か手掛かりがあると、考えているのかね?」
 と、桑田は、入念そうに言った。
「そうです」
 と、高野内は答えた。
「しかし、現時点では、室野が黒坂由利にストーカーをしていた件と、8日に、『のぞみ218号』で、早崎裕允が殺害された件との関連性が見出せないのだが」
 と、桑田が納得いかなさそうな顔をすると、
「ですから、室野について、いろいろ調べてみたいと思います」
 と、高野内は、真剣そうな表情で言った。
「そうか。じゃあ、行って、調べてきたまえ」
 と、桑田は言ったあと、
「俺は、室野祐治が殺害された日時について、あとで長野県警に問い合わせて、確認してみるよ」
 と言った。
 そして、高野内と園町は、分駐所で昼食を済ませたあと、覆面車に乗った。
 運転するのは、高野内である。
 高野内運転の覆面車は、首都高速道路を通り、途中で、中央自動車道に入った。
 そして、八王子市に入ると、八王子第1出口で、高速道路から出た。
 それから、一般道を走り、八王子市内のある住宅街に入った。
 しばらくすると、2階建ての古い感じのアパートが見えた。
 高野内は、覆面車をアパートの前に止めて、高野内と園町は、車から降りた。
 そして、アパートのある部屋に向かった。
 その部屋のドアには、『室野』という表札があった。
 ドアは施錠されていたので、園町が、携帯電話で、管理する不動産会社に電話し、管理人に来て開けてもらうことにした。
 午後2時過ぎ、60歳くらいの男性が来た。管理人のようである。
 高野内が、警察手帳を見せると、管理人は、マスターキーでドアの鍵を開錠した。
 そのとき、管理人は、
「この部屋は、こないだも、警察の方が捜査のために来られましたね」
 と言った。
「どんな方でしたか?」
 と、高野内が聞くと、
「女性の警視と男性の警部で、2人とも、あなた方よりも若かったですよ」
 と、管理人は、はっきりとした言い方で答えた。
「そうでしたか」
 と、高野内は、微笑しながら言った。
「もしかすると…」
 と、園町は、高野内のほうを向いて言うと、
「間違いなく、あの2人だな」
 と、高野内は言った。
 高野内は、手袋をはめた手で、開錠されたドアを開けた。
 そして、玄関から中に入った。
 すると、高野内たちには、驚くような光景が目に入った。
 部屋の壁面中、黒坂由利が写っている写真が貼られているのである。
 ほとんどの写真が大きく引き伸ばされていて、業務中に撮影されたと思われるナース服姿の写真や、それ以外のときに撮影されたであろう私服姿まで、様々な写真で壁面が埋め尽くされていた。
 また、写真をよく見ると、どの写真にも、隅のほうに日付が入っていた。
「かなり常習性の高いストーカー犯だったようだな」
 高野内は、呆れた顔で言った。
 壁面に貼られた黒坂由利の写真を見ると、大半の写真はセミロングヘアだが、一部、ボーイッシュなショートヘアーの写真もあった。
「こうしてみると、ヘアスタイルが様々ですね」
 園町は、興味深そうに言った。
「3年間のうちに、何かあって、イメージチェンジしたんだろうな」
 高野内は、写真を眺めながら答えた。
 そのあと、壁面に貼られた写真の何枚かを、スマートフォンのカメラで撮影した。
「そこまで執拗に激しいことをされたら、黒坂由利も、室野祐治に対して、殺意を抱いても、不思議ではありませんね」
 園町は、真剣そうな表情で言った。
「園町も、そう思うか」
 高野内は、微笑しながら言ったあと、
「長野県の美ケ原で室野祐治が殺害された件と、新幹線『のぞみ218号』の車内で早崎裕允が殺害された件との関連が徐々にだが、見えてきた気がする」
 と、はっきりとした口調で言った。
 そして、高野内と園町は、管理人に礼を言って、覆面車で東京駅分駐所に戻った。

 10月20日は日曜日だった。
 高野内は、朝7時頃、東京駅分駐序に出勤した。
 既に、桑田警部が出勤していた。
 まもなく、園町、鶴尾、奈々美も出勤してきた。
「警部、今日も、園町と一緒に、黒坂由利が勤めるI病院に行ってみようと思います」
 と、高野内が言うと、
「今日は日曜日だぞ」
 と、桑田は言った。
 すると、
「そうですけど、出勤している職員はいますから、何か聞けると思います」
 と、高野内は言った。
「そうだな。じゃあ、聞き込みに行って、調べてみてくれ」
 と、桑田警部は言った。
 そして、高野内と園町は、覆面車で大田区のI病院に向かった。運転するのは高野内である。
 午前9時過ぎ、高野内が運転する覆面車は、I病院に到着した。
 高野内と園町は、覆面車から降りると、病院の建物に入り、スタッフステーションへ行った。
 そして、女性の看護師の一人に警察手帳を見せて、
「鉄道警察隊ですが、黒坂由利さんはおられますかね」
 と、高野内は聞いた。
 すると、40歳くらいにみえる、その女性看護師は、
「今日は、黒坂は休みです」
 と答えた。
「そうですか」
 と、高野内は言ったあと、
「黒坂さんやその周辺で、最近、何か変わったこととかはありませんでしたか?」
 と、看護師の眼を見ながら言った。
 すると、看護師は、
「そうですね」
 と言ったあと、何かを思い出したような表情で、
「実は、黒坂さんにつきまとう男がいて、うちの病院の業務にも支障をきたすことがあって、困っていたのです」
 と言った。
「その男は、黒坂さんとはどういう関係の人ですか?」
 と、高野内が聞くと、
「うちの元患者です」
 と、看護師は、はっきりとした口調で答えた。
「患者だったのですか?」
 と、高野内が確認するように聞き返すと、
「そうです」
 と、看護師は言った。
「その男の名前、教えてもらえますか?」
 と、高野内が聞くと、
「ちょっとお待ちください。確認してきますので」
 と、看護師は言ったあと、いったん、高野内たちの前から去った。
 それから数分後、その看護師は、再び、高野内たちの前に戻ってきた。
 そして、高野内の顔を見ながら、
「刑事さん、黒坂さんにつきまとっていた男の名前は、室野祐治です」
 と言い、1枚のメモを高野内に渡した。
 そのメモには、
『室野祐治』
 と書かれていた。
 すると、園町が、
「高野内さん、室野祐治って、長野県の美ヶ原で殺された男と同一人物でしょうか?」
 と言った。
「その可能性もあるな」
 と、高野内は答えたあと、看護師の顔を見ながら、
「室野という男は、元患者でしたね」
 と、入念そうに言った。
「そうです」
 と、看護師が答えると、
「室野は、どういう病気でおたくの病院に来たのですか?」
 と、高野内は聞いた。
「3年ほど前に、怪我で救急搬送されて、うちの病院に来たのです。そのとき、黒坂さんが、その男の手当てとかをしたのです」
 と、看護師ははっきりとした口調で答えた。
「入院期間はどれくらいでしたか?」
 と、高野内が聞くと、
「救急搬送された患者にしては軽傷でしたので、その日のうちに帰宅してもらいました」
 と、看護師は言った。
「じゃあ、室野が、黒坂さんにつきまとうようになったのは、それ以降ですか?」
 と、高野内は、入念に聞いた。
「そうです」
 と、看護師は答えたあと、
「室野が搬送された翌日以降、しょっちゅううちの病院に、黒坂さんに会わせてほしいとか、勤務シフトを教えてほしいとか、住所や電話番号を教えてほしいとか、そういう電話が頻繁にかかってくるようになったのですよ」
 と、不快そうな顔で言った。
「完全にストーカー行為ですね」
 と、高野内は言ったあと、
「所轄の警察には相談に行かれましたか?」
 と聞いた。
「警察に行ったと思いますよ」
 と、看護師は答えた。
「どちらの警察署ですか?」
 と、高野内が言うと、
「多分、大井町警察署です」
 と、看護師は答えた。
「わかりました」
 そして、高野内たちは、看護師に礼を言って、I病院をあとにして、覆面車で大田区にある大井町警察署へ向かった。
 10時半頃、高野内と園町は、大井町警察署に到着した。
 覆面車から降りると、警察署の建物に入り、入り口付近にいた制服警官に、警察手帳を見せて、用件を伝えた。
 しばらくすると、スーツ姿の男が1人、高野内たちのそばに来た。男の年齢は50歳前後に見えた。
「鉄道警察隊の高野内さんでしょうか?」
 と、男が確認するように言うと、
「そうですが」
 と、高野内は言った。
 すると、その男は、
「私は、大井町署刑事課の平岡(ヒラオカ)といいます」
 と、警察手帳を見せながら、名乗った。
 階級は警部補だった。
「黒坂由利さんの件で、確認したいことがあるのですが」
 と、高野内が言うと、
「それは、どのようなことかな?」
 と、平岡警部補は聞き返した。
「黒坂由利は、室野祐治という男から、ストーカー行為をされていたと聞いたのですが、その件での相談はありましたか」
 と、高野内は、入念そうに聞いた。
「ええ。何度もあったよ」
 と、平岡警部補は答えたあと、
「室野祐治という男は、ストーカーの常習犯のようだからね。うちの署からも、そいつに禁止命令を出したよ。まあ、それでも懲りてないようだけど」
 と、呆れたような言った。
「その室野という男は、長野県の美ヶ原で殺されたのですね」
 と、高野内が言うと、
「そうだけど、その件は、うちの署は関係ないよ」
 と、平岡は言ったあと、
「まあ、その男は殺されても、同情できないけどね」
 と言った。
「あとで、室野祐治の自宅に行ってみたいと思います。室野祐治の住所とかはご存じですよね」
 と、高野内が言うと、平岡は、
「ちょっと待ってくれ」
 と言ったあと、いったん、高野内たちの前から去った。
 そして、数分後、高野内たちのそばに戻ると、
「室野の住所は、東京都八王子市…」
 と、高野内たちに、室野祐治の住所を言った。
 室野の住所は、八王子市内にあるアパートのようだ。 
「高野内さんは、室野の自宅アパートに、何か捜査の手掛かりがあると考えているのかな?」
 と、平岡が聞くと、
「まだわかりませんが、何かありそうな気がするのです」
 と、高野内は答えた。
 そして、高野内と園町は、平岡警部補に、礼を言って、大井町署をあとにした。

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