10月21日の朝、高野内は、東京駅分駐所に出勤した。
 桑田警部がいたほか、前後して、園町、鶴尾、奈々美も出勤してきた。
「高野内君、昨日、八王子の室野が住んでいたアパートで、何か事件解決への手掛かりは見つけられたかね?」
 と、桑田警部が聞くと、
「美ケ原で室野が殺害された件と、新幹線『のぞみ218号』の車内で早崎が殺害された件は、関連があると、私は、ますます確信しました」
 と、高野内は、はっきりとした口調で答えた。
 すると、桑田警部は、不思議そうな顔で、
「しかし、長野県警から聞いた情報だと、室野が殺害された時刻は、8日の午前7時から8時の間で、その日のその時間、黒坂由利には犯行は無理だというアリバイもあるんだぞ」
 と言った。
「そうですけど、室野殺害の件は、間違いなく、黒坂由利が関係しています」
 と、高野内は言った。
「だから、どういうことかね? 高野内君」
 と、桑田警部は、怪訝そうな顔をすると、高野内は、
「確かに、室野が美ケ原で殺害された時刻、黒坂由利には、新大阪駅付近のホテルにいたというアリバイがあり、黒坂由利が室野を直接殺害することは不可能です」
 と言った。
「そうだろう。高野内君、いったい何を言おうとしているのかね?」
 と、桑田警部が、不思議そうな顔をすると、高野内は、
「室野が殺されたことで最も利する人物は、黒坂由利で間違いありません。しかし、さっきも言ったとおり、黒坂由利には、室野を直接殺害することはできません」
 と、説明するような言い方で答えた。
 それを聞いた園町が、
「高野内さん、まさか、それって…」
 と言いかけたところで、高野内が、
「園町もわかったか!」
 と言うと、
「交換殺人ですか!」
 と、少し驚いたように言った。
 すると、桑田警部は、
「そういうことか。高野内君、詳しく説明をしてくれ」
 と言った。
「我々は、新幹線『のぞみ218号』の車内で、早崎が殺害された件は、てっきり岩崎正信の犯行だと思い込んでいました。
 しかし、捜査を進めていくうちに、殺害時刻には、岩崎には、中央本線の特急『あずさ10号』に乗っていたというアリバイが成立していたことがわかり、なかなか捜査が進展しませんでした。
 ですが、岩崎が殺害のターゲットとしている早崎を、黒坂由利に殺害させて、その見返りに、岩崎は、黒坂が殺害したがっている室野を殺害したと考えれば、謎は解けてきます」
 と、高野内は、自信たっぷりな言い方をした。
 今度は、それを聞いた鶴尾が、
「なるほど! 岩崎正信は、早崎殺害の件については、アリバイが成立していましたけど、室野殺害の件については、アリバイはありませんね」
 と、納得したように言った。
 すると、高野内は、
「そのとおりだよ。逆に、黒坂由利は、室野殺害の件については、アリバイはあるが、早崎殺害の件では、アリバイはあるとはいえないし、殺害方法からも、黒坂の犯行に間違いないよ」
 と、はっきりとした口調で言った。
「これで、2件の殺人は、どちらとも、ホシのアリバイは崩れたな」
 と、桑田警部は、嬉しそうな顔で言った。
「しかし、まだ解けていない謎も残っています」
 と、高野内は言った。
「何だね? 高野内君」
 と、桑田警部が聞くと、
「一昨年の新千歳空港と岡山駅での事件です」
 と、高野内は答えた。
「そうか。まだそれらの件のアリバイは成立したままだったな」
 と、桑田警部は言った。
「そうです。一昨年の2つの殺人事件と、新幹線『のぞみ218号』での事件、それに、美ケ原での事件は、すべて関連があると、私は思います」
 と、高野内は、はっきりとした口調で言った。
「しかし、どうやって、一昨年の岩崎正信のアリバイを崩すんだね?」
 と、桑田警部が困ったような顔で言うと、
「一昨年の時刻表を見ながら、アリバイが崩せるか検証したいと思います」
 と、高野内は言った。
 そして、高野内は、
「鶴尾、一昨年10月の時刻表を出してくれ!」
 と、鶴尾のほうを向いて言うと、
「わかりました」
 と、鶴尾は返事して、それから数分後、2011年10月号の時刻表を高野内の前に持ってきた。
「ありがとう。これで、アリバイ崩しができるか、調べてみよう」
 高野内は、張り切っていた。
 そのときの高野内は、岩崎正信のアリバイを崩したいという思いでいっぱいだった。