浜崎ヒカルのブログ推理小説

ブログを利用して推理小説を書いています。 鉄道ミステリーが中心になります。

2024年04月

 高野内と園町は、岩沢雅昭の自宅に入った。
 解錠したのは、捜査一課の岡田警視で、玉森警部も一緒にいた。
 玄関から中に入ると、靴を脱いで上がった。
 そして、白い手袋をはめた手でドアを開けて、居間と思われる部屋に入った。
 一人暮らしの部屋なのか、室内は、あちこち散らかっていたが、何者かに物色されたようには見えなかった。
 居間と思われる部屋には、大きなテレビがとブルーレイレコーダーが設置されていた。
 その部屋の隅のほうには、デスクトップパソコンが置かれていた。
「岩沢雅昭は、いったい、誰から、どのような依頼を受けていたのでしょうか?」
 と、高野内が言うと、玉森は、
「それは、我々も調べている最中だが、そのホトケさんが受けた調査依頼の数は、確認できる限りでは、ここ3年間で10件だけなんだよ」
 と言った。
 それを聞いた高野内は、驚いた顔で、
「3年間で、たったの10件ですか?」
 と、確認するように言った。
 すると、今度は、園町が、
「異常に少ないですね」
 と、怪訝そうな顔で言った。
「私も同感だよ」
 と、玉森は言った。
「ホトケさん、1件の調査で、探偵料をいくらもらっていたのかはわからないですけど、3年間で10件は少なすぎますね。まして、マイカーがレクサスだと…」
 と、園町が言いかけると、
「それだけだと、マイカーどころか、探偵業でまともな生活ができたとは思えませんね」
 と、高野内は言った。
「あなたたちもそう思うか」
 今度は、岡田が、確認するように言った。
「そうですね」
 と、高野内が言うと、
「ホトケさんは、探偵の業務中、何かのトラブルに遭遇して、殺害された可能性が高いと、私は思うんだ」
 と、岡田は言った。
「私も、そうだと思います」
 と、高野内が言うと、
「高野内さんは、どういったトラブルに遭遇したと思うのかな?」
 と、岡田が聞いた。
 すると、高野内は、
「カネに絡んだことでトラブルに巻き込まれて、殺害された可能性があると、私は思います」
 と、はっきりとした口調で答えた。
「カネですか?」
 と、園町が言うと、
「ああ。岩沢雅昭は、一匹狼の私立探偵だが、都区内の一戸建て住宅に住んでいて、国産車とはいえ高級車を所有しているのに、探偵の収入源となる調査依頼が、異常に少ないんだ」
 と、高野内は言った。
「じゃあ、岩沢雅昭は、探偵料以外のカネを、何かあくどい方法で得ていたのでしょうか?」
 と、園町が言うと、高野内は、
「おそらく、その可能性が高いな」
 と言った。
 すると、今度は、岡田が、
「高野内さん、園町さん、私たちも、その線で調べてみようと思っているところだよ」
 と言った。
「どうやって、カネを得ていたのでしょうかね?」
 と、園町が考え込むように言うと、高野内は、
「ホトケさんは、私立探偵だからな…」
 と言いかけた。
「そうですけど」
 と、園町が言うと、
「ホトケさんは、信用調査とかの依頼の対象となった人物や団体の関係者をゆすって、大金を得ていたとは考えられないか」
 と、高野内は、園町の顔をじっと見ながら言った。
 すると、今度は、岡田が、
「その可能性もありそうだね」
 と言った。
「じゃあ、岩沢は、神田駅のトイレで、ゆすりのターゲットと会って、ゆすろうとして殺害された可能性が高いですね」
 と、園町は、はっきりとした口調で言った。
「俺も、そう思うよ」
 と、高野内は言った。
 こうして、高野内たちは、岩沢雅昭が殺害された理由について推測できたが、まだ犯人像についてはわからなかった。
 そのあと、高野内と園町は、岩沢の自宅内に、捜査の手掛かりになりそうなものが、まだ残っていないか捜したが、特に目ぼしいものは見つからなかった。
 そういうものは、大体、本庁の捜査員が既に押収したのだろう。
 高野内と園町は、岩沢の自宅をあとにして、覆面車に乗り、東京駅分駐所に戻ることにした。
 岡田と玉森も、岩沢の自宅の施錠をして、本庁に戻った。

 午前9時すぎ、高野内が運転する覆面車は、豊島区長崎地区を走っていた。
 助手席には園町が座っていた。
「岩沢の自宅はどこだろうか」
 と、高野内は、ハンドルを握りながら言うと、
「もう近いですよ」
 と、園町は、カーナビを見ながら言った。
 それから間もなく、園町は、
「あの家だと思います」
 と、一軒の一戸建て住宅を指差した。
 2階建ての住宅で、外見から、かなり年季の入った感じの建物だった。
 昭和時代に建てられたのだろうか。
 高野内は、その住宅の門の前に覆面車を止めた。
 そして、高野内と園町は、覆面車から降りた。
 門のそばにあるカーポートには、シルバーメタリックのレクサスESが止まっていた。
 古惚けた小さな一戸建て住宅にはミスマッチな感じがした。
 クルマがカーポート内にあることから、岩沢は、自宅から探偵事務所までは、電車で通っていたのだろう。
「中に入ってみるか」
 と、高野内は、白い手袋をはめて、門扉を開けた。
 そして、高野内と園町の2人は、玄関の扉へ向かって歩いた。
 玄関には鍵がかかっていて、扉は開かなかった。
「高野内さん、俺たち、合鍵持っていないですから、中に入れませんよ」
 と、園町が言うと、
「仕方がない。特殊工具で開けるか」
 と、高野内は言いながら、覆面車のトランクを開けて、工具の入った袋を取り出した。
 そして、玄関のドアの鍵を解錠しようとした矢先、背後から、
「おい! お前ら、何をしている?」
 と、若い男の声が聞こえた。
 振り向くと、1人の制服警察官がいた。
 その警察官は、地域課の制服を着ているが、制帽の代わりに、自転車用のヘルメットをかぶっていた。
 交番の巡査のようだ。
 高野内たちのほうを見て、鋭い眼で睨んでいた。
「俺たちは、事件の捜査のためにやっているんだ」
 と、高野内が制服の警察官に向かって言うと、
「そんな出まかせが通用すると思っているのか!」
 と、警察官は、強い口調で言った。
 高野内と園町は、上着の内ポケットから、急いで警察手帳を出した。
「俺は、鉄道警察隊の高野内だ」
「同じく、鉄道警察隊の園町だ」
 すると、制服の警察官は、突然、表情を変え、
「それは、大変失礼しました」
 と、頭を下げながら言ったあと、
「実は、近所の住人から、この数日間、岩沢さん宅の付近を不審な人物がうろついているという通報があって、パトロールを強化していたのですよ」
 その制服警察官は、豊島区長崎地区にある交番の巡査で、佐久間(サクマ)と名乗った。
 年齢は20代前半くらいだろう。
「俺たちは、この家の住人の岩沢雅昭が、神田駅で殺害された件について、捜査をしているんだ」
 と、高野内が言うと、
「そういえば、本庁の捜査一課の捜査員も、何度か、ここに来られていましたね」
 と、佐久間巡査は言った。
「岡田警視と玉森警部か?」
 と、高野内が確認するように言うと、
「はい。そうです」
 と、佐久間巡査は、はっきりとした声で答えた。
「ところで、岩沢雅昭の評判とかはどうなんだ?」
 と、高野内が聞くと、
「あまり近所付き合いがない人のようですが、一人暮らしなのに、昼間から家にいるのか、灯りが点いていたり、また別の日には、高そうな服を着て、自家用車のレクサスで外出したり、またある日には、久しぶりに大金が入りそうだとかを、近所の何人かに話していたことがあったそうです」
 と、佐久間巡査は、はきはきとした口調で答えた。
「岩沢雅昭が、どんな人物から、どのような依頼を受けていたかも、気になるな」
 と、高野内は、岩沢の自宅の建物を見ながら言った。
 すると、今度は、園町が、
「そうですね。小さな古い家とはいえ、都区内で一戸建てに住んでいて、マイカーがレクサスESですから、かなりの探偵料が入らないと、到底生活できないと思いますよ」
 と、はっきりとした口調で言った。
「俺も、何か引っかかるんだよな」
 と、高野内は、考え込んだような顔で言った。
「それについては、私にはわかりかねますね」
 と、佐久間巡査は言った。
 それから間もなく、スーツ姿の男2人が、岩沢雅昭の自宅の門に近づいてきた。
「ご苦労さん」
 と、聞き覚えのある声が聞こえた。
 よく見ると、岡田警視と玉森警部だった。
「ご苦労様です」
 と、佐久間巡査は、岡田たちのほうを向いて、頭を下げた。
 岡田は、岩沢の自宅の玄関のほうに目を向けながら、
「高野内さん、園町さん、やっぱり、ここに来たか」
 と言った。
 それに続いて、玉森は、
「岩沢雅昭について、嗅ぎまわっていたようだな」
 と、高野内たちのほうをじっと見ながら言った。
「まあ、そうですね。ホトケさんは、神田駅で殺害されたのですから、我々も、捜査しないわけにはいきませんよ」
 と、高野内は、苦笑しながら言った。
 すると、岡田は、
「高野内さんと園町さんが来ることは、我々も想定内だよ。これから、合鍵で中に入るから、もしよかったら、一緒に家の中を調べてみるかい?」
 と言った。
 そして、高野内と園町は、岡田警視や玉森警部と一緒に、玄関から中に入ることにした。
 佐久間巡査は、
「では、私はこれで失礼します」
 と言って、自転車に乗って走り去った。
 交番に戻るのだろう。
 岡田は、玄関を解錠し、ドアを開けた。
 そして、岡田、玉森に続いて、高野内と園町は、玄関から中に入った。

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