3月30日の午前7時頃、高野内は、東京駅分駐所に出勤した。
それから、間もなく、園町も出勤した。
しばらくすると、香山警部も出勤してきた。
「おはようございます」
と、高野内と園町があいさつすると、香山警部は、
「おはよう」
と返事をしたあと、
「高野内君、園町君、昨日言ったとおり、神河芸能に行ってみてくれたまえ」
と言った。
「わかりました。では、9時頃、行きたいと思います」
と、高野内は言った。
「そうか。行きたまえ。ただし、警察に抗議が来るようなことをしたり言ったりしないようにな」
と、香山警部は、念を押すように言った。
「はい。わかりました」
と、高野内は返事した。
そして、時計の針が9時に近づいたとき、高野内と園町は、覆面車で出発した。
向かったのは、もちろん、神河芸能が入居するビルである。
そのビルは、東京都港区にある。
高野内が運転する覆面車は、港区の神河芸能に向かって走った。
道路は混雑していたが、午前9時半より少し前に、神河芸能が入居する雑居ビルの前に到着した。
ビルの前の道路には駐車できないので、付近にある有料駐車場に車を止めて、少し歩いた。
そして、高野内と園町は、ビルに入ると、エレベーターに乗り、5階に昇った。
そのビルの5階のフロア全体が、神河芸能のオフィスらしい。
エレベーターを降りると、「神河芸能株式会社」の文字があるドアを開けて、中に入った。
「何のご用件でしょうか?」
と、事務員らしい女性が言った。
高野内と園町は、すぐに警察手帳を見せて、
「代表取締役の神河さんにお会いしたいのですが」
と言った。
その女性は、
「警察の方ですか」
と少し驚いた声で言ったあと、
「少々お待ちください」
と言った。
少し経つと、40代半ばくらいに見えるスーツ姿の男が出てきた。
眼鏡をかけていて、身長は170センチ台半ばくらいだろう。
その顔は、神河芸能のホームページに載っていた、神河貴伸に間違いなさそうだ。
「また警察ですか。しつこいな」
と、男は、不快そうな表情を見せた。
すると、高野内は、
「また警察って、どういうことですか。私たちは初対面ですよ」
と、男の顔をじっと見ながら言った。
「昨日も、警察の人が来て、まるで私が殺人犯みたいなことを言いながら、根掘り葉掘り質問をしてきたのですよ!」
と、男は言った。
「昨日来たのは、もしかすると、本庁の捜査員じゃないですか。申し遅れましたが、私は、鉄道警察隊の高野内といいます」
と、高野内は警察手帳を見せながら言った。
すると、男は、
「私は、代表取締役社長の神河です」
と言ったあと、
「うちの会社は、人気タレントの高沢レナ君を失って、今、大変なときなんだ。それなのに、いきなり来て、しつこく質問ばかりして、なんで警察の人は無神経なんだ!」
と、怒ったような声を出した。
「お気持ちはわかりますけど、捜査上必要なことですので」
と、高野内が言うと、今度は、園町が、
「3月27日の夜10時頃、どこで何をしていたか、話してもらえますか?」
と、神河の顔をじっと見ながら言った。
すると、神河は、
「アリバイですか」
と言ったあと、
「その時間なら、大阪にいましたよ」
と答えた。
「大阪ですか」
と、高野内が確認するように言うと、
「そうですよ。大阪駅の近くにあるホテルG大阪に泊まっていましたよ」
と、神河は、嫌そうな顔で答えた。
「それを証明できる人はいますか?」
と、高野内が言うと、
「いませんよ。一人でしたから」
と、神河は答えたあと、
「だからといって、私が誰かを殺したことにはならないでしょう」
と、不快そうな顔で言った。
「そうですけど、参考までにお聞きしました」
と、高野内は言った。
「だったら、お引き取りください。私は、忙しいんだから!」
と、神河は、やや大きな声で言った。
「わかりました」
と、高野内は言ったあと、
「では、失礼します」
と、高野内と園町は言って、神河芸能をあとにした。
そして、雑居ビルから出て、覆面車で、東京駅分駐所に戻った。
高野内と園町が東京駅分駐所に戻ったとき、時刻は11時に近づいていた。
分駐所には、香山警部がいた。
「ご苦労さん」
と、香山が言うと、高野内は、
「神河芸能の社長の神河貴伸に会ってきましたが、何か隠しているような感じでした。奴については、いろいろ調べてみる必要があると思います」
と、強い口調で言った。
すると、香山は、
「そうか。それで、神河という男は、27日の夜のアリバイはあったのかね?」
と言った。
「大阪にいたと主張していました。大阪駅近くのホテルに泊まっていたと言っていました」
と、高野内が言うと、
「そのアリバイ、裏が取れているのかね?」
と、香山は言った。
「いいえ。真偽については、これから調べなければなりません」
と、高野内は答えた。
それに続いて、今度は、園町が、
「神河貴伸のことですが、27日のアリバイのことだけではなく、その男の過去についても、徹底的に調べる必要があると、私は思います」
と言った。
「そうか。わかった。神河について、よく調べてみてくれ」
と、香山は言った。