浜崎ヒカルのブログ推理小説

ブログを利用して推理小説を書いています。 鉄道ミステリーが中心になります。

2025年05月

 3月30日の午前7時頃、高野内は、東京駅分駐所に出勤した。
 それから、間もなく、園町も出勤した。
 しばらくすると、香山警部も出勤してきた。
「おはようございます」
 と、高野内と園町があいさつすると、香山警部は、
「おはよう」
 と返事をしたあと、
「高野内君、園町君、昨日言ったとおり、神河芸能に行ってみてくれたまえ」
 と言った。
「わかりました。では、9時頃、行きたいと思います」
 と、高野内は言った。
「そうか。行きたまえ。ただし、警察に抗議が来るようなことをしたり言ったりしないようにな」
 と、香山警部は、念を押すように言った。
「はい。わかりました」
 と、高野内は返事した。
 そして、時計の針が9時に近づいたとき、高野内と園町は、覆面車で出発した。
 向かったのは、もちろん、神河芸能が入居するビルである。
 そのビルは、東京都港区にある。
 高野内が運転する覆面車は、港区の神河芸能に向かって走った。
 道路は混雑していたが、午前9時半より少し前に、神河芸能が入居する雑居ビルの前に到着した。
 ビルの前の道路には駐車できないので、付近にある有料駐車場に車を止めて、少し歩いた。
 そして、高野内と園町は、ビルに入ると、エレベーターに乗り、5階に昇った。
 そのビルの5階のフロア全体が、神河芸能のオフィスらしい。
 エレベーターを降りると、「神河芸能株式会社」の文字があるドアを開けて、中に入った。
「何のご用件でしょうか?」
 と、事務員らしい女性が言った。
 高野内と園町は、すぐに警察手帳を見せて、
「代表取締役の神河さんにお会いしたいのですが」
 と言った。
 その女性は、
「警察の方ですか」
 と少し驚いた声で言ったあと、
「少々お待ちください」
 と言った。
 少し経つと、40代半ばくらいに見えるスーツ姿の男が出てきた。
 眼鏡をかけていて、身長は170センチ台半ばくらいだろう。
 その顔は、神河芸能のホームページに載っていた、神河貴伸に間違いなさそうだ。
「また警察ですか。しつこいな」
 と、男は、不快そうな表情を見せた。
 すると、高野内は、
「また警察って、どういうことですか。私たちは初対面ですよ」
 と、男の顔をじっと見ながら言った。
「昨日も、警察の人が来て、まるで私が殺人犯みたいなことを言いながら、根掘り葉掘り質問をしてきたのですよ!」
 と、男は言った。
「昨日来たのは、もしかすると、本庁の捜査員じゃないですか。申し遅れましたが、私は、鉄道警察隊の高野内といいます」
 と、高野内は警察手帳を見せながら言った。
 すると、男は、
「私は、代表取締役社長の神河です」
 と言ったあと、
「うちの会社は、人気タレントの高沢レナ君を失って、今、大変なときなんだ。それなのに、いきなり来て、しつこく質問ばかりして、なんで警察の人は無神経なんだ!」
 と、怒ったような声を出した。
「お気持ちはわかりますけど、捜査上必要なことですので」
 と、高野内が言うと、今度は、園町が、
「3月27日の夜10時頃、どこで何をしていたか、話してもらえますか?」
 と、神河の顔をじっと見ながら言った。
 すると、神河は、
「アリバイですか」
 と言ったあと、
「その時間なら、大阪にいましたよ」
 と答えた。
「大阪ですか」
 と、高野内が確認するように言うと、
「そうですよ。大阪駅の近くにあるホテルG大阪に泊まっていましたよ」
 と、神河は、嫌そうな顔で答えた。
「それを証明できる人はいますか?」
 と、高野内が言うと、
「いませんよ。一人でしたから」
 と、神河は答えたあと、
「だからといって、私が誰かを殺したことにはならないでしょう」
 と、不快そうな顔で言った。
「そうですけど、参考までにお聞きしました」
 と、高野内は言った。
「だったら、お引き取りください。私は、忙しいんだから!」
 と、神河は、やや大きな声で言った。
「わかりました」
 と、高野内は言ったあと、
「では、失礼します」
 と、高野内と園町は言って、神河芸能をあとにした。
 そして、雑居ビルから出て、覆面車で、東京駅分駐所に戻った。

 高野内と園町が東京駅分駐所に戻ったとき、時刻は11時に近づいていた。
 分駐所には、香山警部がいた。
「ご苦労さん」
 と、香山が言うと、高野内は、
「神河芸能の社長の神河貴伸に会ってきましたが、何か隠しているような感じでした。奴については、いろいろ調べてみる必要があると思います」
 と、強い口調で言った。
 すると、香山は、
「そうか。それで、神河という男は、27日の夜のアリバイはあったのかね?」
 と言った。
「大阪にいたと主張していました。大阪駅近くのホテルに泊まっていたと言っていました」
 と、高野内が言うと、
「そのアリバイ、裏が取れているのかね?」
 と、香山は言った。
「いいえ。真偽については、これから調べなければなりません」
 と、高野内は答えた。
 それに続いて、今度は、園町が、
「神河貴伸のことですが、27日のアリバイのことだけではなく、その男の過去についても、徹底的に調べる必要があると、私は思います」
 と言った。
「そうか。わかった。神河について、よく調べてみてくれ」
 と、香山は言った。

 3月29日の午後4時過ぎ、高野内と園町は、東京駅分駐所に戻っていた。
 高野内は、パソコンで高沢レナが所属していた芸能事務所のホームページを検索した。
 すると、神河芸能(カミカワ・ゲイノウ)という芸能事務所に所属していることがわかった。
 そのホームページには、高沢レナの訃報についての文章が載っていた。
 ホームページ内には、芸能事務所の所在地や代表取締役の氏名も載っていた。
 所在地は、東京都港区で、代表取締役は、神河貴伸(カミカワ・タカノブ)という名前だった。
 顔写真の画像も載っていた。
 それを見ながら、高野内は、突然、
「あっ、もしかすると…」
 と、やや大きな声を出した。
「どうしたのですか?」
 と、園町が言うと、
「高沢レナが所属する芸能事務所は、神河芸能という会社名で、代表取締役が神河という苗字なんだ」
 と、高野内は、声を大きくしながら言った。
 すると、園町は、
「会社名も代表取締役の苗字も、漢字で書くと、はじめの文字が『神』ですね」
 と言った。
 「神」の文字は、岩沢の事務所のカレンダーに書かれていた。
 そのときは、まだその意味がわからなかった。
「岩沢が、カレンダーに書いた『神』の文字は、神田駅ではなく、神河芸能か神河貴伸を示していた可能性もありそうだな」
 と、高野内は言った。
 そのとき、高野内の背後に、香山警部が来た。
 そして、香山警部は、
「高野内君、捜査に進展があったようだな」
 と、少しうれしそうな顔で言った。
 高野内は、
「事件のカギは、神河芸能にありそうな気がするのです。その芸能事務所には、死亡したタレントの高沢レナが所属していたのですが、高沢レナは、岩沢雅昭に何かの依頼をしていたそうです」
 と、はっきりとした口調で言った。
「そうか。高野内君、明日、園町君と一緒に、神河芸能に聞き込みに行ってみたまえ」
 と、香山警部は言った。
「はい。ぜひ、行かせてもらいます」
 と、高野内は言った。
 そのあとも、高野内は、神河芸能のホームページの閲覧を続けていた。
「あっ、杉谷達也(スギタニ・タツヤ)も神河芸能の所属か」
 と、高野内は、やや大きな声を出した。
 杉谷達也は、26歳の人気俳優である。
 ホームページには、顔写真も載っていた。
 それを聞いた涼子は、
「そういえば、昨日、東京駅構内をパトロールしていたときに、杉谷達也らしい男の人を見ましたわ」
 と、何かを思い出したように言った。
「そうか。でも、杉谷達也は、まだ事件に関係あるとは限らないだろう」
 と、高野内は言った。
「そうですけど」
 と、涼子は言った。
 そのあと、高野内と園町は、東京駅構内で防犯目的のパトロールをして、夜の10時頃、退勤した。

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