午後3時が近づいていたとき、鉄道警察隊東京駅分駐所では、『のぞみ218号』の車内で早崎裕允という男が死亡していた事件の捜査に関する話し合いが行われていた。
 死因は、青酸中毒死ということがわかっていて、死亡した男には恐喝の前科があったことも判明した。
 死亡した早崎は、自殺ではなく、他殺の可能性が極めて高く、殺人事件の疑いで捜査する方針となった。
 そのとき、分駐所には、鉄道警察隊の高野内たちだけではなく、捜査一課の佐田真由子警視と岡田俊一警部もいた。
 捜査の指揮は、捜査一課がとることになった。
 死亡した早崎裕允は、年齢35歳。岡山県出身で、恐喝罪の前科があることがわかっている。
「害者の早崎裕允は、過去に何度か恐喝罪で逮捕されているわ」
 と、真由子が言い、それに続いて、
「ですから、また誰かに恐喝かそれに近いことをして、逆に殺害された可能性が高いと、我々は見ています」
 と、岡田は言った。
 すると、高野内は、
「俺も同感です。ですから、早崎裕允の自宅とかを調べて、早崎に恐喝とかされていた人間がいないか捜してみたいと思うのですが」
 と言った。
「じゃあ、高野内さんと園町さんに、早崎裕允の自宅アパートを調べてもらおうかしら」
 と、真由子は微笑しながら言った。
 そして、真由子は、
「早崎裕允の住所は…」
 と言いながら、ホワイトボードに書いた。
 早崎は、東京都足立区竹ノ塚のアパートに住んでいることがわかった。
「じゃあ、高野内さん、園町さん、お願いね」
 と、真由子は言い、それに続いて、
「それじゃ、僕たちは、いったん、本庁に戻るよ」
 と、岡田は言った。
 すると、高野内は、
「岡田警部、ほかの事件の捜査のためですか?」
 と聞いた。
「ああ。長野県の美ヶ原で殺害された男のことで、長野県警からも捜査協力依頼がきているから…」
 と、岡田は言いかけたところで、
「鉄警隊には関係ない事件だ」
 と、顔を逸らしながら言い、
「ちょっと、岡田君、余計なことを話したらダメでしょう」
 と、真由子は怒ったような声を出した。
「そんなこと言われたら、ますます知りたくなりますね」
 と、高野内が言うと、
「高野内さんたちには関係ないから、早く早崎裕允について調べなさい」
 と、真由子は、強い口調で言った。
「わかりました」
 と、高野内は言った。
 そして、午後3時20分を過ぎた頃、高野内と園町は、分駐所を出た。
 分駐所を出ると、覆面車に乗った。車は、黒色のマークXで、高野内が運転し、園町が助手席に乗っていた。
 高野内たちが乗った車が向かったのは、東京都内の足立区竹ノ塚にある早崎裕允の自宅アパートである。
 早崎の自宅から、どんな手がかりが見つかるのか、そのときの高野内たちには、まだわからなかった。