浜崎ヒカルのブログ推理小説

ブログを利用して推理小説を書いています。 鉄道ミステリーが中心になります。

カテゴリ: 和歌山線殺人事件

 3月30日の午後1時過ぎ、高野内と園町は、昼食をとったあと、分駐所から外出しようとした。
「高野内君、園町君、どこへ行くのかね?」
 と、香山警部が聞くと、
「神河についての情報がないかどうか、本庁に行って聞いてみたいと思います」
 と、高野内は答えた。
「本庁にか?」
 と、香山は少し表情を変えたあと、
「わかった。ただし、抗議が来るようなことはしないように!」
 と、念を押すように言った。
 そして、高野内と園町は、覆面車に乗って、警視庁本部に向かった。
 警視庁本部の本庁舎に着くと、高野内と園町は、捜査一課に行った。
 捜査一課に行くと、岡田警視と玉森警部に会った。
「高野内さんに園町さん、また来たのかね」
 と、岡田が言うと、高野内は、
「神河芸能の社長、神河貴伸のことを詳しく知りたくて、来ました」
 と、岡田のほうを向いて言った。
「やっぱり、あなたたちも神河貴伸について嗅ぎまわっているようだね」
 と、岡田は、淡々とした口調で言った。
「そうです」
 と、高野内は答えたあと、
「神田駅で岩沢雅昭が殺害された事件の捜査を進めるためには、神河芸能の社長である神河貴伸について、詳しく調べる必要がありそうですね」
 と、やや強い口調で言った。
「高野内さんの熱意は認めるよ」
 と、岡田は言ったあと、
「神河貴伸は、岩沢雅昭が殺害されたと思われる時間には、大阪にいたそうだよ」
「それは、私たちも、神河から聞きました。大阪駅近くのホテルG大阪に泊まっていたと言っていました」
 と、高野内が言うと、
「神河がチェックインした時刻は27日の午後6時頃で、翌日28日の朝7時20分頃にチェックアウトしたそうだよ。大阪府警に協力してもらって、ホテルのスタッフ数人に確認をとってもらったから、間違いないと思うよ」
 と、岡田は言った。
「本当ですか?」
 と、今度は、園町が確認するように聞くと、
「大阪府警からの話だと、ホテルのスタッフが嘘をついている感じはなかったそうだ」
 と、岡田は答えた。
「じゃあ、アリバイ成立ですか」
 と、高野内が不満そうな表情で言うと、
「現状では、そうだな」
 と、岡田は、残念そうな顔をした。
 そのあと、岡田が、
「高野内さん、園町さん、あなたたちは、神河貴伸がどのような人物かについて、調べているのだろう」
 と言うと、高野内と園町は、口を揃えるように、
「そうです」
 すると、今度は、玉森が、
「神河の経歴について知りたいのかな? それとも、ほかにも知りたいことや調べたいことがあるのかな?」
 と言った。
「そうですね」
 と、高野内は答えたあと、
「神田駅で殺害された岩沢は、私立探偵でしたが、高沢レナが依頼人の一人であることや、その高沢レナが翌日殺害されたことも引っかかりますね」
 と言った。
「それで、神河貴伸が、2つの事件に関係している可能性があると、言いたいのかな?」
 と、玉森が、高野内の顔をじっと見ながら言った。
「その可能性が高いと、私は思います」
 と、高野内は、はっきりとした口調で言った。
 すると、今度は、岡田が、
「高野内さん、神河が2つの事件にどう関係していると思っているのかな?」
 と言った。
 高野内は、
「岩沢は、高沢レナから何かの調査依頼を受けて、いろいろ調べているうちに、神河貴伸にたどり着き、神河の弱みを握りかけたのだと思います」
 と、説明するような口調で言った。
「それで、逆に神河に殺害されたと、推測するのかね」
 と、岡田が言うと、
「その可能性が高いと、私は思っています」
 と、高野内は言った。
「じゃあ、和歌山線の電車内で高沢レナを殺害したのも、神河貴伸だと思っているのかな?」
 と、岡田が聞くと、
「それは、調べてみないと、まだはっきりとしたことはいえませんが、高沢レナからの依頼で動いた岩沢が神河にたどり着いたあと、その調査依頼が高沢レナからのものだと、神河が知り得たとすれば、神河にとっては、高沢レナの存在自体が危険ということになります」
 と、高野内ははっきりとした口調で答えた。
 すると、岡田は、
「それで、神河貴伸について、詳しく調べたいのだね」
 と言った。
 高野内が、
「そうです」
 と答えると、岡田は、
「じゃあ、捜査二課にも尋ねてみてくれたまえ」
 と言った。
「捜査二課ですか?」
 と、高野内が入念そうに聞くと、
「そうだ。捜査二課に聞いてみると、高野内さんたちが知りたいことが得られるかもしれないよ」
 と、岡田は言った。
 捜査二課は、詐欺や横領、背任、脱税などの事件を担当する部署である。
 高野内と園町は、警視庁本庁舎内の捜査二課に行った。

 3月30日の午前7時頃、高野内は、東京駅分駐所に出勤した。
 それから、間もなく、園町も出勤した。
 しばらくすると、香山警部も出勤してきた。
「おはようございます」
 と、高野内と園町があいさつすると、香山警部は、
「おはよう」
 と返事をしたあと、
「高野内君、園町君、昨日言ったとおり、神河芸能に行ってみてくれたまえ」
 と言った。
「わかりました。では、9時頃、行きたいと思います」
 と、高野内は言った。
「そうか。行きたまえ。ただし、警察に抗議が来るようなことをしたり言ったりしないようにな」
 と、香山警部は、念を押すように言った。
「はい。わかりました」
 と、高野内は返事した。
 そして、時計の針が9時に近づいたとき、高野内と園町は、覆面車で出発した。
 向かったのは、もちろん、神河芸能が入居するビルである。
 そのビルは、東京都港区にある。
 高野内が運転する覆面車は、港区の神河芸能に向かって走った。
 道路は混雑していたが、午前9時半より少し前に、神河芸能が入居する雑居ビルの前に到着した。
 ビルの前の道路には駐車できないので、付近にある有料駐車場に車を止めて、少し歩いた。
 そして、高野内と園町は、ビルに入ると、エレベーターに乗り、5階に昇った。
 そのビルの5階のフロア全体が、神河芸能のオフィスらしい。
 エレベーターを降りると、「神河芸能株式会社」の文字があるドアを開けて、中に入った。
「何のご用件でしょうか?」
 と、事務員らしい女性が言った。
 高野内と園町は、すぐに警察手帳を見せて、
「代表取締役の神河さんにお会いしたいのですが」
 と言った。
 その女性は、
「警察の方ですか」
 と少し驚いた声で言ったあと、
「少々お待ちください」
 と言った。
 少し経つと、40代半ばくらいに見えるスーツ姿の男が出てきた。
 眼鏡をかけていて、身長は170センチ台半ばくらいだろう。
 その顔は、神河芸能のホームページに載っていた、神河貴伸に間違いなさそうだ。
「また警察ですか。しつこいな」
 と、男は、不快そうな表情を見せた。
 すると、高野内は、
「また警察って、どういうことですか。私たちは初対面ですよ」
 と、男の顔をじっと見ながら言った。
「昨日も、警察の人が来て、まるで私が殺人犯みたいなことを言いながら、根掘り葉掘り質問をしてきたのですよ!」
 と、男は言った。
「昨日来たのは、もしかすると、本庁の捜査員じゃないですか。申し遅れましたが、私は、鉄道警察隊の高野内といいます」
 と、高野内は警察手帳を見せながら言った。
 すると、男は、
「私は、代表取締役社長の神河です」
 と言ったあと、
「うちの会社は、人気タレントの高沢レナ君を失って、今、大変なときなんだ。それなのに、いきなり来て、しつこく質問ばかりして、なんで警察の人は無神経なんだ!」
 と、怒ったような声を出した。
「お気持ちはわかりますけど、捜査上必要なことですので」
 と、高野内が言うと、今度は、園町が、
「3月27日の夜10時頃、どこで何をしていたか、話してもらえますか?」
 と、神河の顔をじっと見ながら言った。
 すると、神河は、
「アリバイですか」
 と言ったあと、
「その時間なら、大阪にいましたよ」
 と答えた。
「大阪ですか」
 と、高野内が確認するように言うと、
「そうですよ。大阪駅の近くにあるホテルG大阪に泊まっていましたよ」
 と、神河は、嫌そうな顔で答えた。
「それを証明できる人はいますか?」
 と、高野内が言うと、
「いませんよ。一人でしたから」
 と、神河は答えたあと、
「だからといって、私が誰かを殺したことにはならないでしょう」
 と、不快そうな顔で言った。
「そうですけど、参考までにお聞きしました」
 と、高野内は言った。
「だったら、お引き取りください。私は、忙しいんだから!」
 と、神河は、やや大きな声で言った。
「わかりました」
 と、高野内は言ったあと、
「では、失礼します」
 と、高野内と園町は言って、神河芸能をあとにした。
 そして、雑居ビルから出て、覆面車で、東京駅分駐所に戻った。

 高野内と園町が東京駅分駐所に戻ったとき、時刻は11時に近づいていた。
 分駐所には、香山警部がいた。
「ご苦労さん」
 と、香山が言うと、高野内は、
「神河芸能の社長の神河貴伸に会ってきましたが、何か隠しているような感じでした。奴については、いろいろ調べてみる必要があると思います」
 と、強い口調で言った。
 すると、香山は、
「そうか。それで、神河という男は、27日の夜のアリバイはあったのかね?」
 と言った。
「大阪にいたと主張していました。大阪駅近くのホテルに泊まっていたと言っていました」
 と、高野内が言うと、
「そのアリバイ、裏が取れているのかね?」
 と、香山は言った。
「いいえ。真偽については、これから調べなければなりません」
 と、高野内は答えた。
 それに続いて、今度は、園町が、
「神河貴伸のことですが、27日のアリバイのことだけではなく、その男の過去についても、徹底的に調べる必要があると、私は思います」
 と言った。
「そうか。わかった。神河について、よく調べてみてくれ」
 と、香山は言った。

 3月29日の午後4時過ぎ、高野内と園町は、東京駅分駐所に戻っていた。
 高野内は、パソコンで高沢レナが所属していた芸能事務所のホームページを検索した。
 すると、神河芸能(カミカワ・ゲイノウ)という芸能事務所に所属していることがわかった。
 そのホームページには、高沢レナの訃報についての文章が載っていた。
 ホームページ内には、芸能事務所の所在地や代表取締役の氏名も載っていた。
 所在地は、東京都港区で、代表取締役は、神河貴伸(カミカワ・タカノブ)という名前だった。
 顔写真の画像も載っていた。
 それを見ながら、高野内は、突然、
「あっ、もしかすると…」
 と、やや大きな声を出した。
「どうしたのですか?」
 と、園町が言うと、
「高沢レナが所属する芸能事務所は、神河芸能という会社名で、代表取締役が神河という苗字なんだ」
 と、高野内は、声を大きくしながら言った。
 すると、園町は、
「会社名も代表取締役の苗字も、漢字で書くと、はじめの文字が『神』ですね」
 と言った。
 「神」の文字は、岩沢の事務所のカレンダーに書かれていた。
 そのときは、まだその意味がわからなかった。
「岩沢が、カレンダーに書いた『神』の文字は、神田駅ではなく、神河芸能か神河貴伸を示していた可能性もありそうだな」
 と、高野内は言った。
 そのとき、高野内の背後に、香山警部が来た。
 そして、香山警部は、
「高野内君、捜査に進展があったようだな」
 と、少しうれしそうな顔で言った。
 高野内は、
「事件のカギは、神河芸能にありそうな気がするのです。その芸能事務所には、死亡したタレントの高沢レナが所属していたのですが、高沢レナは、岩沢雅昭に何かの依頼をしていたそうです」
 と、はっきりとした口調で言った。
「そうか。高野内君、明日、園町君と一緒に、神河芸能に聞き込みに行ってみたまえ」
 と、香山警部は言った。
「はい。ぜひ、行かせてもらいます」
 と、高野内は言った。
 そのあとも、高野内は、神河芸能のホームページの閲覧を続けていた。
「あっ、杉谷達也(スギタニ・タツヤ)も神河芸能の所属か」
 と、高野内は、やや大きな声を出した。
 杉谷達也は、26歳の人気俳優である。
 ホームページには、顔写真も載っていた。
 それを聞いた涼子は、
「そういえば、昨日、東京駅構内をパトロールしていたときに、杉谷達也らしい男の人を見ましたわ」
 と、何かを思い出したように言った。
「そうか。でも、杉谷達也は、まだ事件に関係あるとは限らないだろう」
 と、高野内は言った。
「そうですけど」
 と、涼子は言った。
 そのあと、高野内と園町は、東京駅構内で防犯目的のパトロールをして、夜の10時頃、退勤した。

 3月29日の午後2時頃、高野内が運転する覆面車は、東京の千代田区内を走っていた。
 助手席には、園町が座っていた。
 午後2時を過ぎて、しばらくすると、高野内たちが乗った覆面車は、警視庁本部に到着した。
 高野内と園町は、覆面車から降りると、捜査一課を訪ねた。
 そして、岡田警視と玉森警部に会った。
「高野内さん、園町さん、わざわざ本庁まで、何の用件かな?」
 と、岡田が聞くと、
「岩沢雅昭が受けた調査の依頼者のリストがあれば、確認したいのですが」
 と、高野内は言った。
「やっぱり、そういうことか」
 と、岡田は言ったあと、
「ちょっと待ってもらえる?」
 と言ってから、玉森警部と一緒に、いったん高野内たちの前から離れた。
 それから、数分後、A4サイズのコピー用紙に何かが印刷されたものを持って、高野内たちの前に戻ってきた。
「我々も、何度も調べなおしたけど、ここ3年間の依頼者は、たったの10人だよ」
 と、玉森は言いながら、印刷された紙を、高野内に渡した。
 その紙には、依頼者の氏名と住所、それに、依頼があったと思われる年月日が印刷されていた。
 確かに、10人だった。
 高野内は、それらの依頼者の氏名などに目を向けた。
 それから、間もなく、
「あっ!」
 と、やや大きな声を出した。
「どうしたのですか? 高野内さん」
 と、園町が高野内の顔のほうを向くと、
「依頼者の一人に、高沢レナという名前があるのが気になったんだ」
 と、高野内は言った。
 依頼者の氏名の中に、「高沢レナ」の文字があった。
 住所は、東京都世田谷区である。
「高沢レナというと、もしかして…」
 と、園町が言いかけたとき、
「高沢レナがどうしたのかね?」
 と、岡田が言った。
 すると、高野内は、
「高沢レナって、タレントの高沢レナですよね?」
 と、確認するように聞いた。
「そうだよ。だが、彼女は亡くなっているけどね」
 と、岡田は答えた。
 それを聞いた高野内は、
「確か、和歌山線の電車内で亡くなったのですよね。ニュースで知りましたよ」
 と言った。
「そうだが、それが岩沢雅昭が殺害された件と関係あると言いたいのかな?」
 と、岡田は言った。
「まだはっきりと断定はできませんが、岩沢雅昭が亡くなった次の日に亡くなっているのが、引っかかりますね」
 と、高野内は、はっきりとした口調で言った。
 それに続いて、園町が、
「私も同感です」
 と言った。
 東京都内の神田駅で私立探偵が殺された次の日に、依頼人の一人が、遠く離れた和歌山線の電車内で死亡したのである。
 高野内たちは、それが気になってきた。
「高沢レナがどういう内容の依頼をしていたかは、我々も調べている最中だよ」
 と、玉森は言った。
「どういう依頼だったのですか?」
 と、高野内が聞くと、
「それは、まだはっきりとしたことは言えないな」
 と、玉森は答えた。
 それから、間もなく、
「私たちは、今、捜査すべき事件が多くて、忙しいんだ。ほかに用件がなければ、分駐所に戻りたまえ」
 と、岡田は、高野内の眼を見ながら言った。
「わかりました」
 と、高野内と園町は、返事をした。
 そして、高野内と園町は、警視庁の本庁舎をあとにして、覆面車で東京駅分駐所に戻った。

 正午頃、高野内と園町は、東京駅分駐所に戻った。
 分駐所には、香山警部と涼子、奈々美がいた。
 香山警部は、
「ご苦労さん」
 と言ったあと、
「岩沢雅昭の自宅で、何か捜査の手掛かりになるものは見つかったかね?」
 と、高野内のほうを向いて言った。
「特に、これといったものは見つかりませんでしたが、ホトケさんは、よからぬことをして大金を得ようとして殺害された可能性が高いことがわかりました」
 と、高野内は答えたあと、殺害された理由の推測について、説明した。
 すると、香山警部は、
「なるほど。ホトケさんは、ゆすりをしようとして、殺害されたと推測するのかね?」
 と言った。
「その可能性が高いと思います」
 と、高野内は言ったあと、
「しかし、まだ犯人像がわかっていません。岩沢雅昭は、神田駅のトイレで、誰と会っていたのかも…」
 それを聞いた香山警部は、
「肝心な犯人像がわからないと、捜査は進展しないぞ」
 と、やや不満そうな顔をした。
「岩沢が、誰にどんな調査を依頼されて、誰をゆすっていたかを調べることが、今回の事件解決への鍵になると、私は思います」
 と、高野内は、真剣そうな顔で言った。
 すると、今度は、涼子が、
「私立探偵が受けた調査依頼が、3年間でたったの10件って、少なすぎますわね」
 と、怪訝そうな顔をした。
 それを聞いた奈々美は、
「ここ3年間の依頼者のリストが手に入れば、何か進展しそうですね」
 と、高野内のほうを向いて言った。
「そうなんだ」
 と、高野内は言ったあと、
「本庁の捜査員に尋ねてみたいな」
 すると、今度は、園町が、
「教えてもらえるといいですね」
 と言った。
 そのあと、高野内と園町は、分駐所内で、昼食を食べながら、しばらく休憩した。
 そして、午後1時半頃、高野内と園町は、香山警部のほうを向いて、
「警部、これから本庁へ行ってもよろしいでしょうか?」
 と、頭を下げながら言った。
「本庁に行って、どうするつもりなんだ?」
 と、香山警部が聞くと、
「岩沢が、ここ3年間に、誰からどういった調査依頼を受けていたかを、訪ねてみたいのです」
 と、高野内は答えた。
「そうか。わかった。ただし、本庁から抗議が来るようなことを言ったりしたりしてはならんぞ!」
 と、香山警部は、釘を刺すように言った。
「わかりました」
 と、高野内は言った。
 そして、高野内と園町は、覆面車に乗って、警視庁本部に向かった。

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